1.衆議院選挙
(2021年衆院選) 2023年1月25日、最高裁は「1票の格差」が最大2.08倍だった同年10月の衆院選を「合憲」とする判決を言い渡した。各地の高裁はいずれも選挙無効の訴えは退けたが、16件中9件の判決が「合憲」としたものの7件は「違憲状態」だったとして判断が分かれていて、最高裁の統一判断が注目されていた。最高裁は1票の格差が2倍を超えたことについて、国が導入を決めた人口比などを反映できる新しい制度(注)で「是正されることが予定されている」と指摘。「格差の程度も著しいとは言えない」として合憲と判断した。ただし裁判官15人中1人(宇賀克也判事)は「違憲」だとする反対意見を付けている(TBSニュース速報、2023.1.25)。 (注)アダムズ方式のことであり、各都道府県の人口を「ある数X」で割り、小数点以下を切り上げた整数を各都道府県の定数とするもの。アダムス方式は10年毎の大規模国勢調査の結果に基づき議席配分を見直すため、今後も都市部は議席が増え、地方の議席は減っていく見通しで、地方選出議員から「地方いじめ」との不満も根強い。 「21年選挙は17年選挙後から区割り改定がされないまま実施され、都市部への人口移動で最大格差は2倍超に広がった。それでも最高裁が「合憲」としたのは、前回18年の判決がアダムズ方式の導入を全面的に評価した経緯がある。18年判決は、アダムズ方式を含む新制度を国会が決めたことで「合理的な選挙制度の整備がすでに実現されていた」と認定し、4判決ぶりに合憲とした。「新たな定数配分をどの時点から反映させるかも国会で考慮できる」と幅広い裁量も認めた。今回の判決はこれを踏襲し「制度には合理性がある」と指摘。10年に1回の大規模国勢調査の結果に基づいて定数を再配分するとした新制度下で格差の是正が予定されているとし、合憲と結論づけた」(東京新聞2023.1.26)。 一方、制度上、格差ゼロに向けて持続的に改善が進んではいかないという点から批判もある。「18年判決では林景一裁判官が意見で「(合憲とすることで新制度に)実質上『お墨付き』を与え、2倍程度の最大格差が恒常化する可能性が相当ある」と懸念を示していた。今回の判決はその流れを決定的にしたと言える」(同上)。 (2017年衆院選) 2017年衆院選について。「「1票の格差」が最大1.98倍だった同年10月の衆院選を巡り、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は19日、「合憲」との統一判断を示し、請求をいずれも棄却した。大法廷は、国会が新たな区割りの導入を決め、定数是正を経て最大格差を初めて2倍未満に抑えた点を「従来の最高裁判決の趣旨に沿って格差是正を図っており違憲状態は解消された」と評価した」(毎日新聞2018年12月20日) (2014年衆院選) 2014年衆院選について。「一票の格差」が最大2.13倍だった同年12月の衆院選は有権者の一票の価値が不平等で違憲だとして、二つの弁護士グループが選挙無効(やり直し)を求めた計17件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は25日、「違憲状態」との判断を示した。選挙無効の請求は退けた。最高裁が衆院選を違憲状態と判断したのは、最大格差が2.30倍だった2009年衆院選以降、3回連続。今回の判決は、小選挙区定数の「0増5減」に伴う区割り改定を「一定の前進」と評価する一方で、「さらなる格差の縮小を可能とする制度の検討と集約を早急に進める必要がある」とも指摘した。違憲状態は、裁判官14人のうち9人の多数意見。一方、「違憲」と判断したのは3人で、うち2人は「選挙無効」とした。また「合憲」は2人だった。0増5減に伴う区割り改定時に内閣法制局長官だった山本庸幸裁判官は、審理に参加しなかった。判決は、昨年衆院選について「最大格差は2.13倍で、格差が2倍以上の選挙区が13あるなど、投票価値の平等に反する状態」と認定。0増5減に伴う新たな区割りで最大格差が縮小したことや、国会で格差是正に向けた議論が続いていることを踏まえ、「合理的期間内に格差が是正されなかったとはいえない」として、違憲判決には踏み込まなかった。違憲と判断した大橋正春裁判官は「判決確定6カ月後に全選挙区を無効とするのが相当」、木内道祥裁判官は「有権者の少ない一部選挙区を即時無効とする」との反対意見を付けた。昨年衆院選の一票の最大格差は、議員一人当たりの有権者が最も少ない宮城5区と最多の東京1区の2.13倍だった。一審の14の高裁・高裁支部判決(計17件)は、「違憲」が1件、「違憲状態」12件、「合憲」4件と判断が分かれていた(東京新聞2015年11月26日)。
2012年選挙が違憲状態と最高裁が判断したにもかかわらず、2014年の総選挙は、選挙区割りの見直しは小幅に止まり、当日の有権者数が最多の東京1区と最少の宮城5区の間で2.13倍の最大格差が生じていた。選挙区割りの抜本的見直しがなされないままに行われた衆議院選挙は法の下の平等を定めた憲法に反するとして、選挙後ただちに全国の高裁に対して選挙無効を求めた一斉提訴がなされた(毎日新聞2014年12月16日)。 (2012年衆院選) 2012年12月の衆議院選挙について提訴された訴訟において、2013年3月の16件の高裁判決は、史上初の「違憲・無効」2件のほか、「違憲・有効」12件、「違憲状態」2件と厳しい結果になっていた。これら訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷=裁判長・竹崎博允(ひろのぶ)長官=は11月20日、小選挙区の区割りを「違憲状態」と判断した。請求自体は棄却した。格差は憲法の要求する選挙権の平等に反しているものの、是正のために必要な期間内にあると結論づけた(毎日新聞2013年11月20日)。最高裁でも無効となれば、当該選挙区について、現議員失職、そして法改正後再選挙となる可能性もあった。なお、2013年6月に決まった新しい区割りによって、格差は1.998倍(10年国勢調査の人口ベース)となり、区割り審設置法が求めている2倍未満となっている。 最高裁大法廷は、2011年3月23日、2009年の夏の衆議院選挙をめぐって、各地の有権者が各選挙管理委員会に選挙無効(やり直し)を求めた訴訟の上告審判決で、「各都道府県に1議席を配分した上で残りを人口比で割り振る「1人別枠方式」と、同方式で生じた格差について「違憲状態」と判断し、同方式を廃止するよう求めた。選挙無効の請求は退けた。」(読売新聞2011年3月23日) (2009年衆院選) 2009年の夏の衆議院選挙をめぐっては「10件の訴訟が起こされ、各地の高裁の判断が、「違憲」4件、「違憲状態」3件、「合憲」3件と分かれた。最高裁は2010年9月、このうち9件の審理を、15人の裁判官全員で審理する大法廷に回付していた」(同上)。なお、「10年の国勢調査の結果を受け、内閣府の衆院議員選挙区画定審議会(区画審)は10年に1度の区割り見直しに着手している。今回の判決は区画審による見直しに大きな影響を与えることになる。」(毎日新聞2011年3月23日) 最高裁が衆院選の格差を違憲状態と判断したのは、図のように、中選挙区制で行われた1990年選挙についての1993年の大法廷判決以来18年ぶりとなる。94年に導入された現行の小選挙区比例代表並立制のもとでははじめての違憲状態判決となる。 衆議院では従来3倍以内が合憲ラインだったが、今回、一票の格差の倍率に大きな変化がないのに違憲状態と判断されたのは、格差を放置したまま長い時間が経過したからである。小選挙区比例代表並立制の導入後はじめての1996年総選挙では、人口の少ない県の定数が大幅に減ることに対処する激変緩和措置として「1人別枠方式」が採用されたが、その後10年以上たち、「立法当時の合理性は失われた」にもかかわらず、是正措置が執られていないことから「憲法が要求する投票価値の平等に反する状態に至っていた」と結論づけられたのである。なお、選挙の無効の訴えについては、2005年選挙の区割りに対する最高裁判決(07年)が合憲としていたため、「合理的期間内に是正されなかったとは言えない」として退けられた(東京新聞2011.3.24)。 2.参議院選挙
(2022年参院選) 「1票の格差」が最大3.03倍だった2022年7月の参院選は投票価値の平等を保障した憲法に反するとして、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は2023年10月18日、「合憲」との統一判断を示し、弁護士グループ側の上告を棄却した。16、19年選挙に続き、3回連続の合憲判断となった。 参院選の「1票の格差」を巡っては、最高裁が10年(最大格差5.00倍)と13年(同4.77倍)の選挙を違憲状態としたことで、国会は15年に公職選挙法を改正して「鳥取・島根」「徳島・高知」をそれぞれ一つの選挙区とする合区を導入した。新たな区割りで実施された16年選挙は格差が3.08倍に縮小し、19年選挙は埼玉の定数を2増したことで3.00倍とさらに縮まった。 一方、2022年選挙は19年と同じ定数と区割りで実施され、格差が0.03ポイント拡大した。国会が格差是正のために、目に見える取り組みをしなかった点をどう評価するかが訴訟の焦点となっていた。16件の高裁・高裁支部判決は、違憲1件、違憲状態8件、合憲7件と判断が拮抗した。違憲や違憲状態の判決は「是正の姿勢が後退した」などと国会に厳しい意見を述べる一方、合憲判決は「選挙改革の議論は続けられており、是正の姿勢が失われたとまでは言えない」などとしていた(毎日新聞2023年10月18日)。 (2019年参院選) 2020年11月19日の毎日新聞は以下のように報じた。 「選挙区間の「1票の格差」が最大3.00倍だった2019年7月の参院選は投票価値の平等を定める憲法に反するとして、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は18日、「合憲」との統一判断を示し、弁護士グループの上告を棄却した。「国会の格差是正の姿勢が失われたと断じることはできない」と述べ、著しい不平等状態にあったとはいえないと結論付けた。参院選の合憲判断は、16年選挙に対する17年判決に続き2回連続。 参院選の1票の格差を巡っては、15年の公職選挙法改正で「鳥取・島根」「徳島・高知」を一つの選挙区にまとめる「合区」を導入。16年選挙の格差を3.08倍に縮小させた。しかし、19年参院選は埼玉選挙区の定数を2増したのみで行われ、格差の縮小もわずかだった。この点をどう評価するかが焦点だった。 大法廷は、投票価値に著しい不平等状態が生じ、国会が合理的期間を超えて格差是正に動かない場合は違憲とするという従来の違憲判断の枠組みを踏襲した。 その上で、合区導入後の格差是正措置が埼玉選挙区の定数2増にとどまっている点について検討。参院選だからといって投票価値の平等の要請が後退して良い理由はなく、「国会の格差是正の取り組みが大きな進展を見せているとはいえない」と批判した。 一方で、国会内には参院選改革に関する見解の隔たりが大きく、合区の解消を強く望む意見があることを重視した。そうした中での定数2増は「格差是正の方向性を維持するよう配慮したといえる」と評価。解散がなく任期も6年と長い参院の独自性を踏まえると、参院選改革は段階的に進めなければならない面があるとして合憲とした」。 (2016年参院選) 参議院については、3年ごとに半数づつ改選するため、都道府県別の選挙区に少なくとも2議席づつ割り振っている結果、格差を縮めにくいという背景の中で、これまで、最大格差6倍以内が合憲ラインとされてきた。しかし、5倍前後でもそれを放置することは国会の怠慢ということで「違憲」とする判決も出された(2011年1月25日高松高裁)。参議院について、人口の少ない選挙区について県単位を併合なし分割するか、プロック制の比例代表制度にするか、その他、これまでにない形の選挙制度にすることが求められていたのである。 こうした中で、はじめての県単位の合区(鳥取・島根と徳島・高知)を含め、選挙区定数を「10増10減」する公職選挙法改正案が参議院可決(2015.7.25)後、衆議院でも可決し成立した(2015.7.28)。与党では公明党が格差2倍未満を主張し10合区を含む法案を民主党などと共同で提出したが、都道府県単位にこだわる自民党は合区数が少ない野党4党案に丸乗りする形で決着が図られた(それでも関係県の議員は本会議で退席)。かくして、この法案では2010年国勢調査に基づけば一票の格差は2.97倍にまでしか縮まらないこととなる。 私見では、議員数を増やさないことを前提に取り組んでいるのでややこしいことになるだけなのであり、議員数を人口が増加した県で増やせば簡単に解決する問題と考える。戦後人口は大きく増加したのであるから、議員数が増えていないということは過去の人口当たりの票数に比べればかなり減っているのである。議員(候補)が地元の有権者の心情・意見に寄り添うメカニズムが埋め込まれた草の根民主主義がわが国の戦後の選挙制度によって実現したとしたら、これを日本の民主主義の危機と捉える見方だって成立する。議員数が多すぎるといる前提で話が進んでいるのでこうした意見を全く政治家も有識者もマスコミも主張しないのはヘンである。実際、諸外国と比較すると日本の国会議員数は少ないのである(図録5217c)。財政負担が馬鹿にならないという意見に対しては、やや高すぎる議員報酬を人数増加に比例して減ずればよいと思う。だいたい、高額な議員報酬が必要なのは地元有権者とのつながりを維持するための私設秘書の雇用費用にあるわけだから、議員数が増えて対象有権者人口が減れば、その分、私設秘書の雇用も減らせば帳尻が合うのである。 (2013年参院選) 「1票の格差」が最大で4.77倍だった7月の参院選を巡る初の高裁判決(広島高裁岡山支部)が2013年11月28日に出され、違憲・無効とされた。「国会は7月の参院選を前に選挙区定数を「4増4減」したが、都道府県単位の選挙区は維持した。ただ、参院は9月に各会派代表による検討会を開き、(1)14年中に抜本改革案を策定(2)15年に法案を提出(3)16年参院選で新制度を導入−−の方針で一致。抜本改革を行う姿勢も見せた。これらの動きについて、裁判所がどのように評価するかが注目されていた。」(毎日新聞2013.11.28) 2014年11月26日、最高裁は、2013年の参院選の定数配分を「違憲状態」と判断した。「16件の高裁判決は、広島高裁岡山支部が参院選で初めて「違憲・無効」との判断を示したほか、「違憲・有効」2件、「違憲状態」13件で合憲判断はなかった。」(毎日新聞2013.11.26) (2010年参院選) 2012年10月17日に違憲状態という最高裁判決が出された。これで衆参両院そろって「違憲状態」という初の事態となった。 「これまで最高裁は、2院制下では衆院の優越が前提ということもあり、合憲ラインが「最大格差3倍未満」とされる衆院に比べ、参院に比較的寛容だった。参院の独自性を認めていたともいえる。しかし、選挙制度は憲法を根拠としたものではない。格差問題を追及する原告側は「憲法の要請である投票価値の平等よりも、制度の維持が優先されてはならない」と批判してきた。」(毎日新聞2012.10.18)最高裁は「選挙無効の請求を退けたが、「都道府県単位の選挙区設定となっている現行方式を改めるなど不平等状態を解消する必要がある」と異例の付言をした。」(東京新聞2012.10.18) (2016年参院選) 最大格差が大きく低下した2016年7月の参院選の「1票の格差」について、最高裁は、2017年9月27日に「合憲」との判断を示した。「10年と13年の参院選を巡る判決では、いずれも都道府県を選挙区の単位とする仕組みを維持しながら格差是正を図ることが「著しく困難」と指摘。国会は15年、鳥取・島根と徳島・高知の2合区を柱とする「10増10減」の改正公選法を成立させ、最大格差は13年の4.77倍から大幅に縮小した。今回は、この「合区」に取り組んだ是正策の評価が焦点となった。訴訟で、原告の弁護士グループは「合区は4県にとどまり、格差は解消されていない」と批判。被告の選挙管理委員会側は「反対がある中で是正策を実施した努力は十分評価されるべきだ」と反論していた。全国の高裁・高裁支部が出した1審判決は合憲が6件、違憲状態が10件だった」(毎日新聞2017.9.27)。 3.一票の格差の影響度
年齢別の投票率の違いから高齢者の票が選挙結果に反映されやすいとされるが、こうした一票当たりの地域格差も、一票の重みの大きな地域ほど高齢化が進んでいる以上、やはり高齢者の票に有利に働いていると考えられる。ただ、高齢者票の重みがどう増しているかを2009年の衆議院選小選挙区で試算してみると、こうした一票の格差による影響(65歳以上比率押上効果+0.3%ポイント)よりも、年齢別の投票率の差の影響(同+1.6%ポイント)の方がずっと大きいようである。
(2010年12月8日収録、12月17日参議院の推移表追加、2011年1月26日判決例追加、3月1日更新、3月23日2009年衆議院選最高裁判決追加、3月24日コメント追加、2012年10月18日更新、2013年3月7日更新、3月25日・26日コメント追加、11月20日更新、11月28日更新、2014年11月26日更新、12月16日更新、2015年7月26日参議院公職選挙法案可決関連、コラム追加、11月25日更新、11月26日資料を毎日新聞から東京新聞へ変更、2016年10月17日16年7月参院選の倍率更新、2017年9月27日更新、2018年12月20日更新、2020年11月19日更新、2022年2月2日更新、3月9日高裁判決出揃い、2023年1月25日衆院選裁判最高裁判決、1月29日アダムズ方式解説や図解追加、10月18日参院選裁判最高裁判決)
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