都市の公共交通の充実度・カバー率を示すため道路系のバス停(Bus stop)あるいは軌道系の地下鉄・市電駅(Metro or tram stop)から10分圏の人口の比率を算出し、OECD各国の最大都市の間で比較したグラフを掲げた。

 関心が高まっている国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsの中には、公共交通の利用の容易性という項目がある(11.2.1)。そこでの利用の容易性は、バスなどの低度公共交通機関では停留所まで500m、鉄道や地下鉄など高度公共交通機関では駅まで1kmと考えられている(その他、障碍者など交通弱者の利用のしやすさや駅の安全性なども含まれる)。ここでは、公共交通のカバー率の基準としてバス停、地下鉄・市電駅共通で徒歩10分以内としている。徒歩10分は徒歩速度が時速4kmとして666mに当たる。

 バス停と地下鉄・市電駅のみのカバー率についてもデータがある場合は示した。

 こうした都市比較に際しては、単なる行政区域としての都市データを比較するとどこまで郊外を含んでいるかなど都市の成り立ちの違いでバイアスが生じる。そこで、ここでは、人口の密集度などから機能的都市圏を区画し、そこでの公共交通のカバー率を比較している。OECD/EUによる機能的都市圏の定義については巻末コラム参照。

 いずれの都市においてもバス交通のカバー率は地下鉄・市電交通のカバー率を大きく上回っている。公共交通全体のカバー率はバス交通のカバー率とほとんど重なっている。
 
 公共交通全体のカバー率が最も低い都市はメキシコシティーの27.5%であり、これにレイキャビク(アイスランド)の32.0%、ニューヨークの56.3%が続いている。主要先進国の中ではニューヨークの低さが目立つが、米国ではマイカー利用が多いせいであろう(図録6369参照)。

 一方、OECD37か国のうちで32か国は公共交通のカバー率は75%を越えており、29か国は8割を越えている。

 軌道系の公共交通のカバー率には都市により大きな差があるが、それをバス交通が補完するので、バス交通を含んだ公共交通という点では、各国の違いはそれほど目立たないのである。なお、東京は82.4%とOECD平均の84.8%とそれほど変わらない。バス交通は先進国であればどこでもそれなりに発達しているといってよかろう。

 地域間で差が目立つのは軌道系の公共交通カバー率である。主要国における地下鉄・市電駅カバー率は高い方から以下である。

 1.ベルリン(47.9%)
 2.ソウル(42.7%)
 3.パリ(41.1%)
 4.ニューヨーク(30.7%)
 5.ローマ(30.6%)
 6.ロンドン(21.1%)
 7.東京(13.6%)

 東京が最低である点が目立っている。効率的なインフラ配置のためコンパクトシティが目指されているが、東京は軌道系の公共交通については後れを取っており、都市内交通が便利な都市と言えない。要因としては、東京が巨大都市すぎるからであろう。「大男総身に知恵が回りかね」といったところである。

 他方、軌道系の公共交通のカバー率が高いのはブリュッセルの79.9%、チューリッヒの72.4%、ウイーンの63.1%などであり、これらはコンパクトシティーならではの便利さを発揮している都市と言ってよかろう。


(2024年4月30日収録)


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