WHOの国際調査にもとづく「ドメスティック・バイオレンス経験率の国際比較」を図録2792bに掲げたが、そこでは比較対照として途上国がほとんどを占めていたので(先進国はニュージーランドのみ)、日本の経験率が途上国と比べて低いのは当たり前と評価されてしまうきらいがあった。そこで、ここでは、国連報告書に掲げられている国連がまとめたWHO以外の資料を含めた整理表から、先進国間のドメスティック・バイオレンス(DV)の経験率(生涯経験率)をグラフにした。なお、トルコ、メキシコ、フィリピンは必ずしも先進国とは言えないが、いずれもWHO調査では対象となっておらず、またトルコ、メキシコはOECDに加盟していることもあり、ここでの比較対照に含めた。

 新しい年次のデータは図録2792jに掲げたので参照されたい。

 図を一目すれば明らかなとおり、日本はニュージーランド、ドイツ、オーストラリア、英国、韓国よりパートナーからの身体的暴力、性的暴力の経験率は低く、先進国の中でもドメスティック・バイオレンス(DV)は比較的少ないことが分かる。

 このデータによれば、先進国のうちイタリア、スイス、香港はDVが少ない。またフィリピンは途上国の中では目立ってDVが少ないことが分かる(図2792b参照)。韓国、日本、香港は、いわゆる儒教国に位置づけられるが、いずれもDV比率は相対的に低く、儒教の影響が男尊女卑という特徴をもつとしてもDVとは必ずしも結びつかないといえる。

 英国女性の性的暴力経験率は24%と特段に高いが、質問票が「いやいやながら」というニュアンスのものまで含めている可能性がある。

 以下に各国の値とデータソースを記した表を掲げる。

パートナーから身体的・性的暴力を受けた経験のある女性比率(%)
  身体的暴力 性的暴力 年次 データソース
トルコ 39 15 2008 Henrice A.F.M. (Henriette) Jansen, Sunday Uner, Filiz Kardam and others, 2009. National Research on Domestic Violence Against Women in Turkey. Ankara.
チェコ 35 11 2003 Johnson, Holly, Natalia Ollus and Sami Nevala, 2008. Violence Against Women. An International Perspective. New York: Springer.
ニュージーランド 34 18 2003 都市と農村の単純平均。日本と同じデータソースのCountry Fact Sheets
ドイツ 28 7 2003 Federal Ministry for Families, Senior Citizens, Women and Youth, 2003. Health, Well-Being and Personal Safety of Women in Germany. A Representative Study of Violence against Women in Germany.
オーストラリア 25 8 2002/03 チェコと同じ
メキシコ 23 11 2006 Ramirez, Eva Gisela, 2007. ENDIREH-2006’s achievements and limitations in determining indicators for measuring violence against women in Mexico. Invited paper, Expert Group Meeting on indicators to measure violence against women, Geneva, 8-10 October.
デンマーク 20 6 2003 チェコと同じ
英国 19 24 2006/07 Povey, David (Ed.), Kathryn Coleman, Peter Kaiza, Jacqueline Hoare and Krista Jansson. 2008. Homicides, Firearm Offences and Intimate Violence 2006/07, 3rd edition (Supplementary Volume 2 to Crime in England and Wales 2006/07). 31 January.
韓国 16 7 2004 Byun, Whasoon. 2007. Violence against women in Korea and its indicators. Invited paper, Expert Group Meeting on indicators to measure violence against women, Geneva, 8-10 October.
ポーランド 15 5 2004 チェコと同じ
日本(都市) 13 6 2000/01 Garcia-Moreno, C., H.A.F.M. Jansen, M. Ellsberg, L. Heise and C. Watts, 2005. WHO Multi-country Study on Women’s Health and Domestic Violence against Women: Initial results in prevalence, health outcomes and women’s responses. Geneva: WHO.(図2792bのWHO調査)
イタリア 12 6 2006 ISTAT, 2006. Violence and abuses against women inside and outside family
フィリピン 10 3 2005 チェコと同じ
スイス 9 3 2003 チェコと同じ
香港 6 5 2005 チェコと同じ
(注)同上 (資料)UN, The World's Women 2010 (Statistical Annex Table 6.A, 6.E)

(2011年8月1日収録)


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