ドメスティック・バイオレンス(DV)の国際比較については、2000年代の調査結果しか掲げてこなかった(先進国は図録2792d、途上国は図録2792b)。より新しい年次のデータがOECDの報告書に掲載されたので、図録として収録した。

 ランキングは過去12カ月に親しいパートナー(夫、または事実上の配偶者)から身体的暴力、性的暴力のいずれか、あるいは両方を経験した比率でOECDと非OECDの別にソートされている。

 OECD平均では過去12カ月に4.0%、すなわち25人に1人の女性がDV被害にあっている。生涯にわたるDV経験率では21%、すなわち5人に1人にのぼっている。

 OECD諸国の中で12カ月経験率が最も高いのはコロンビアの10.0%であり、トルコ、メキシコ、韓国がこれに次いでいる。最も低いにはスイスの1.2%であり、結構、大きな差がある。

 北欧のスウェーデンやフィンランドは男女平等意識が高い国として知られているが、DV被害率は案外高い点が目立っている。単に外は寒いので家にいることが多く、それだけ妻から夫へのDVを含め家庭内暴力が多いだけなのかもしれない(もっとも同じ北欧でもデンマークは低いのだが)。

 主要先進国(G7諸国)を高い順に並べると以下の通りである。

 1.米国 4.2%
 2.英国 3.6%
 3.フランス 3.5%
 4.日本 3.0%
 4.ドイツ 3.0%
 6.イタリア 2.2%
 7.カナダ 1.7%

 日本はOECD38か国中23位、G7諸国中4位とまあ低い方に分類される。日本はDVが多い国とは言えない。

 非OECD諸国はOECD諸国と比べてDVが多い傾向がある。インドは24カ月経験率が15.9%、生涯経験率が35%と非常に高い。中国も、韓国ほどではないが、それぞれ、5.9%、19%と比較的高い。中国、韓国はなお男尊女卑の東アジア儒教圏の文化的影響下にあるといってよかろう。日本は今ではそうした状況にはない。

 最後に、こうしたDV比率の高低が、かつては、けっこう支配的だった「夫は妻を叩いても然るべきだ」という考え方の影響をどの程度受けているかを調べてみよう。

 下図には、DVの許容度を国際意識調査から調べた結果をX軸、上図の過去12カ月DV経験率をY軸にとった相関図を掲げた。

 両者には、それなりに相関があることがうかがわれる。韓国やペルーは「夫は妻をそれなりに理由があれば叩いても然るべきだ」という考えを4割前後の女性がもっており、これが高いDV比率とむすびついている。

 逆に、欧米諸国では許容度も経験率も両方とも低い比率となって居る。日本は欧米諸国に近い。欧米諸国の中では米国は、ややはずれて非OECD諸国に近い位置を示している点も目立っている。

 なお、インドは許容度以上にDV経験率が高い点が目立っている。全く不当だと女性が考えている場合でもDVが起こっていると見なせよう。南アフリカ、コロンビア、トルコにもインドと似たところがある。


(2024年7月21日収録)


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