2023年度の司法試験合格者が発表された。

 法科大学院は「専門職大学院であって、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするもの」をいうと定められており、2004年4月に創設された。修了すると、司法試験の受験資格と「法務博士(専門職)」の専門職学位が与えられる。米国ロー・スクールをモデルした制度であることから「ロー・スクール」とも呼ばれる。

 こうした新しい司法試験が導入されてから新旧両試験が平行実施されてきたが2012年から旧試験がなくなったため、新司法試験ではなく司法試験という用語に一本化された。また2012年からは社会人や経済的理由で法科大学院に通えない人の救済策として「例外ルート」として合格できれば司法試験を受験できる「予備試験」が設けられたのでこちらの枠の合格者数、合格率も図に掲載している。予備試験の受験資格が制限されていないため、お金や時間を節約するため学生の中でも予備試験ルートを選ぶものが多くなっている。

 大学別の法科大学院修了の司法試験合格者数と合格率のグラフを合格者数のランキングにしたがった順で掲載した。データは、法務省発表資料による。

 「合格者数」の上位5位は、合格者数の多い順に、京都大、慶應義塾大、東京大、早稲田大、一橋大の法科大学院の順である。昨年は、京都大、東京大、慶應義塾大、早稲田大、一橋大、神戸大の順であった。

 合格者数1人までの法科大学院の「合格率」の首位は京都大の76.7%であり、一橋大の75.6%がこれに次いでいる。10%台、20%台の法科大学院も結構多い。

 このように司法試験の合格率は一般的に高くない。2番目の図のように合格率は全体として毎年低下を続け、しばらく低いまま推移していたが、最近は上昇し、はじめて5割を超えた。合格率の低下により、法科大学院「修了後5年以内に3回まで」という受験制限もあって、高い授業料の割には、リスクが大きすぎる職業選択として、法科大学院自体の志望者数が減少してきた。その結果、受験者が合格者より減って、結果的に合格率が上昇したのである。

 政府が2015年に掲げた合格者の数値目標「1500人程度」はやっとクリアした。

 司法試験合格者による法的サービス領域を拡大するとともに、司法試験は合格できなくとも、法務博士として、自らの法務知識やスキルを社会で生かせるような環境をつくらないと、制度全体が瓦解しかねないと懸念されている。

 なお、法科大学院を修了しなくても司法試験受験資格を得られる「予備試験」通過者の合格者数は327人とかなり多い人数が合格した。合格率は92.9%(昨年97.5%)となり、通過者の受験が始まって以降11年連続で、どの法科大学院よりも高かった。ますます、法科大学院が形骸化してきている印象である。

(2017.9.13の記事)

 法科大学院は下表の通り、募集停止や廃止が相次いでいる。これは予想外の合格者数の低迷の中で、法科大学院の経営赤字が拡大しているからである。「「法科大学院を維持するには多くの教員を必要とし、どうしても財政的に赤字になる」。6月1日に記者会見した青山学院大の三木義一学長は、募集停止の理由をそう説明した。近年は定員割れが続き、17年度は教員14人に対し、在籍する学生はわずか29人だった」(東京新聞2017.8.15)。

募集停止や廃止となった法科大学院
募集停止
年度
法科大学院名
2011年度 姫路独協大
2013年度 駿河台大、大宮法科大学院大、明治学院大、神戸学院大
2014年度 東北学院大、大阪学院大
2015年度 新潟大、信州大、島根大、香川大、愛媛大連合、鹿児島大、白?大、独協大、大東文化大、東海大、関東学院大、龍谷大、広島修道大、久留米大
2016年度 静岡大、熊本大、国学院大、東洋大、神奈川大、山梨学院大、愛知学院大、中京大、京都産業大
2017年度 成蹊大、名城大
2018年度
(予定)
北海道学園大、青山学院大、立教大、桐蔭横浜大
(資料)東京新聞(2017年8月15日)

(2015.9.9の記事)

 2015年度の司法試験合格者の発表は、明治大学法科大学院の教授が教え子に試験問題を漏洩した事件とともに報じられた。明治大の2015年度の合格率は14.6%と低かったので、これが試験問題漏洩事件の背景となったとする論者もあった。

 募集停止や閉鎖が表明されている学校をカッコ内の合格者数(2015年度)とともに示すと以下の29校である(毎日新聞2015.9.9)。すべて合格者数が8人以下と少ない学校である。

 神奈川大法科大学院(8)、桐蔭横浜大法科大学院(8)、広島修道大法科大学院(8)、熊本大法科大学院(7)、信州大法科大学院(7)、新潟大法科大学院(5)、大宮法科大学院大学(4)、國學院大法科大学院(4)、東洋大法科大学院(4)、白鴎大法科大学院(4)、明治学院大法科大学院(4)、島根大法科大学院(3)、駿河台大法科大学院(3)、中京大法科大学院(3)、東海大法科大学院(3)、山梨学院大法科大学院(3)、愛知学院大法科大学院(2)、大阪学院大法科大学院(2)、鹿児島大法科大学院(2)、京都産業大法科大学院(2)、大東文化大法科大学院(2)、関東学院大法科大学院(1)、神戸学院大法科大学院(1)、静岡大法科大学院(1)、東北学院大法科大学院(1)、香川大法科大学院(0)、久留米大法科大学院(0)、獨協大法科大学院(0)、姫路獨協大法科大学院(0)

(2015.1.17の記事)

 文部科学省は2015年1月16日に新たな算定制度に基づく法科大学院の2015年度補助金額を決定した。下表に現行額と比較した補助金額の増減を示した。補助金の削減は法科大学院の経営に大きな影響を与えるため、今後、募集停止や統廃合が加速するのは必至である。補助額に差を付ける算定法は、ここで示した司法試験の合格状況などにより5つに区分された基礎額に教育プログラムの開発など各大学から提出された取り組み提案を評価した一定額を加算するというもの(東京新聞2015年1月17日)。国がこんな細かい算出法での補助金額の傾斜配分までして自然淘汰を加速する必要があるのか、また、こうしたやり方が私学助成などの傾斜配分にまで波及するのか、などに興味がもたれるところである。

2015年度の法科大学院の補助金額(現行額からの増減)
補助金額 内訳 法科大学院
基礎額算定率 加算率
135% 90% 45% 早稲田
130% 40% 一橋
125% 35% 東京
120% 30% 京都、慶応義塾
105% 15% 北海道、大阪
70% 35% 同志社
100% 90% 10% 上智
80% 20% 神戸
95% 90% 5% 名古屋、学習院
80% 15% 創価
94% 70% 24% 岡山
93% 90% 3% 中央
91% 1% 東北
90% 0% 筑波
85% 80% 5% 成蹊、愛知、千葉
70% 15% 琉球
80% 80% 0% 九州、横浜国立
70% 10% 立教
75% 5% 甲南
67.5% 60% 7.5% 立命館
65% 5% 金沢、明治、広島、関西、関西学院、西南学院
64% 4% 青山学院
60% 0% 静岡、熊本、法政、神奈川、中京、南山、近畿
提案なし 日本、山梨学院、東洋、名城、福岡
50% 50% 0% 北海学園、京都産業
提案なし 国学院、駒沢、専修、桐蔭横浜、愛知学院
(注)公立大と15年度の募集をしない国私立大は対象外。基礎額算定率は司法試験の合格状況や定員充足率などをもとに50〜90%の5段階に分類。さらに、改革案に応じて加算率が決まり、基礎額算定率に上乗せする。「提案なし」は改革案を提出せず、加算も0%
(資料)朝日新聞(2015年1月17日)、東京新聞(2015年1月17日)

(2011年1月31日収録、9月9日更新、9月10日グラフ改善、2012年9月12日更新、2013年3月17日2番目の図の位置を先頭図の直後に移動など、9月11日更新、2014年9月10日更新、2015年1月17日補助額新算定法について追加、2015年9月9日更新、2016年9月7日更新、2017年9月13日更新、2018年9月12日更新、2019年9月11日更新、2021年1月22日更新、9月8日更新、2022年9月7日更新、2023年12月17日更新)


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