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単年次ではこころもとないので主要国50カ国の2000年シドニー大会から直近のパリ大会までの7年次分のデータを示している。 結論的には基本的には経済規模に比例してメダル数が増える関係にあることが理解できるであろう。 図中には回帰傾向線(対数回帰)を示したが、この線より上の国は経済規模以上にメダル数が多い国、下の国は経済規模に比してメダル数が少ない国と評価できよう。 回帰傾向線より上の場合は国威発揚型の国と言えるであろう。米国、中国、英国、フランスなどは国威発揚型である。日本はどちらかというと国威発揚からは遠い国であり、ドイツも日本のパターンに近づいている。 2024年パリ大会で米国は中国とメダルランキングのトップを争ってデートヒートを繰り広げたが、メダル総数では中国を圧倒的に引き離しており(図録3983r参照)、経済規模との関係では、他国と比較してひときわ多くのメダルを獲得しており、その状況がますます強まっている点で目立っている。国際政治上でやや失われてきている威信をスポーツで取り戻そうとしているようにも見える。 他方、相対的なメダルの少なさが目立っているのはインドである。人口では中国を追い抜いたインドであるがパリオリンピックのメダル数では6個(金メダル0個)と中国の91個(金メダル40個)とまるで比較にならない。なお同じ南インドの人口大国パキスタンはメダル数1個、バングラデシュは0個である。頭脳や経営では優秀であるインド人は何故スポーツには力が入らないのかは大いなる謎である。 オリンピック大会の自国開催がメダル数を増やす効果がある点はよく知られている。図中に自国開催の場合にはマルに黄色の印を付けておいた。図を見れば、2000年のシドニー大会がオーストラリアの、2008年の北京大会が中国の、2012年ロンドン大会が英国の、2021年東京大会が日本の、そして2024年パリ大会がフランスのメダル数の増加に大きく寄与したことは明らかである。 そして自国開催から1〜2回後の大会でもその余波でメダル数が高止まりする傾向も見て取れる。ただし、日本の場合、2021年の東京大会で急増したメダル数は次のパリ大会では急減し、自国開催の余波は少なくともメダル総数については見られない(金メダル数は明らかに余波が認められるのであるが)。 (2000〜16年図のコメント) 表示選択で更新前の2000〜16年図を掲げた。その際のコメントは以下であった。 人口規模がメダル数にプラスに作用することは明らかである。例外的な能力を有するアスリートは少人数の中からはなかなか出て来ないだろう。また、1人あたりのGDPで測られることが多い経済発展度も、身体の健康やスポーツする生活の余裕、また競技施設の充実度などの点からメダル数にプラスに働く。 「ダートマス大学のAndrew Bernardとノースウェスタン大学のMeghan Busseの2004年の論文では、人口と一人当たりGDPは、ほぼ同等にメダル数に寄与しているので、2つを掛け合わせた総GDPは国が獲得することを期待しうる物的な基盤を指し示す非常に良い指標だと結論づけている」(Free Exchange:Medalling prosperity - The Economist August 20th 2016)。 図には、経済規模とメダル数の相関図を示した。単年次ではこころもとないので主要国50カ国の2000年シドニー大会から直近のリオ大会までの5年次分のデータを示している。英エコノミストが掲載した前回ロンドン大会までの図にリオ大会の分まで加えて作成したものである。経済規模に比例してメダル数が増える関係にあることが理解できるであろう。 図からは経済規模の割にメダル数が多い国と少ない国とがあることも読み取れる。 相対的なメダルの少なさが目立っているのはインドである。インドの人口は中国と同じ13億人であるのにリオ大会のメダル数は2個であり、金メダルはゼロで銀と銅が各1個である。ちなみに殊勲の銀メダルを獲得したのは、バドミントン女子シングルス準決勝で日本の奥原希望を下したシンドゥ・プサルラ選手である。経済状況が発展途上である点だけでは説明が難しかろう。 一方、経済規模の割にメダル数が多い点で目立っていたのは2004年までのロシアである。しかし、リオ大会の直前にロシアでは国がドーピングに関与していたことが発覚し、メダルの多さにも大きな疑惑が向けられる状況になった。リオ大会でも陸上競技選手のほとんどが出場停止となったこともありメダル数は56個と前回の82個から急減している。 オリンピック大会の自国開催がメダル数を増やす効果がある点はよく知られている。図でも見られるように、2000年のシドニー大会がオーストラリアの、2008年の北京大会が中国の、2012年ロンドン大会が英国のメダル数の増加に大きく寄与したことは明らかである。 メダル数の増加を目指してお金が投じられるという要因がやはり無視できない。 「英国では多くが宝くじの収益を財源としてアスリートへの支援金が2000年から2012年にかけて5千万ポンド強(7600万ポンド)から2億5千万ポンドへとほぼ4倍に増加され、メダル数も比例して増加した。自国開催はメダル数の一時的な配当に恵まれるが、それには非常に経費がかかる。英国のメダルは2008年から2012年にかけて40%近く増えたが、ロンドン大会では90億ポンドが費やされたのである」(同上)。 支援金は、メダルを取れそうな選手を特定し、その選手について、コーチを貼り付け、強化施設の利用を容易とし、生計費も助けるという形で使われる。 さらに支援金の使用を効果的とするため、資金投下する競技種目の選別も行われる。 「他国が見逃している自国の伝統競技に力を入れると共に、種目が多くてメダル数が稼げるような競技(例えば自転車競技)を選別する。英国のメダル獲得の成功は勝利の可能性が低いスポーツや選手への資金援助をカットし、可能性の高い者にそれを振り向けるという非情なまでの決断によったところがある。自転車競技の選手たち2012年の活躍に資金の増額で応じ、失敗したバレーボールに対しては大鉈を振るったのである。同じような感情を殺したような取り組みがオーストラリアの成功をかつてもたらした。しかし、2000年のシドニー大会後、スポーツの俊英世代がリタイアすると成績は下降線をたどり、リオ大会での再取り組みも起死回生には至っていないのである」(同上)。 実際、英国はロス大会では自転車競技だけで、メダル数12個、うち金メダルを6個獲得している。 英エコノミスト誌は、オリンピックのメダル数についての教訓を経済成長にも生かせるとしたら、このような取り組みを産業政策に対しても講じることであるとまとめている。「選手と同じように最も勝てる産業を支援すること。失敗は何もしないことからだけから生れる」(同)。もっとも、公共財を供給する産業政策とは異なり、金銀銅にしか着目しないオリンピック対策は長い目では国民とのズレを生じ国民スポーツの基盤が脆弱化して元も子もなくなる危険性がある点を指摘するもの忘れていない。古代ローマの為政者は人気取りのため「パンとサーカス」を民衆にふるまったが、「サーカスよりパンの方が大切なのだ」というわけである。 (2016年9月15日収録、2021年8月27日表示選択で2021年までの更新図掲載、2024年8月12日2024年パリ大会までの更新図を表示選択のデフォルト表示に)
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