一方、トランプ大統領はEUに対して「自分の身は自分で守れ」とばかりに対GDP比5%の軍事費を要求している。日本に対しても日米安全保障条約は片務的とまで言うようになった。 現在、中国の台頭によるパワー・バランスの変化、ロシアによるウクライナ侵略を背景にNATOでは経済力に対する応分の貢献「GDP比2%」をガイドラインとしており、EUは実際GDP2%前後の国が多いが、トランプの圧力を受けて3%まで引き上げることをほぼ決めている。 中国はといえば、2025年の防衛費案はGDP比でみるならば「1.26%」でしかなく、日本の24年の「1.30%」よりも低い(ここ)。目標通りの増額を日本が実現すればGDP比で中国を上回ることとなる。 当図録では各国の軍事力についての図録5220の中で対GDP比は単年次しか示してこなかった。防衛費(軍事費)の対GDP比が上で述べたように各国で政治課題となっているので、ここでは主要国の軍事支出(防衛支出)の対GDP比の推移を掲げた。 軍事支出の目立って高い国を軍事国家とするなら、一貫して周囲のアラブ勢力と常に対峙しているイスラエルの値は常に高く、一貫して軍事国家と言わざると得ない。 このほか、1980年代には、米国、英国、韓国の値が高く、当時のソ連とともに軍事国家群を構成していた。「ミリタリーバランス」によるとソ連の防衛費の対GDP比は1980〜88年に12〜17%だったとされる。 近年では、英国、韓国の軍事費は縮小し、ソ連の後継国家であるロシア、米国が軍事国家として目立っている。 1991年のソ連解体による冷戦構造の崩壊により、米国をはじめ世界各国で軍事費支出がいっせいに縮小し、世界全体で1982年の4.3%が1999年には2.2%とほぼ半減するに至った。 米国の軍事費は2001年の同時多発テロまで縮小が続いたが、それ以降、「テロとの戦い」の名の下に、アフガニスタン侵攻、イラク戦争と軍事作戦が相次ぎ、2011年のウサーマ・ビン・ラーディンの殺害まで、軍事費は大きく増大した。 2009年には米軍を中心とするNATO軍がアフガニスタン南部の反政府組織タリバン支配地域に対する大規模軍事作戦を開始した。同年の軍事費は欧米各国でいっせいに増加した。 近年では2020年に世界各国で対GDP比が上昇したが、これは新型コロナの影響でGDPが落ち込んだにもかかわらず各国が軍事費は削減しなかったためと思われる。 その後、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を契機にNATO諸国及び日本で対GDP比が上昇傾向に転じた点が印象的である。一方、米国の対GDP比はほぼ横ばいであり、米国は「世界の警察官」の役割を放棄し、NATO諸国や日本に応分の負担を求める方針に転換したように見える。ウクライナ戦争停戦交渉に向けての、米国ばかりに押しつけて平気な顔をしないでくれと言わんばかりのトランプ大統領の態度は2010年前後の米国の大きな突出はもう繰り返さないぞという決意のあらわれなのだろう。 中国は、軍事大国化が日本をはじめ世界から懸念されているが、総額は母数のGDPが増大したのでやはり大きいが、対GDPでは最新で1.7%と主要国と比較して低い。 日本はかつて各国で大きく軍事支出がアップダウンしていた頃にもそうした世界の大勢にかかわりなく、ずっと対GDP1%以下を維持し続けていた。最近の動きとしては、1%以下の準則をあっさり放棄した点が目立つが、そのことより、世界の動きにはじめて追従するようになった変化の方が印象深い。 (2025年3月13日収録)
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