最近は毎年のように日本人がノーベル賞を受賞しているが、2018年は、京都大の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授(76)がノーベル医学・生理学賞を受賞し、2019年は吉野彰旭化成株式会社名誉フェロー(72)がノーベル化学賞を受賞し、2021年はアメリカ国籍を取得している真鍋淑郎プリンストン大学上級研究員(90)がノーベル物理学賞を受賞した。

 2023年は2年続けて日本人受賞者がなかった。2023年受賞者で目立っていたのは女性受賞者である。生理学・医学賞でmRNA研究のカタリン・カリコ氏(ハンガリー出身、米国籍)、物理学賞でアト秒物理学のアンヌ・リュイリエ氏(フランス出身、スウェーデン籍)という女性2人が受賞した。最初の女性受賞者はマリー・キューリーであり1903年物理学賞、1911年化学賞と2回受賞している。重複を除くと自然科学系の女性受賞者は25人となり、総数646人の4%となる。ただし女性26人中15人は2000年代以降の受賞であり増加の傾向にある(東京新聞「科学シル・マナブ」2023.10.8)。なお、2023年は経済学賞も女性労働研究のクラウディア・ゴールディン氏(米国)であり女性であった。

 ノーベル賞受賞者の国別ランキングを掲げる(文部科学省資料による)。ここでは自然科学系3分野についてのランキングを掲げ、文学賞、平和賞、経済学賞は対象から省いている。また複数の国籍の人物については出生国にカウントしている。

 ノーベル賞発足からの累計では、米国人が277人と総計646人の42.9%と4割以上を占め最も多い。特に戦後だけをとると米国人が259人であり、総計505人中51.3%と5割を超えているのが目立っている。

 米国は日本の南部陽一郎博士、中村修二氏のように海外生まれだが米国籍を取得した多くの学者を擁しており、カウントが基本的に国籍ベースなので、その点からも獲得数が多くなっている。ニューヨーク・タイムズ(電子版)でも2008年の物理学賞を「米国人1人、日本人2人が受賞」と報じたという(東京新聞2008.10.9)。ここでは日本人だけは国籍が米国でも日本に計上している。

 第2位以下は、英国が85人、ドイツが73人、フランスが38人と続き、日本は25人で第5位となっている。

 戦前はドイツが最も多く、英国、米国、フランスと続いていた。日本はゼロだった。

 戦後の受賞者数では日本はフランスを上回る第4位である。

 今世紀(2001年以降)に入ってからは、米国の82人に次ぐ19人と世界第2位であり、英国の17人を抜き、フランスの13人、ドイツの10人をかなり上回っている。最近の日本人の受賞実績が世界の中でも目立っていることがうかがえる。

 余り報道されなかったのも不思議だが、こうした戦後や今世紀の順位は、日本人の自信を深めるのに充分なファクトだと思われる。一年前からそうだったのに2015年からこの点をどのメディアも報じるようになった。関連して、日本の技術力の躍進については図録5700参照。

 もっとも、引用論文数などのデータ(下図参照)から、今後は、これまでのようにノーベル賞受賞者は出ないかもしれないと報道される傾向にあり、政府の研究開発予算が他国より少なく、科学者人材の確保も難しくなっている点を指摘して、科学の危機を憂慮する既存のノーベル賞受賞者の発言がテレビで紹介されることも多い。

 賞別には、総数では医学・生理学賞が225人、物理学賞が222人、化学賞が191人の順であるが、日本は医学・生理学賞は5人と少なく、物理学賞12人(南部博士、中村氏を除くと10人)、化学賞が8人となっている。なお、自然科学分野以外の3賞については、日本人には平和賞と文学賞の受賞者はいるが経済学賞の受賞者はいない。

 日本人のノーベル賞受賞者の出身高校・出身大学については図録3934参照。

 2021年以降、日本人のノーベル受賞者が出ていないので、日本でノーベル賞を取るような研究を行う力が衰えてきているのではという懸念が高まっている。その際に必ずと言って引用されるのが下図のような画期的論文(Top10%論文で定義)の被引用数のランキング低下である。参考までに掲げておく。論文総数のカウントでは世界第5位であるのにTop10%論文で13位と低迷していることから基礎研究力が低下したと見なされている(東京新聞2024.9.2)。


日本人ノーベル賞受賞者一覧
自然科学分野3賞
no 年度 物理学 化 学 医学・
生理学
業績
1 1949 湯川秀樹      中間子の存在を予想
2 1965 朝永振一郎      素粒子論のくりこみ手法の開発
3 1973 江崎玲於奈      エサキダイオードの発明
4 1981   福井謙一    フロンティア軌道理論の構築
5 1987     利根川進 抗体の多様性の解明
6 2000   白川英樹    導電性プラスチックの発見
7 2001   野依良治    不斉合成法の開発
8 2002 小柴昌俊      天体ニュートリノの観測
9   田中耕一    タンパク質などの質量分析法の開発
10 2008 南部陽一郎      自発性対称性の破れの理論
11 益川敏英      CP対称性の破れの理由を示し
クォークが6種類あると予想
12 小林誠     
13   下村脩    緑色蛍光タンパク質の発見と開発

no 年度 物理学 化 学 医学・
生理学
業績
14 2010   鈴木章   有機合成のクロスカップリング法を開発
15   根岸英一  
16 2012     山中伸弥 iPS細胞の樹立
17 2014 赤崎勇     青色発光ダイオードの開発
18 天野浩    
19 中村修二    
20 2015   大村智 寄生虫感染症の新しい治療法を発見
21 梶田隆章     ニュートリノが質量を持つことを証明
22 2016 大隅良典 オートファジーの遺伝子機構の解明
23 2018 本庶佑 新しいがん免疫療法の開発
24 2019 吉野彰 リチウムイオン電池の開発
25 2021 真鍋淑郎 気候変動予測モデルの開発
その他3賞
no 年度 文 学 平 和 経済学
1 1968 川端康成    
2 1974   佐藤栄作  
3 1994 大江健三郎    
4 2024 日本被団協
(注)2017年文学賞受賞のカズオ・イシグロ氏は日本出生ではあるが、日本人受賞者には計上していない。
 日本被団協は日本原水爆被害者団体協議会の略称。
(資料)実績は東京新聞(2024.9.2)

 なお、図で取り上げているランキング上位国は米国、英国、ドイツ、フランス、日本、スウェーデン、スイス、オランダ、旧ソ連、デンマーク、カナダ、オーストリア、イタリア、オーストラリア、ベルギー、イスラエルである。

(2007年9月20日収録、2008年10月5日・10月9日更新、2011年10月4日更新、2012年10月7日更新、10月8日更新、2013年10月7日更新、表追加、2014年10月7・8日更新、2015年9月24日文科省データで確認、2015年10月6・7日大村智・梶田隆章両氏を受賞者一覧に追加、コメント改訂、データは不変、10月10日時期別グラフの戦後を20世紀と21世紀に分割、2016年9月22日更新、元資料に合わせ米国籍日本人は米国でなく日本の受賞者数に変更、10月3日更新、2017年9月25日更新、2018年9月20日更新、10月1日更新、2019年9月13日更新、10月9日更新、2020年7月12日更新、2021年9月10日更新、10月5日真鍋淑郎氏を受賞者一覧に追加、2022年9月23日更新、2023年9月19日更新、10月10日コメント更新、2024年9月2日更新、Top10%論文国別ランキング、受賞者実績、2024年10月11日日本被団協平和賞受賞)


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