(注)米CNNによる大統領選出口調査の主な内容。回答数は22,914(2024年)、15,590人(2020年)。空白は「その他・無回答」。カッコ内は調査対象者の構成比(%)。毎日新聞(2020.11.16)によれば、このデータは、米主要メディアの共同調査によっており、投票日の対面調査以外に期日前投票の利用者への対面調査、郵便投票の利用者への電話調査なども含まれるという。
(資料)米CNN選挙サイト(2024.11.6、2020.11.14)、ただし、2008〜12年の「信仰」「政策課題」は毎日新聞(2008.11.6、2012.11.8)
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バイデン大統領が不出馬を表明し、民主党候補がカマラ・ハリスとなり、民主党支持層はかなり盛り上がりを見せていることがギャラップ社の調査で明らかとなった。 この点を示すデータを下図に掲げた。3月時点では熱心さが55%だった民主党支持層の回答率が8月には78%と過去最高レベルにまで急騰している。他方、共和党支持層は同時期に59%から64%へとやや上昇だったので、両者の熱心さは大きく逆転しているのである。 しかし、その後、トランプ氏が盛り返し、結局、トランプ氏が勝利した。 ハリス候補とトランプ候補の支持層の大きな違いや今回の大統領選の逸話・背景などについては図録j045参照。 出口調査の結果を前回と比較し、大きく変化した点からトランプ氏勝利の要因を探ると次の2点が決定的だったと見られる。@ヒスパニック票がトランプ氏に多く流れた。これは、新規の移民流入を押さえることが既存のヒスパニック系米国人にとって有利であるためとカトリックが多いヒスパニックにとって中絶については民主党的な考え方にくみしにくいからであろう。A経済状態が悪いと考える有権者は政権党と反対の党に入れる傾向が毎回見られるが、今回は、経済状態が悪いと考えている比率が67%と前回の50%からかなり増加し(下図参照)、結果として共和党有利となったためである。 Aについては、日本のマスコミは米国大手メディア依存からトランプ有利を見抜けなかったと述べた現地の大手紙特派員記者が同時に以下のように語っているのが正しかろう。 「トランプ大統領は移民対策などの公約を前面に掲げていますが、今回の勝因はこうした思想信条というよりも、米国民が抱える“生活苦”がいちばんの理由ですよ。 コロナ終息後、米国の物価上昇率は全産品で20%、食料品では体感値で30%以上とされています。賃金も上昇していますが、物価にまったく追いついていません。そして、こうした状況に責任があるのは、バイデン大統領であり、副大統領だったハリス氏なんですよ。日本も物価高に対して賃金が追いついていませんが、米国の状況はこれより悪い。米国の有権者の身に置き換えて考えれば、答えは簡単だったのかもしれません」(SmartFLASH 2024.11.7)。 2.2020年米国大統領選(以下、過去のコメント)
民主党バイデン候補が現職大統領のトランプ候補を破って、次期大統領となった。前回同様、トランプ大統領の顰蹙を買うような言動に加えて、コロナの蔓延や黒人差別など米国の現状に対する不満から、現政権への批判票がバイデン候補に集まっただけ、すなわちバイデン候補が勝ったというより、トランプ候補が負けただけ、と解することができよう。 前回、新たに共和党が制した州は、アイオワ州、ウィスコンシン州、オハイオ州、ペンシルベニア州、フロリダ州であり、製造業の不振で雇用が悪化している地域が多かった。今回は、このうち、オハイオ州とフロリダ州を除いて、再度、民主党に復帰した。中国との貿易戦争を通じた鉄鋼に対する関税引き上げが当初は価格が上昇してよかったものの、その後、自動車鋼板の需要低迷から再度価格低下するというようなマイナス効果を生み、製造業の復活に必ずしもつながっていないせいであろう。 投票動向を見ると、男性はトランプ支持、女性はバイデン支持、白人はトランプ支持、黒人など非白人はバイデン支持、若年層はバイデン支持、中高年層はトランプ支持、高学齢はバイデン支持、低学歴はトランプ支持といった傾向は、前回の大統領選と同じである。 今回の大統領選でどんな政策課題を最重要視したかの区分では、人種の不平等やコロナウイルス対策を挙げた国民はバイデン支持、経済や犯罪・安全を挙げた者はトランプ支持という対照的な投票行動が明確となっている。 以下に、民主・共和党の候補者同士を2016年大統領選と比較した表を掲げた。
この表で目立った点としては、以下を挙げることができる。
3.2016年米国大統領選
大方の予想を覆して共和党トランプ候補が民主党クリントン候補を破って、次期大統領となった。トランプ候補が選挙戦中に繰り返した過激な発言(メキシコ国境の「壁」建設、イスラム教徒の入国禁止、日本など同盟国に対する米軍駐留経費の負担増や核武装容認など)や米国メディアや知識人・有名人の反トランプ感情に関心が集まっているが(コラム参照)、冷静になって考えてみると、単純に、米国の現状に対する不満から、民主党政権への批判票がトランプ候補に集まっただけ、すなわちトランプ候補が勝ったというより、クリントン候補が負けただけ、と解することができよう。 前回は民主党が勝利し、今回は共和党が制した州は、アイオワ州、ウィスコンシン州、オハイオ州、ペンシルベニア州、フロリダ州であり、製造業の不振で雇用が悪化している地域が多かった。 図録では、出口調査の結果から属性別の両候補への支持率を掲げているが、実は、前回2012年のオバマ候補対ロムニー候補の支持率の違いとそう大きな違いはない。トランプ候補支持の白人層が増えているかの報道もされるが、データを見る限り、白人層のトランプ支持率はロムニー支持率より減っている。 以下に、民主・共和党の候補者同士を2012年大統領選と比較した表を掲げた。大きくパーセントが変化した項目を見ていこう。 男性のクリントン支持が大きく減っている。これは、女性の昇進を阻む「ガラスの天井」の最後の一枚を破るというクリントン候補の訴えが受け入れられなかった結果ともとれる。 人種上では、白人層の投票行動の変化は大きくないが、もともとは高い黒人、ヒスパニック、アジア系の民主党候補支持率の低下が目立っており、オバマ候補ほどのインパクトが白人候補であるクリントン氏にはなかったためとも、非白人層の期待に現オバマ政権の実績が追いつかなかったせいともとれる。 年齢別にはもともとは高い18〜29歳の民主党支持率の低下が目立っている。現政権への若者の失望ということであろう。 今回、トランプ候補の勝因として白人低所得層の支持があげられることが多いが、確かに、収入が5万ドル未満層では相対的に高い民主党候補の支持が大きく減っているのが目立つ。逆に、10万ドル以上の高所得層では共和党支持率が大きく減っており、トランプ候補は金持ちからは嫌われているようだ。 学歴別には、大卒以上ではトランプ候補、大卒未満ではクリントン候補が前回候補者と比較して大きく支持率を低下させている点が目立っている。 大統領選を通して米国国民の分断がおこったと見なされているが、人種的にはむしろ差が縮小し、男女、貧富、学歴で分断が広がったといえよう。
最後に、その他の出口調査の結果から目立ったものを以下に取り上げて見た。@政党別には共和党の反トランプ騒ぎにもかかわらず共和党層はトランプに投票していた点が目立つ。強調されがちな個人の資質の問題ではなく民主党政権か共和党政権かという選択の問題だった側面が強いことを示す。A現状満足層ほどクリントン支持が多く、現状不満層ほどトランプ支持が多いことを示している(上でふれた経済不振州の民主党から共和党への反転のもあらわれている)。B地域的には都市部より農村部でトランプ支持が多く、選挙人の数も農村部の方が人口の割に多い(日本と異なり上院議員は州の代表であり、人口比例ではないため両院議員数と比例した選挙人数でも農村部の方が有利となっている)ので、獲得票数では優勢だったクリントン候補が獲得選挙人数で負けた理由がうかがわれる。 トランプ候補はもともと共和党員ではなかった。トランプ候補は外部から現れて、共和党の支持者を乗っ取り、共和党を変質させた政治家だったという評価もある(下表参照)。従来の共和党の考え方の一部だけ強調し、その他は、むしろ、民主党的な考え方を取り入れた結果、支持層がエスタブリッシュメントからブルーカラーへ大きくシフトしたというのである。そんなところが勝因として大きかったのだろう。歴史的には、北部の政党であった共和党が今や南部の政党だった民主党と入れ替わった訳だが、再逆転もありうるのかもしれない。
4.2012年米国大統領選
米大統領選は11月6日、投開票され、米メディアによると、再選を目指す民主党のバラク・オバマ大統領(51)が、6日午後11時(日本時間7日午後1時)過ぎの段階で、中西部オハイオやミシガン、ウィスコンシン州などを固め、勝利に必要な選挙人数270人を超える275人を獲得、再選が確実になった。オバマ氏はツイッターで「あなたのおかげだ。ありがとう」と事実上の勝利宣言を行った。政権奪還を目指した共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)は勝敗にかかわる激戦州で伸び悩み敗北した。(毎日新聞2012.8.7夕刊) 性別、年齢、人種等の属性別に有権者の投票がどちらの候補に向かったかを2008年の結果と同じように米メディアの出口調査の結果から図示した。 2012年の結果は2008年の結果とほとんど同じような傾向を示している点が印象的である。 各年齢ともにオバマ大統領の支持率は低下し、今回の苦戦ぶりを示しているが、特に18〜29歳が前回から6ポイントと急落している。これは前回の若者の期待の大きさがやや凋(しぼ)んだからだろう。 「年収別では、5万ドル(約400万円)未満の低所得層からは60%と前回並みの支持を受けたが、中間層の5万〜10万ドル未満では46%で前回を4ポイント下回った。オバマ氏は富裕層への増税を訴えており、10万ドル以上の支持は前回比5ポイント減の44%だった。」(毎日新聞2012.11.8) なお、ロムニー候補の家の宗教は代々モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)であり、本人も敬虔な信者であるため、信仰の一つとしてモルモン教が取りあげられている。 人種別に見て白人層の支持率が前回の43%から39%へと低下したのは、景気面での期待はずれが白人、特にプアホワイト層で目立ったからだとされる(東京新聞2012.11.11「太郎の国際通信−米大統領選 進む人種の分断」、以下同様)。また「白人票を取り戻す以外に勝つ道がなかったロムニー陣営が、人種問題という禁じ手を使ったこともいたずらに黒人への反感を煽ったという。その代表的な例とされるのが、オバマ大統領の生活保護政策を批判するテレビCMだった。「オバマ大統領は仕事をしなくても生活保護を受けられるように制度を改悪しました。何もしなくても小切手が送られてくるのです。ロムニー候補はそれを変えます」その画面には、白人の労働者が汗を流して働いている姿があった。つまり、白人労働者の稼ぎが怠け者の黒人に流れているというメッセージだったのだ。」これに対してオバマ陣営も人種偏見を煽っていると反論し、こうしたやりとりが米国の人種の亀裂を深くしたと米国でも分析されているという。しかし、人種別の支持率の変化では、黒人の支持率も多少減っており、むしろ、人口シェアが拡大しつつあるヒスパニックやアジア人のオバマ支持率の上昇が目立っている。ロムニー陣営は白人票を取り戻そうとして、長く米国で暮らし、案外、白人と共通の価値観をもつ黒人ではなく、むしろ、ヒスパニックやアジア人など異文化系住民の反感を招いたのではと私は推察している。 オバマ大統領への男性票が減った反面、女性票がほとんど変わらなかったことから女性票が勝敗を握ったとする考え方もある。 「重視した政策項目をみても、女性有権者らは安全保障などより社会保障や健康をめぐる問題への関心が高い。オバマ氏が米大統領として初めて打ち出した人工妊娠中絶への支持も、働く女性を中心に支持を集めた。」(東京新聞2011.11.16) 「大統領選と同時に行われた連邦議会選の共和党候補者の発言も女性票がオバマ支持に流れる要因となった。 8月には、上院へのくら替えを目指していた共和党のエイキン下院議員が「本当のレイプなら女性の体は妊娠を防ぐようにできている」と発言。10月下旬には上院議員候補マードック氏が「レイプによる妊娠であっても、それは神のご意志」と言い放った。結局、二人は落選した。」(同上) 4.2008年米国大統領選(過去のコメント)
米国大統領選は11月4日開票が行われ、民主党のバラク・オバマ上院議員(47)が勝利に必要な選挙人270名をこす365名(29州・特別区)を獲得し、173名(22州)の獲得にとどまった共和党のジョン・マケイン上院議員(71)を大差で破り、黒人初の米国大統領に選出された。一般投票得票率はオバマ氏53%、マケイン氏46%であった(両候補 以外の得票があるため足して100とならない)。(数字は集計終了後の結果、CNN集計−毎日新聞2008.11.22) 性別、年齢、人種等の属性別に有権者の投票がどちらの候補に向かったかを米メディアの出口調査の結果から図示した。 まず、黒人初の大統領ということから、人種別の投票動向が関心を呼んだが、白人はマケイン候補に55%とオバマ候補の43%と比較して10ポイント以上多く投票しているのに対して、黒人の95%がオバマ候補を選んでおり、対照的な結果となっている。ヒスパニック、アジア系、その他についても6割以上とオバマ候補への投票が多かった。 しかし思ったほどの白人投票の片寄りはなかったともいえる。黒人には低所得層が多いといわれるが、米軍のトップや国務長官にも黒人が就任しており、また人種・民族別の出生率の動きを見ても黒人は急速に白人に近づきつつあり、むしろ出生率の高さではヒスパニック系の方が特異であることから、白人が抱く黒人との生活上の差異感覚は薄れてきているのではないかと私は感じている(図録8650参照)。 年齢別には若い世代ほどオバマ支持が多く、高齢者ではマケイン支持の方が多かったので、世代対立はかなり大きな要素だったといえよう。 収入別には低所得層は6対4でオバマ優位であったが、中高所得者もオバマ候補が負けているわけではないので、所得階級の対立は主たる分岐軸ではなかったといえよう。 主たる関心分野別には、1割程度しかいないが医療保険制度をあげる者は7割以上がオバマ支持であり、逆にテロ政策を主たる関心としている者は86%がマケイン支持と対照的な形となっている。ただ大半は経済問題に関心があり、その場合は、全体結果と同様の投票行動となっていた。 注目を引くのは、余り報道されなかったが、男女差である。男性はオバマ、マケインが半々であるが、女性はオバマ支持が多かった。女性は白人か黒人かにこだわらない者が多かったのか、あるいはマケイン候補側のペイリン副大統領候補に対する女性の反感があったのか、それともオバマ候補とマケイン候補の年齢差がきいたのか、いずれかであろう。 (2008年11月6日収録、11月25日全体結果コメントを確定得票率に変更、2012年11月8日2012年大統領選結果、11月12日人種別支持率分析追加、11月16日女性票についてのコメント追加、2016年11月11日2016年大統領選結果、11月12日コラム、11月13日コラム隠れトランプほか補訂、11月16日CNN出口調査結果を過去に遡って確認、2020年10月16日町山著作引用、2020年11月14日更新、2024年9月11日カマラ対トランプ、11月6日更新、11月7日SmartFLASH記事)
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