当図録より比較対象国数が多く、年次も新しい「議員報酬の国際比較」を図録5216dに掲げたのでこちらも参照されたい。 国会議員の定数は以下の図のように英国、ドイツ、フランスより少なく、米国より多い(人口当たりにすれば、さらにこの点は際立つ。人口当たりの国会議員数の国際比較は図録5217c)。 図録のように議員1人当たりの年間収入では、議員歳費は、米国、英国、ドイツ、フランスと比較して、最も高くなっている。この他、議員秘書として日本の場合、政策秘書1人、秘書2人の3人を公費でまかなうことで可能であり、こうした公設秘書の給与が約2千万円となっている。公設秘書給与は、米国の場合は、1議員が非常に多くの秘書スタッフを抱えており(同資料では上院平均42.9人、下院平均16.7人)、従って、日本よりずっと多いが、欧州の秘書手当は日本よりむしろ少なくなっている。
こうした日本の政治家の高い給与は、国政活動に対する対価というより、地元活動の経費という側面が強い。歳費の多くが、地元秘書の給与として使われるからである。地元秘書は私設秘書が主であるが、公設秘書で地元に常駐する場合もある。地元秘書は、選挙区の個人後援会、支援団体、その他各種団体、地方自治体、地方議会議員などとの連絡や要望等の吸い上げ、中央官庁への陳情の媒介、選挙民の国会見学や東京見物のツアーコンダクター等に当たる。日本の国会議員「の活動のかなりの部分は選挙を念頭に置いた、選挙区の住民に対するサービスに割かれています。冠婚葬祭への出席は極めて重要ですし、選挙区からの陳情を役所などに繋ぐことも大切です。(中略)つまり、日本の政治家の役割は、法律づくりや予算編成ということではなく、むしろ、アメリカのロビイストに近いものなのです。選挙民やその他の支援者たちの要請を受けて、役所にかけあったり、法律作成のときに要望したりするわけです。」(榊原2011)日本における政治とカネの問題は政治家の地元経費が国会議員としての公的な収入では足りないため起こるといってもよいであろう。 中選挙区時代には、国政選挙が政党の公約やイデオロギーを軸に行われるというより、自民党の派閥間競争として行われる側面が強かった。そのためこうした個人後援会を中心とした地元の人的コネクションづくり(すなわち地盤づくり)を最優先する政治風土が形成されたと思われる。衆議院において解散がいつあるか分からないので常日頃から地元活動に重点を置かざるを得ないという条件も大きく影響している(韓国は大統領制であり解散がないため国会議員は任期が終わる前年ぐらいから地元活動を強化すればよいときく)。 小選挙区時代に入っても現職議員が対立候補に対する有利性を維持するためこうした政治風土がなお続いているが、2大政党制が定着し、地元活動のきめ細かさや実績ではなく、政党間の政策・イデオロギー、あるいは人気取りのうまさが当落の決定要因となってくれば、事態は変化していくと考えられる(図録5217も参照)。 地方議会の議員収入も概して欧米諸国よりも高くなっている。「欧米では地方議会はボランティア性格が強く、ほかに職業を持っている人たちが、パートタイムで地方議員をやっていることのようです。前述したように、ドイツやフランスでは国家公務員が公務員のまま地方議員を兼職するケースが少なくありません。つまり、地方議員たちはプロの政治家というより、その地方で働く官民の有力者たちがパートでその役割を果たしているのです。この点、国会議員予備軍とでもいえる日本の地方議員とは大きく性格を異にしているのです。」(榊原2011)国家公務員の政治家兼職については図録5217参照。 *参考文献 榊原英資(2011)「公務員が日本を救う〜偽りの政治主導との決別〜 」PHP(社会実情データ図録からの引用複数あり) (2011年8月22日収録)
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