雪が降る可能性のある平均気温3℃以下で降水量が多い都市としては北越地方(北陸地方)が多く、特に十日町市、上越市高田、長岡市といった県西部の上越地方、県中部の中越地方が目立っている。新潟県でも新潟市が属する県東部の下越地方は、福井、金沢、富山より降水量が少ない(雪も少ない)。 冬の日本海側で平地でも大雪が降るのは、冷たく乾いたシベリアの寒気団が日本海の海上を吹き渡りながら、暖流の対馬海流からたっぷりと熱と水蒸気を供給され、地表付近の大気が次第に不安定となって積雲が発達し、その結果、大量の雪を降らせるからである(下図参照)。特に12月は日本海の海水温がまだ十分に下がりきっていないため真冬の頃よりも水蒸気量が多くなる。そのため一度寒波が来ればドカ雪になりやすく予想以上に積雪が急増する場合があると言われる。 上越地方で最も大雪となるのは、日本海を渡る距離がもっとも長いからだと考えることができる。 大陸との距離が短くなるにつれて降水量が上越型より少なくなる東北型、北海道型の特徴は以下の通りである。
関東(東京)に住む人間にとっては、寒気が入るときは大抵関東平地だけ「寒気や雪の蚊帳の外」になるし、日本海側の大雪は正直「対岸の火事」にしか見えないといった感想をもつ場合が多い。 川端康成の代表作「雪国」の有名な「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という文章は日本海側ではなく太平洋側の住民の感覚をよく突いているので人口に膾炙することになったと考えられる。 大雪に見舞われる地域は自然の厳しさを強く感じている地域である。NHKの全国県民意識調査で、自然や気候の厳しさを特に感じている上位県は、青森、秋田、山形、新潟といった冬の積雪量の多いことで知られている地方であり(図録7228)、県内地域差を見ても例えば、福島のうち自然や気候の厳しさを特に感じているのは、中通り、浜通りでなく、積雪の多い会津である(図録7228a)。 さらに、別の意識調査によると降雪量の多い地域と少ない地域とでは「大雪の基準」がずいぶん異なっていることが分かっている(下図参照)。 九州や四国では雪が5p以上降れば「大雪」と感じるのに対して、大雪の降る新潟から福井までの北陸諸県では50p以上積もらないと「大雪」とは感じないという結果となっている。「1日に1〜2mくらい積もらないと、特別大雪とは思わないですね」(新潟県)、「一晩で1m弱の積雪量はそれほど驚く光景では無かった」(石川県)というようなコメントもあったという。 県別の数値にはあらわれないが、太平洋側では降雪が少ないことが影響して県内で差が大きいのは福島県であり、「2階から、出入りすると大雪かな? かまくらを作ったり、ソリの滑り台が作れると、大雪かな?」という豪快なものから「5cmではなく、3cm積もったら大雪かなぁ」というコメントまであるという。 興味深いのは、沖縄で「50cm」「1m」と回答する人の割合が比較的高かったことである。「文字通り大雪。身の丈ほど……って感じです。うちは降らないので」(沖縄県)、「雪降らないから、イメージです」(沖縄県)というコメントが寄せられているように、地元での大雪体験がないことが影響しているようだ。 冬の日本海側における大雪は世界の中でも珍しい気象現象であるが、「日本の雪国と比較的よく似た気候条件を持つのは、冬の北米大陸の五大湖の南岸である。この地域ではカナダの寒気団からの風がミシガン湖やヒューロン湖などを吹き渡る際に水蒸気を供給されて、これらの湖の南岸・東岸域に雪をもたらしており、「レイク・エフェクト・スノー(湖水効果雪)」とか「レイク・スノー」と現地ではよばれている。しかし、これらの湖の表面水温は日本海ほど高くないため、降雪量は日本海側に比べてはるかに少ない。たとえば、エリー湖の東岸に位置するバッファローは、このレイク・スノーで有名な都市であるが、数十p積もれば結構な大雪である。しかも、厳冬期に入ると湖面が凍結してしまう湖が多く、レイク・スノーは11月から12月にかぎられている」(安成哲三「モンスーンの世界」中公新書、2023年、p.108、下図参照)。 米国の冬季オリンピックといえばニューヨーク州のレークプラシッドが名高く、このスキーリゾートで1932年と1980年の2度開催された。これもレイク・エフェクト・スノーの恩恵と言えよう。 日本海側の大雪減少が地球温暖化でどう変化するかは、気圧配置、海面温度、平均気温などが複雑に作用するので一概に言えないが、海面温度が上昇し蒸発量が増えて降水量(降雪量)が増える一方で、平均気温が上がり、平地部では降雪が降水に変化して大雪は減るという可能性もある(安成、同上、p.261)。 (2023年12月24日収録)
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