貴重であるけれど得難い金属として、2007年現在、31種類の金属が経済産業省や石油天然ガス・金属鉱物資源機構によってレアメタルと呼ばれている(ただし17種ある希土類元素はまとめて1種と取扱い)(後段コラム参照)。

 ここではレアメタルの地殻中の存在量と単位当たり価格を図に掲げた。希土類は省略したが、金・銀・銅はレアメタルでないが参考として掲げた。

 最も多いレアメタルはチタンであり、最も少ないレアメタルは白金、パラジウム、レニウム、テルルである。

 値段が最も高いのは、白金であり、1g単価5,500円。第2位はセシウムであり5,000円である。これらは金の価格の約2倍の価格となっている。逆に最も安価なのはジルコニウムであり、約0.1円である。レアメタルはほとんど1g1円以上であり、1g1円理論(1グラム1円理論)(図録0410参照)からすると高価な物質といってよい。

 なお、存在量と単価の相関をみると、量の少ない金属ほど高価だという関係が成り立っているが、相関度はそれほど高いわけでもない。

 レアメタルは、図録4090で見たように電気自動車の蓄電池や太陽光など自然エネルギーによる発電設備に必要なことから脱炭素社会へ向けたエネルギー転換にともなってますます需要が増大しつつある。また、産出地が限られているので、国際紛争などで産出国からの輸入が止まる事態となるとそれを使う工業製品が生産できなくなる不安が高まり価格が高騰したりすることが多い。

 2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件では、中国側が、レアメタルの一部であり他のレアメタルと同様にハイテク製品等の製造に不可欠なレアアース(希土類)の輸出を中国側が差し止めたのではという恐れが日本の経済界を揺さぶった。

 2022年2月末にはじまったウクライナ侵攻でロシアが世界の4割を供給しているパラジウムの価格が急騰した(注)

(注)この点を東京新聞の記事(2022.4.3)は次のように報じている。「車の排ガスを浄化する触媒には、レアメタルの中でも高価なパラジウム、白金、ロジウムなどが使われます。最も多く使われるパラジウムの価格は3月に一時、1グラム1万1千円を超えました。昨年末の倍以上です。

 京都大の田中庸裕教授(触媒化学)によると、ガソリン車には、パラジウムが1台あたり2〜3グラム使われています。トヨタ自動車の広報担当者は「希少元素の調達リスクには注意を払って確保してきたので、即座に影響は出ないが、ロシア情勢が長引けば影響してくるだろう」と話します。

 触媒に使うパラジウムは微細でインクにように真っ黒い粉です。なぜ高価なのでしょうか。レアメタルに詳しい東京大生産技術研究所の岡部徹教授は「鉱石の中にわずかしか含まれず、掘り出すのに百万倍のごみが出るから」と解説します。南アフリカやカナダの鉱山では、採掘1トン当たり1〜2グラムしか採れませんが、ロシアの鉱山は質が高いため、世界最高の同7グラムも採れるといいます」。

 同記事では、パラジウムの使用を9割削減したり、パラジウムの仲間の希少金属を使わない車の排ガス浄化触媒の開発が進められているとも報じられている。

 レアメタルは特定国に偏在しているが、同位体比も地域に異なっている場合があり、それがアサリなど貝類や海藻類などの産地偽装を防ぐ役割をもっている点が最近注目された(下図)。


 世界最強のネオジム磁石をはじめとする「永久磁石」は、自動車や家電製品、医療機器などさまざまな分野で利用され、社会を支えている。大同特殊鋼の佐川眞人顧問が開発したネオジム磁石は強い磁力を生かしてモーターの高効率化を実現し、省エネルギーに大きく貢献している。永久磁石の開発の歩みをひもとくと、多くの日本人研究者が大きな功績を残してきたことが分かる(東京新聞2024.11.24、下図参照)。


「鉄やコバルトなどに希土類を加えた「希土類磁石」は60年代後半から開発が進みました。その代表例が、コバルトに希土類のサマリウムを加えた「サマリウム・コバルト磁石」です。信越化学工業の磁性材料研究所長などを務めた俵好夫博士(今年2月に死去)が、この磁石の改良に貢献しました。俵博士は歌人の俵万智さんの父で、歌集「サラダ記念日」には「ひところは『世界で一番強かった』父の磁石がうずくまる棚」との句が収められています。永久磁石の開発は、日本の「お家芸」ともいわれています。入山さんは「材料を溶かして固めればそのまま磁石ができあがるわけではなく、それぞれの工程で工夫が求められる。日本は工夫する能力で優れたものを持っている」と分析します。(中略)ネオジム磁石は熱によって磁力が低下するという弱点があります。これまでの研究で、高温の領域ではネオジム磁石を超えるポテンシャル(潜在能力)を持つ材料は見つかってきています。そのうちの一つは、サマリウムと鉄を組み合わせた「サマリウム鉄系」という磁石です」(同上)。

【コラム】レアメタル

 レアメタル(希少金属)については、国際的に統一された定義は存在しないが、一般的には、「地球上の存在量が稀であるか技術的・経済的な理由により抽出困難な鉱種等」を指すものと考えられる。鉱業審議会鉱山部会レアメタル総合対策特別小委員会(現 総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策部会)では、「工業需要が現に存在する、あるいは、今後見込まれるものについて、その安定供給の確保が政策的に重要であるもの」と位置づけており、現在、31 鉱種(30 鉱種及びレアアース。)の元素等を「レアメタル」として定義している。

 レアメタルは、他の元素と合金にすることにより、特殊な性能や機能をもつようにできる特徴があり、液晶テレビ、携帯電話、ハイブリッド自動車などといった我が国が国際競争力を有するハイテク製品等の製造に不可欠な原材料となっている。

 また、レアメタルは、資源の賦存・生産が特定国に偏在しているものが多いことが特徴であり、レアメタル供給のほとんどを海外からの輸入に依存している我が国にとって、その安定供給の確保は非常に重要となっている。
(資料)2007年版ものづくり白書

 以下にレアメタルとレアアースの一覧表を掲げる。

レアメタル
  原子番号 元素名 元素記号 地殻内
存在量ppm
(百万分の1)
価格
(1g当たり)
価格の対象 主な用途 主な埋蔵国
1 3 リチウム Li 20 0.58 酸化リチウム ガラス、冷媒吸収材、リチウムイオン電池正極材 チリ(81%)、米国、ロシア、中国(4国で99%)
2 4 ベリリウム Be 3 4.5 2006年 ベリリム銅合金、X線検出器窓、原子炉構造材 (採掘国は米国、ブラジル、ロシア)
3 5 ホウ素 B 10 550   ガラス、ホーロー、防虫剤、医薬品 米国、ロシア、トルコ、中国、カザフスタン(5国で90%)
4 22 チタン Ti 4400 1.3 フェロチタン 合金、顔料、光触媒 中国、豪州、南ア、インド(5国で80%)
5 23 バナジウム V 140 4.3 フェロバナジウム 鉄鋼、展伸材、超電導材、触媒 ロシア、南ア、中国(3国で100%)
6 24 クロム Cr 100 0.28 フェロクロム ステンレス、合金、セラミックス 南ア(83%)、カザフスタン、ジンバブエ(3国で96%)
7 25 マンガン Mn 950 0.19 フェロマンガン 鉄鋼、合金、電池、磁性体、薬品 南ア、ウクライナ(2国で75%)
8 27 コバルト Co 26 6.6   超硬工具、特殊鋼、磁性体、触媒 コンゴ(50%)、キューバ、ザンビア、豪州(4国で90%)
9 28 ニッケル Ni 76 3.2   ステンレス、メッキ、触媒、磁性体、電池 ロシア、キューバ、カナダ、ニューカレドニア、豪州、中国(6国で75%)
10 31 ガリウム Ga 10 140 2006年 LED、半導体素子、超電導材、マイクロ波特性、磁気感応性 (採掘国はカザフスタン、フランス、ロシアなど)
11 32 ゲルマニウム Ge 1 87 二酸化ゲルマニウム 蛍光体、半導体素子、触媒、健康サプリ  
12 34 セレン Se 0.04 8.8   乾式複写機感光体、顔料、太陽電池 チリ、米国、カナダ、ザンビア(4国で55%)
13 37 ルビジウム Rb 93 2400   ガラス、触媒 リチウム製造の副産物として得られ、リチウムに同じ
14 38 ストロンチウム Sr 370 7.4 炭酸ストロンチウム ブラウン管ガラス、磁性体、花火 パキスタン(100%)(採掘国はスペイン、メキシコ、トルコなど)
15 40 ジルコニウム Zr 167 0.09 ジルコニウム鉱 耐火材、原子力燃料被覆管 南ア、豪州、ウクライナ(3国で80%)
16 41 ニオブ Nb 20 8 高純度単体2006年 鉄鋼、超伝導材、耐食材、ナトリウム・ランプ、コンデンサ・レンズ ブラジル(94%)、カナダ(2国で98%)
17 42 モリブデン Mo 1.4 8.087 モリブデン鉱 特殊鋼、合金、触媒 米国(45%)、チリ、中国、カナダ、ロシア(5国で90%)
18 46 パラジウム Pd 0.01 1400   水素化触媒、排ガス触媒、電子部品、宝飾品 白金参照
19 49 インジウム In 0.1 77   低融点合金、蛍光体、透明電極、半導体素子 カナダ、中国、米国(3国で55%)
20 51 アンチモン Sb 0.2 0.65   合金、特殊鋼、難燃材 中国(38%)、ロシア、ボリビア、南ア(4国で90%)
21 52 テルル Te 0.01 15   特殊合金、複写機感光体、書き換え可能DVD/CD、金属間化合物 米国、カナダ、ペルー(3国で20%)
22 55 セシウム Cs 3 5000 高純度単体 メタアクリル樹脂用触媒、光ファイバ、光電素子 カナダ(70%)、ジンバブエ、ナミビア(3国で100%)
23 56 バリウム Ba 429 200   X線造影剤、ブラウン管ガラス、コンデンサ、磁性体、顔料 (採掘国は中国など)
24 72 ハフニウム Hf 4 2600 高純度単体 原子炉制御棒、ガラス、耐熱合金 南ア(60%)、オーストラリア(2国で80%)
25 73 タンタル Ta 2 17 2006年 耐熱材、コンデンサ、超硬工具、原子炉制御棒 豪州、ナイジェリア、カナダ、コンゴ(4国で84%)
26 74 タングステン W 1 1.89 三酸化タングステン 超硬工具、管球フィラメント、特殊合金、触媒 中国(44%)、カナダ、ロシア、米国(4国で75%)
27 75 レニウム Re 0.01 1000   Ni-RE超耐熱合金、合金、石油精製装置触媒 チリ(50%)、米国、ロシア、カザフスタン(4国で90%)
28 78 白金 Pt 0.01 5500   宝飾品、排ガス触媒、投資用製品、電子部品 南ア(90%)、ロシア、米国、カナダ(4国で99%)(白金族鉱石について)
29 81 タリウム Tl 0.4 150 高純度単体 殺鼠剤、低融点ガラス 米国(8%)
30 83 ビスマス Bi 0.2 3.7   低融点合金、金型用合金、磁性体、電子部品、触媒、高温超伝導 中国、豪州、ペルー、ボリビア、メキシコ(5国で60%)
31 79 (参考)金 Au 0.004 2500      
32 47 (参考)銀 Ag 0.07 50      
33 29 (参考)銅 Cu 60 0.85      
(注)レアアース(希土類)(中国、旧ソ連、米国、豪州、インドに埋蔵(5国で80%))は下表
(資料)小谷太郎「宇宙で一番美しい周期表入門」2007年

希土類(レアアース)
原子番号 元素名 元素記号 主な用途
1 21 スカンジウム Sc  
2 39 イットリウム Y 蛍光物質材料
3 57 ランタン La (以下ランタノイド)
4 58 セリウム Ce  
5 59 プラセオジム Pr 黄色の顔料
6 60 ネオジム Nd 強力な磁性体の材料
7 61 プロメチウム Pm 放射性元素
8 62 サマリウム Sm 強力な磁性体の材料
9 63 ユウロピウム Eu 蛍光物質の材料
10 64 カドリニウム Gd 磁性体材料
11 65 テルビウム Tb 蛍光体材料
12 66 ジスプロシウム Dy 蛍光体材料
13 67 ホルミウム Ho 最も高い磁気モーメント
14 68 エルビウム Er 光ファイバー
15 69 ツリウム Tm 放射線計量
16 70 イッテルビウム Yb 顔料、写真フィルタ
17 71 ルテチウム Lu  
(注)(資料)同上

(2008年6月16日収録、2010年9月30日レアアース記述追加、2018年4月12日レアアース表追加、2022年4月3日ウクライナ侵攻にともなうパラジウム価格高騰の(注)、5月20日ネオジム同位体比、2024年11月28日ネオジム磁石などの永久磁石)


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