NHKの全国県民意識調査によると、住む場所を自由に変えられるとしたら居住県以外でどの都道府県に住みたいですかという質問への回答として最も人気があったのは北海道であり、全国の9.5%の票を集めた。北海道に次いで、静岡が5.8%で人気が高く、これに、東京の5.7%、神奈川の5.0%、京都の4.5%、沖縄の3.5%と続いた。関東では東京がトップであるが、関西では、大阪ではなく京都がトップとなっている。 各県の人口の何倍がそこへ移住したいと思っているかを移住希望倍率として計算すると沖縄が3.4倍と最も高かった。沖縄の人口の3倍以上の国民が沖縄に移住したいと感じているのである。移住希望倍率で沖縄に続いていたのは京都、北海道、静岡、長野である。東京、大阪はそれぞれ人口規模の6割、4割の移住希望者しかおらず、人気は限定的 である。愛知では2割と3大都市圏の中でも魅力がないようだ。 次ぎに、住みたい都道府県として人気の高い北海道、東京、静岡、京都、沖縄について、これらの地域に対して、どこの県民が移住したがっているかを参考図に掲げた。 北海道に対しては、いずれの地域も10%程度の移住希望者がおり、全国まんべんない人気を誇っている。雄大な大自然へのあこがれが背景にあると思われる。隣接する青森の18.3%に次いで、遠く離れた沖縄が14.7%で続いているのが印象的である。海外でも雪の降らない台湾、香港、上海の市民が北海道を最も行きたい観光地としているのと共通する感情があるのであろう(図録7220参照)。 東京は埼玉、千葉、神奈川といった周辺の人口集積地域からの移住希望が10〜15%前後と多く、北関東、東北・北陸で5%前後と希望者は少なくなる。西日本では3%前後の人気である。若者だけの調査結果ではもっと高い人気が予想されるが、当調査のような高齢者も含めた平均的なあこがれ度では東京は大したことはないようだ。 移住人気が北海道に次ぐ全国2位の静岡に対しては、山梨、長野、神奈川、愛知といった隣接地域の移住希望者が特段多い他、北陸地方で10%弱の人気、東北・北海道でも5%前後の移住希望者がいる。ところが西日本では1%前後と希望者はぐっと少なくなっている。富士山と東海道の茶の香り、温暖で過ごしやすい風土が寒冷地域の人たちから好まれているといえる(図録7228参照)。ドイツ人がイタリアにあこがれ、中国の北方民族が南を目指し、ロシア人が南下の熱情をもつのと共通する感情が背景にあるのであろう。 西日本の人気度トップの京都に対しては、新潟から富山、石川、福井、滋賀と近づくにつれて移住希望がぐっと多くなっており、京都の文化影響力が北陸地方へと伸びている様子がうかがわれる(宗教文化上のつながりについては図録7770参照)。その他、関西圏の府県から10%前後の移住希望をもつ。その他の地域からの人気はそれほど高くない。 沖縄に対しては、北海道と同様全国的なまんべんない人気が特徴である。沖縄のエキゾティックな南国イメージが評価されているのであろう。中でも北海道人が8.6%と最大の沖縄への移住希望を表明している。日本列島の両端に位置する北海道と沖縄が、相互に自分にないものを求めて相手の地への移住希望を表明しているのだと理解できよう。 米国では、主に気候の観点から東海岸よりカリフォルニアに住んでいる人の方がしあわせだという感覚があるらしい。ノーベル経済学賞をとった心理学者のダニエル・カーネマンは「注意が向けられている生活の一要素が、総合評価において不相応に大きな位置を占めることになる」現象を「焦点錯覚」(focusing illusion)と名づけ、その例として、地域の人気度を取り上げている。彼は、カリフォルニア州、オハイオ州、ミシガン州の主な州立大学の学生に対する調査の結果、「予想通り、カリフォルニアと中西部(オハイオ、ミシガンはともに中西部)の学生では、気候の感じ方はまったくちがう。カリフォルニアの学生は気候に満足しているが、中西部の学生はうんざりしている。だが気候は、幸福の重要な決定因ではない。カリフォルニアと中西部の学生では、生活満足度に違いは認められなかった。また、「カリフォルニアの学生の方が幸福だ」と考えている人が多いこともわかった。この思い込みは両地域に共通して見られ、気候の問題を重視しすぎる、つまり焦点を絞り込みすぎるという誤りを犯していることが確かめられた。そこで、私たちは、この誤りを「焦点錯覚」と名付けた次第である」(「ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?」ハヤカワ文庫、原著2011年、p.305) (2009年1月9日収録、2014年9月29日カーネマンによる米国の例追加)
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