NHKで2024年に放映された「3か月でマスターする世界史」(全12回シリーズ)では、世界史をアジアからの視点でとらえ直し、古代から現代まで“歴史の大きなつながり”を描くことを目指していた。その中で、産業革命以降に世界の中心地域に躍り出た欧米先進国は、それ以前には中国・インド・オリエントなどアジアが中心だった世界の辺境地域に過ぎなかったことが強調された(注)。そしてそれを示すグラフとして今回取り上げたマディソン作成の世界GDP地域別シェア・データに基づく推移図が示された(第10回、出典は示されていなかったが)。

(注)もっともNHKシリーズの講師岡本隆司はこの趣旨でこのグラフを掲げている割には、マディソン統計は従来の西洋史の基準・方法そのままであって信用できないとし、次のように評している。「「中国」の明清時代をみるだけで、その「大胆強引」さは推して知るべし。「1500」年から以後300年、一人当たりのGDPが「停滞していた」前提で推計しており、およそありえないことである」(「世界史序説─アジア史から一望する」ちくま新書、2018年)。中国の一人当たりのGDPが1500年以降伸びていたとすると中国のGDPシェアはもっと低いレベルから出発したことになる。なお、マディソンの一人当たりのGDPの地域別推移については図録4545参照。

 放映の際は1998年までの推移図が用いられていたが、ここではさらに2001年、2022年にまで延長した。

 確かに、産業革命以前には、中国、インド、日本、その他のアジア地域のGDPが、西欧、東欧・旧ソ連、米国といった欧米地域のGDPを大きく凌駕していたことが図から明確に見て取れる。

 それにしても産業革命以降の西欧と東欧・旧ソ連の躍進とヨーロッパに続いてそれを上回る急激なシェア拡大を実現した米国の動きはまことに印象的である。この欧米地域の躍進は産業の近代化に伴う経済発展だけでなく、欧米の植民地化されたアジア地域(日本を除く)の大きな落ち込みの反映でもある。

 インドのGDPシェアが西暦1年の32.9%が1973年に3.1%まで落ち込んでいるのがひときわ目立つ大変化である。世界一栄えていた地域から世界一停滞した地域へと落ち込んだのだから驚く変化である。同様に中国も最盛期1820年の32.9%がボトム期1950年の4.5%まで落ち込んでいる。

 図からはこうした近代化にともなうアジアと欧米の主役交代だけでなく、近年におけるアジアの復活・復興も印象的である。一般には中国のGDPが米国を追い越し世界1の経済大国となるのはいつごろか、またそれはかなり先になるのではないかと言う議論がされているが、当図録が引いているマディソンデータベースは、為替レート換算ではなく、購買力平価を使用していることもあってすでに2022年には米国のGDPを中国のGDPが上回っている。

 日本が先駆けとなったGDPシェア拡大は中国、インド、その他アジアに引き継がれ、今やアジアの合計シェアは欧米の合計シェアに追いつき、さらに追い越しているのである。

 なぜ、アジアの中で日本だけがいちはやくGDPシェアの拡大を実現できたのだろうか。これは、近代資本主義が西欧だけでなく日本でもいちはやく発達できたのは何故かという旧来からの経済史のナゾ、そして資本主義の発生をプロテスタンティズムと関係づけるウェーバー説にならうと何故、日本においてプロテスタンティズムと同じ機能を果たした思潮は何だったのかという問いと同じである。

 この点に関して上にかかげたNHKの世界史シリーズでは、世界史の大きなつながりをもたらした以下のような地域概念図を掲げている。


 世界の文明をはぐくんだのは、農耕地のほか砂漠や草原を抱え、狩猟民、遊牧民、商業民や農民が相互に交流し、切磋琢磨する多元的・複合的な地域だった。西欧と日本は辺境地域として、こうした多元的・複合的な地域でなかった点が共通であり、そのためかえって、文明中心のオリエント、東アジアに先んじて近代化を成し遂げることができた。複合的な地域で歴史的に発達した旧来型の広域統治システムとそれを支える民族協和思想・人類普遍思想(オリエント宗教、儒教など)から自由であったため、自地域における経済優先の資本主義を発達させ、さらに経済力を背景にキリスト教・白人優越意識を抱き、技術的優越性に基づく武力の下、旧来型地域を「遅れた地域」として帝国主義的に支配するにも至ったと考えられる。これが上でふれたアジアの時代から欧米の時代への大逆転だったわけである。

 これは、エマニュエル・トッドが指摘したように(図録部品0003)、西欧と日本という辺境地域故に残存していた人類最古の家族形態である核家族がむしろエンゲルスなどによって大家族・複合家族が崩壊していったもっとも現代的な家族制度に見えていたのと同様の原理だと考えられる。

(2026年1月16日収録、1月17日推移データを2022年まで延長)


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