人口流入がない場合、合計特殊出生率が2を若干上回らないと人口が維持出来ない。わが国では、こうした上位20位ぐらいの市区町村でないと人口が維持できない状況にあるのである(2を超過しているのは23位知名町まで)。 合計特殊出生率の上位25市区町村は、すべて九州・沖縄にあり、多くが、沖縄、鹿児島、長崎の島しょ部に位置している。以下のように25のうち17は島しょ部市町村である。沖縄県の出生率は戦前には全国の中でも低い位置にあった。それが、米軍占領下におかれて、本土における経済高度成長にともなう出生率低下などの激しい社会変化から隔絶していたため、結果として、上昇してもいないのに全国トップに躍り出たのである(図録7300)。そうであれば、九州・沖縄の島しょ部における高い出生率も、島しょ部という立地上の理由で旧来の日本の家族や社会の姿を幾分残しているからという側面が大きいと考えることができる。 市区町村別合計特殊出生率:上位・下位25位(2008〜2012年)
合計特殊出生率の低い方をみると、京都府京都市東山区が0.77で最も低く、次いで東京都豊島区(0.81)、大阪府豊能町(0.82)となっている。
合計特殊出生率の下位25市区町村のほとんどは、東京、大阪、京都の都心区部によって占められている。武蔵野市(東京都)も区部に接しそれと近い性格の地域である。一方、これら都心部と並んで、大都市圏の中の秘境部ともいうべき豊能町(大阪府)、毛呂山町(埼玉県)、鳩山町(埼玉県)、奥多摩町(東京都)が何故か下位25位までに登場しているのが興味深い。大阪府の豊能町は標高の高いことから「大阪の軽井沢」、寒冷気候のため「大阪のシベリア」などと称されているという。埼玉県の毛呂山町の南部丘陵地帯には武者小路実篤が理想社会を目指して入植、創設した「新しき村」がある。 合計特殊出生率の最も高い市区町村と最も低い市区町村の差は2.04 となっている。これは、例えばアジア諸国の間の大きな出生率格差と比較すれば、小さい差ともいえる(図録1560)。 使用した統計データについてふれておこう。厚生労働省により5年おきに発表される保健所・市区町村別の合計特殊出生率については、地域ごとに前後5年間の15歳から49歳までの女性の5歳階級別出生率(年率)の5倍を合計して算出されており、1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当し、地域比較に用いられている。なお、算出に用いられた出生数の15歳及び49歳にはそれぞれ14 歳以下、50歳以上が含まれている。また、市区町村別の指標は、出現数の少なさに起因して、偶然性の影響で数値が不安定であったりするため、合計特殊出生率の推定にあたっては、小地域における推定に有力な手法であるベイズ推定が用いられている。 (2014年11月7日収録)
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