家計調査による所得格差の推移を図録4663に掲げたが、ここでは、国民生活基礎調査による所得格差の推移を図示した。2つの調査の大きな違いは、前者が二人以上の世帯を対象としているのに対して、後者は単独世帯を含む全世帯を対象にしている点である。更に、後者の所得階級で長い時系列を見れるのが四分位階級(所得の低い方から25%づつの世帯数で区分)であるのに対して、前者は五分位階級(所得の低い方から20%づつの世帯数で区分)であるという違いもある。(もうひとつは、家計調査の方が最近年までのデータを得られるという点に違いがあり、その点で優位性があるともいえる。)

 国民生活基礎調査の所得や家計調査の年間収入は税や社会保険料を差し引く前の所得・現金収入(年金等の給付額を含む)である。

 国民生活基礎調査において、最近、四分位階級データが公表されず、五分位階級データに置き換えられたので、長期的に分かる四分位階級データの所得格差と近年の五分位階級データによる所得格差を両方かかげた。両者は基本的にパラレルに動いている。

 国民生活基礎調査によると、2000年代前半まで、低所得世帯に対する高所得世帯の所得倍率は一貫して上昇傾向にあった。すなわち所得格差が広がり続けていた。その後2000年代前半にほぼ横ばいか下降気味に転じたといえる。

 所得格差の推移を、家計調査と比較すると、家計調査と国民生活基礎調査の所得格差の推移は、1970年前後からほぼパラレルに推移してきたことが分かる。2000年代からは家計調査の所得格差推移が明確な低下傾向、国民生活基礎調査の動向が横這いに近い低下傾向とやや差が出ている。

 両調査の倍率レベルの大きな差、およびこうした近年の動向の差は単独世帯(現在世帯数の28%)を含むか含まないかの差によるところが大きいと考えられる。

 単独世帯は、かつては若者のひとり暮らし世帯が主であったが、最近では、その増加のほとんどは高齢者の単独世帯の増加で占められている。単独世帯の所得は、賃金がまだ低い若者にせよ、年金生活者が多い高齢者にせよ、平均的な世帯と比べ所得が低い点に特徴がある。従って、単独世帯の比率が増加すると、それだけで、所得格差が拡大する方向に影響を与えるのである。

 一般に所得格差という概念で、人々が、捉えている社会現象は何かによって、どちらの統計を使用すべきかが決まる。家計調査を使用する方が、通常の概念の所得格差に近いとも言える。

 最後に、通常所得格差の指標として使用されるジニ係数の推移とここで使用した所得倍率の推移とを対比させた図を下に掲げた。両者はほぼパラレルに変化していたが、近年はジニ係数より所得倍率の方が低めに推移しており、最低と最高の格差より中間格差の方が大きくなっているようだ。所得の高い大家族が減り、最低所得層が社会保障で底支えされているためと思われる。


(2006年2月22日収録、4月24日更新、2008年9月9日更新、2009年11月10日更新、2011年3月11日更新、2012年2月23日更新、11月30日更新、2014年7月15日更新、2015年7月5日更新、2016年9月22日更新、2017年6月28日更新、ジニ係数、2018年7月22日更新、2019年7月9日更新、2020年8月8日更新、2022年9月30日更新、2023年7月24日更新)


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