走行、泳行、飛行を含めた動物の移動スピードのランキングを掲げた。そのうち泳ぐスピードだけのランキングをクジラ、ヒト、ウミヘビなどを含め図録4171bに示した。

 動物の走る速度ナンバーワンはチーターであることはよく知られている。上の図のデータでは、時速115キロである。

 もっともチーターの速度が維持できるのはせいぜい数百メートルであり、長くは走れないこともよく知れている。

 速いスピードでどこまでも走れるのはエダツノレイヨウ(プロングホーン)であり、最高速度は85キロだが、「時速48キロで14分、80キロで1分7秒走り続けた記録がある」という(アネット・ティゾン&タラス・テイラー「どうぶつなんでも世界一」評論社、以下、特に断らない限り、コメントの出典は同じ。同じ資料によるどうぶつのジャンプ力のランキングについては図録4171aで紹介した)。

 ウィキペディアでは、エダツノレイヨウについてこう記されている(2019.5.26)。「走るのが速く最高時速は88kmに達し、さらに時速70km以上の速度を維持しつつ長距離を走ることができるとされ、長距離走においてはチーター以上の速さを誇る動物とされている。なお、そのチーターもかつては北アメリカにも生息していたことが判明しており、プロングホーンの足の速さはチーターから逃げる為に発達したものだという説もある。(2019年5月24日放送の『チコちゃんに叱られる!』では、世界に2番目に速い動物としてプロングホーンが取り上げられ、このチーターから逃げ切れるように脚力が発達した説が紹介された。)」

 ウサイン・ボルトの100m世界記録は時速に換算すると38キロであり、ゴリラ、アフリカゾウの40キロには及ばない(人間がどこまで速く走れるかについては図録3988k参照)。

 直立2足歩行が霊長類から進化した人類誕生のゆえんと考えられているが、実は、前足駆動を使える四足歩行の霊長類と比べ、走るスピードの点では不利である。これは、草原で暮らすパタスモンキーやヒヒの走る速度が時速50〜55キロと早く、肉食獣から逃れるために重要だったのと比べ、また森で暮らすゴリラが50キロなのと比較しても、人類最速のウサイン・ボルトでも勝てないことからもよく分かる。

 肉食獣に襲われやすい環境で種として生き抜くためには多産が必要である。草原に住む霊長類は、森林に住む霊長類よりも多産の傾向がある。走るのが遅い人類は、まだ道具や知能を発達させる前には、草原に住む霊長類を上回る多産で生き抜いたと考えられる。それが可能だったのは、生理的な多産に加え、母だけでなく父や社会が子育てをする集団性の獲得の効果だったと言われる(更科功「絶滅の人類史」NHK出版新書、2018年、p.99〜107)。

 蛇(ヘビ)の中では、キングコブラと並ぶ毒蛇ブラックマンバの移動速度の速さが知られている。ウマより速く移動できるとも言われているが、ウィキペディアによれば(2017.10.6)、これは事実ではなく、実際は時速16キロ(50mを11秒程)程度であり、小学校低学年の走力上位者の50m9秒〜10秒より速いので深い草むらや密林などでは追いつかれる可能性があるとされる。

 こうした陸上動物の走る速さは、ただし、短距離走におけるスピードであり、長距離走では話が異なる。二足歩行のヒトは短距離走では劣るが、体毛が薄く、体温を下げるために汗をかけるので、長距離走ではかなり速い方であり、「逃げるのは苦手だが、追いかけるのは得意」である。短距離走ではヒトを上回るウシやシカでも、姿が見えれば、また足跡がたどられれば、いずれヒトに追いつかれて狩られてしまう。

 英国ウェールズでは1980年から毎年、何百人ものヒトと何十頭ものウマが一緒に参加するマラソン大会が全長35キロメートルのコースで開催されている。かなりの好勝負が展開されていたが優勝するのはいつもウマだった。しかし、25年目の2004年にはついにヒトが優勝した。長距離ではヒトがウマに勝てるのである(更科功「残酷な進化論」NHK出版新書、p.175〜176)。

 陸上での走行ではなく、水中で泳ぐ速さであるとバショウカジキの時速109キロが最も速く、クロマグロの100キロがこれに次いでいる。

 ヨーロッパウナギは、産卵期になると、川を下り海へ出て、サルガッソ海に渡って産卵するまでの旅行が4000〜6000キロの距離であり、毎日、時速25〜30キロで泳ぎ続けるというから凄い。

 飛ぶスピード(空中飛行)としては、速くなったり遅くなったりではあるがアルプスアマツバメが時速200キロと最も速い。持続的な速度としては、渡り鳥のタゲリは3,500kmの距離を時速145キロで24時間単位で飛んで行くというからこれまた凄い。

 もっとも、空中での降下移動として、狙った小鳥にむかって急降下するハヤブサのスピードが時速360キロと動物のすべての移動の中で最速である。ハヤブサは地面の上にいる動物や小鳥は狙わない。というのもこのスピードでは地面に衝突して死んでしまうからである。これ、笑い話。なお、ハヤブサの500〜700m上空での水平飛行は最高時速100キロであり、ハトより遅い。

 図には示していないが、特殊な移動方法として、ヨーロッパモグラは2メートルのトンネルを12分で掘り進むそうである。

 取り上げている動物は、図の順番に、チーター、エダツノレイヨウ、ブラックバック、ライオン、ダチョウ、競走馬、ガゼル、ノウサギ、シマウマ、グレイハウンド犬、エミュ、パタスモンキー、ヒヒ、キリン、カンガルー、ミチバシリ、ゴリラ、アフリカゾウ、ウサイン・ボルト(人間)、ムスジハシリトカゲ、ブラックマンバ、ラクダ、ニワトリ、バショウカジキ、クロマグロ、メカジキ、シャチ、ペンギン、ヨーロッパウナギ、アルプスアマツバメ、ハト、タゲリ、ブラジルオヒキコウモリ、ハヤブサ、ハヤブサ、イヌワシ、グンカンドリである。

(2017年10月6日収録、2019年5月26日エダツノレイヨウ、2020年10月31日パタスモンキー、ヒヒ、ゴリラ、2021年5月11日長距離走ではヒトがウマに勝てる)


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