大統領選は民主、共和両党がそれぞれ候補者を擁立。当初は、民主党で現職のジョー・バイデン大統領(81)と、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)が対決するという前回選挙と同じ構図だった。 しかし、バイデン氏は高齢批判から支持率が低迷。一方のトランプ氏を巡っては、7月の演説中に銃撃を受け一命を取り留めるという衝撃的な事件が発生し一気に党内の結束を固めた。 この奇跡とも言うべきトランプ氏への強烈な追い風により、一時は「もしトラ」から「ほぼトラ」へと一気に選挙戦の流れが決まるかに見えた。そうした中、バイデン氏は7月、ついに選挙戦からの撤退を決断。選挙戦が残り100日と迫る中、異例の候補者交代となった。カマラ・ハリス副大統領(59)が8月の党大会で後継候補として指名されて、民主党は支持を取り戻し、勢いを増した。 ピューリサーチセンターは8月末から9月にかけてハリス、トランプ両候補が打ち出している政策が種々の国民層にどう評価されているかという点から両候補の支持層を明らかにする調査を実施しているので、その結果を示した。調査対象者に対して、両候補について支持しているかどうかを直接きくのではなく、両候補の政策によって状況が「改善すると思うのか」それとも「悪化すると思うのか」を選ばせることによって間接的に支持か不支持かを判断しているところがミソである。有権者の個人的な好悪ではなく、あくまで政策への評価を調べようとしているのである。 1.基本属性で支持層の違いが大きい 米国大統領選におけるハリス、トランプ両大統領候補については支持層の違いが余りに対照的な点が注目される。男女の違いが最も大きいが、白人vs非白人、富裕層vs貧困層、退役軍人vs労働組合員なども目立っている。 図には国民有権者の各階層ごとに、両候補の政策がもたらす状況変化予想を「悪化」(Make things worse)か「改善」(Make things better)か「変わらないか」(Not change things much either way)の3択できいた結果を示した。 図では、カマラ候補の政策をプラスに評価する階層の回答から、逆にトランプ候補の政策をプラスに評価する階層の回答へと上から下に並べている。「改善」が「悪化」を上回っている階層をそれぞれの候補について矢印で示した。 この図の特徴としては、まず、目立っているのは女性が一番上に位置し、男性が下から3番目に位置するというように遠く離れている点である(9行差)。次に、黒人と白人が8行差、貧困層と富裕層が7行差で距離が離れている。一方、都市部住民と農村部住民は1行差と距離が短く、都市部の方が農村部よりカマラ候補支持に傾いているもののその差は小さいことが分かる。 男女、人種、貧富といった国民の基本属性でカマラ候補対トランプ候補の支持率差が大きくなっていることが如実である。男女はもっとも普遍的な属性差であり、夫婦で意見が対立している場合も多く、国民の分断はそれだけ深刻だと言える。 2.トランプ候補の方が毀誉褒貶が激しい トランプ候補の方が支持層と不支持層とで、「状況が悪化」の構成比が大きく変わる。同値は、女性は46%、貧困層は45%である一方で、白人は13%、富裕層は5%と大きく異なる。ところがハリス候補の場合は「状況が悪化」の構成比が最大の農村部住民で39%、最小の女性や非白人で27%とせいぜい10%ポイント程度である。 トランプ候補は、階層によってはひどく不安がられているのに対して、ハリス候補の場合は、全体として、当選しても最悪のケースにはならないだろうと思われている。 それではトランプ候補よりハリス候補の方が断然有利かというとそうでもない。住んでいる地域別の集計では「都市部住民」、「農村部住民」のどちらもハリス候補の場合は「状況が悪化」の方が「状況が改善」を上回っており、トランプ候補はどちらも逆だから、米国全土ではトランプ候補の方が支持が大きいとも言えるのである。 3.労働者支持の奪い合い 労働者や庶民層からの支持を求め、両候補がマクドナルドのバイトをめぐって以下の記事のようなコントを演じているそうだ。世界の最高政治職とでもいうべき米大統領選がこんな笑劇で左右されると当事者が考えているとしたら不思議な気がする。 「「1イン8」とはマクドナルドの宣伝文句で事実かどうかは分からないが、米国民の8人に1人がマクドナルドで働いた経験があるという。陸上競技のカール・ルイスさんや映画「スター・ウォーズ」の俳優マーク・ハミルさんもマクドナルドでバイトしたことがあるそうだ。マクドナルドでのバイト経験が大激戦の米大統領選挙の焦点になってきたとは大げさか。民主党のカマラ・ハリス副大統領。やはり、学生時代にマクドナルドでバイトをしたといい、レジなどを担当したそうだ。これを「うそだ」というのが共和党のトランプ前大統領で、ハリスさんの勤務記録が残っていないという。約40年も昔の記録がないからとウソと決めつけるのもやや無理な気もするが、トランプさんはこだわり、当て付けか、先日はマクドナルドのドライブスルーで接客するパフォーマンスまで見せた。マクドナルドが選挙戦のキーワードになっているのは激戦州で労働者票の行方が勝敗を分けるためだろう。バイト経験で労働者層出身の苦労人をアピールするハリスさんに対し、庶民のふりをしているだけと批判するトランプさん。「大衆の味」まで奪い合いになっている」(東京新聞「筆洗」2024.10.24)。 4.米国のマスメディア報道からでは実態把握は難しい 日本の報道は米国マスメディアの報道を情報源としている場合が多いが、それでは実態が正しく把握できない可能性が高い。米国国民自体、特に共和党支持層は、マスメディア報道が偏向しているとしてその信頼度に疑問を投げかけるようになっているのである。以下は図録3963から再録したデータである。 実際、民主党のハリス候補を応援する方向でマスメディア報道が偏っている可能性があると同時に、共和党支持層がマスメディアからの取材に対してまじめに対応しないために実態が明らかにならないという側面もあろう。 こうしたマスメディアに対する支持者層の間の見解の大きな相違をさらにトランプ候補は煽っている。11月3日の東部ペンシルバニア州での集会で、トランプ候補は、もし自分への狙撃の巻き添えで、みずからが「フェイクニュース」と決めつけている報道機関の関係者が銃撃されたとしても「気にしない」と述べ、これに対しハリス候補陣営は「暴力的な演説だ」と非難したという(東京新聞2024.11.5)。こうしたやりとりもマスメディアに対する共和党支持層の信頼度の異常な低さが背景になっていると考えられよう。 5.両候補支持者の間の驚くほど大きな見解の相違 マスメディア報道への信頼度だけでなく、トランプ支持者とハリス支持者とでは、社会的見解がおそろしくかけ離れている。ピューリサーチセンターは4月と8月に行った調査でこの点を明らかにしている(下図参照)。 図には、文化、法、政策、外交などに関する10個の見解について、賛同する回答率をトランプ支持者とハリス支持者とで比較したデータを掲げた。 社会保障の維持や世界一の軍事力保持に賛同する見解はそれほど大きな回答率の差はないが(といっても後者は20%ポイントの差があるのであるが)、多くの見解で50%ポイントを超える回答率の差がある。 最もポイント差が大きいのは「法を破らず自分を守るのであれば銃をもつことは安全性を増す」という銃器保有に関する見解についてであり、賛同者はトランプ支持者89%と9割近いのに対してハリス支持者は18%と2割を切っている。 次にポイント差が大きいのは「政府にはすべての米国人に保健医療を提供する責任がある」という国民皆保険に関する見解であり、賛同者はハリス支持者91%と9割を超えているのに対してトランプ支持者は32%と3割程度である。その他、奴隷制の影響、対外オープン(移民・アメリカファースト)、性転換、貧困層援助に関して50%ポイント以上の差が開いている。 米国大統領選をめぐっては顕著な支持層の違いだけでなく、こうした基本的価値観について国民の間の底深い亀裂があらわになっている。大統領選の結果、いずれにせよどちらかに決まるのであるが、新大統領は、いったい、こうした社会の分断をどう折り合わせて行くのかと途方に暮れるのは遠くから観察している我々よりも米国人じたいであろう。 (2024年10月15日収録、10月23日米国のマスメディア信頼度、10月24日マクドナルド・バイト、11月5日国民間の見解の相違)
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