インターネットやソーシャルメディアは、民主主義政治に対してプラス面とマイナス面の両方を有する。つまり「両刃の剣」である。

(プラス面)
  • 他国の現状がよく分かる(肯定73%:否定7%)
  • 国内の現状がよく分かる(肯定73%:否定9%)
  • 民族・宗教・人種の多様性を受け入れやすくしている(肯定45%:否定22%、図録6258dに結果グラフ)
  • 政治論議の市民性(civil)を助長(肯定23%:否定46%、ただし日本は調査ミスで集計不能)
(マイナス面)
  • 誤情報やうわさで左右されやすくなる(肯定84%:否定5%、図録6259に結果グラフ)
  • 政治的分断を助長する(肯定65%:否定8%)
 以上のプラス面、マイナス面があるかどうかをきいたピューリサーチセンター実施の19か国調査の平均値での肯定的回答と否定的回答の割合をカッコの中に示したが(影響なしという回答があるので足して100%とならない)、プラス面の「政治論議の市民性を助長」が否定されているのを除いて、ほぼその通りの結果となっている。

 そうしたプラス面、マイナス面を総合して結局のところどちらなのかという点をきく「民主主義に好影響」か「民主主義に悪影響」かという設問も設けている。19か国の平均では「民主主義に好影響」は57%、「民主主義に悪影響」は35%と好影響が上回っている。


 図録には各国の「民主主義に悪影響」という回答の割合を示したが、多くの国で50%を下回り、結局のところプラスという意識になっていることが分かる。

 しかし、米国の64%、オランダの54%、フランスの52%と「民主主義に悪影響」という回答の方が多い国もある点が印象深い。

 悪影響の一因として、ソーシャルメディアが「政治的分断を助長」する弊害が深刻である。すなわち誤情報やうわさなどがソーシャルメディアを通じて飛び交い、もともと対立する意見のグループが事実かどうかとは関係なく自分たちの知りたい情報だけを咀嚼して盛り上がっていく結果として、国内の政治的な分断(division)が深まってしまうのである。米国や韓国の大統領選挙などでこうした現象が起りやすかったといえる。

 米国やオランダではこうした弊害を感じている国民が8割近くにのぼり、プラス面を打ち消してしまっていることがうかがわれる。

 一方、韓国でも、大統領選で、ネガティブキャンペーンだらけのネットによる情報戦が繰り広げられて、こうした弊害が顕著であるため、「政治的分裂を助長」の回答率は、米国、オランダに次ぐ77%という高率である(注)。ただし、韓国ではソーシャルメディアのプラス面についても総じて強く意識されており、「民主主義に悪影響」の割合は32%と19か国の中では低い方となっている。

(注)韓国のネットに大きく左右される政治情勢については金敬哲『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)に詳しい。この本の一部を紹介したプレジデントオンラインの記事はここ

 他でも同様の調査は行われており、同様の結果となっている(下図参照)。


 参考までにソーシャルメディア(SNS)の20年をまとめた年表を以下に掲げる。


【コラム】何かと話題となる政治家のSNS投稿


 自民党の女性局員38人による2023年7月24日からのパリへの「視察」が観光旅行のようだとネットで炎上した。


 特に象徴的なのは、松川るい参院議員・女性局長(52)がSNSに公開したエッフェル塔前で3人で両腕を頭の上でくっつけるエッフェル塔ポーズをする上の写真だった。松川氏は「エッフェル姉さん」と呼ばれるようになったという。視察を口実に税金で優雅に遊んでいるだけでなく、それを自慢しているかの様子が反感を買ったと思われる(東京新聞「週刊 ネットで何が・・・」2023.8.12)。

 政治家の不用意な公表写真が国民の反感を買って「炎上」するのは日本だけではない。冒頭に掲げたのは、タイのタクシン元首相派で第二党「タイ貢献党」が2023年5月の下院総選挙後の連立政権協議で旧与党と組むこととなった会談をあらわした公表写真であるが、これが支持者の反感を買った。飲み交わしているチョコミントドリンクは実は選挙中、貢献党の首相候補の一人であるタクシン氏次女ペートンタン氏が選挙活動の一環としてSNS上ではやらせた飲みものであり、会談後の写真は「裏切りの象徴だ」ととらえられ、一部のカフェではこのドリンクの販売が中止となったという(東京新聞「海外便り バンコク」2023.8.12)。

(2023年2月10日収録、4月11日年表、5月11日DPI調査結果、8月12日コラム)


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