2010年ごろまで年間約3万人の自殺者のうち縊首によるもの(首吊り自殺)が約2万人と最も多かった。戦後一時期薬物自殺(農薬、睡眠薬等による自殺)が最も多かった時期があったが、それ以降は、ほぼこの手段が自殺者の大勢を占めて来た。 戦後大きく増加したのは、ガス自殺と飛び降り自殺であり、近年は、第2位〜3位の手段となっている。 1970年代にはガス自殺が激増したがその後1980年代に沈静化した。一酸化炭素を含む石炭ガスや石油改質ガスから天然ガスに都市ガスが転換したこと、また都市ガスやプロパンガスの自動遮断など安全化が進んだことによると考えられる。 近年、一時期、再びガス自殺が増加したが、大半は自動車の排気ガスによる一酸化炭素中毒死によるものと考えられる。インターネット上で募集した複数の自殺願望者が、密閉した自動車内や小部屋内で練炭の不完全燃焼によって中毒死するケースが、一時期、増えた。2008年にはいると市販の家庭用洗剤などから硫化水素ガスを発生させる方法による自殺が相次いだ。インターネット上で「練炭に代わる方法」として取り上げられて広まった影響によるものといわれる。 飛び降り自殺は戦後大きく増加したが、これは高層建築物の増加によるものといえよう。 首都圏の鉄道はしばしば人身事故でストップするので飛び込み自殺が増えているという印象を持つ者も多いが、実際は、飛び込み自殺は水死や薬物自殺と並んで減少傾向にある。 最近は、自殺者総数の減少にともなって各手段別の自殺者数も一般に減少傾向にある。ただし、ガス自殺がピーク時から半減している点が目立っている。ある意味では最近の自殺の減少はガス自殺ブームの沈静化によるものとも考えられる。 国により自殺手段は異なる。下に米国の例を掲げたが、米国では銃の普及が著しいので(図録9365参照)、火器による自殺が約半数を占めているのが目立っている。米国における自殺事情や州毎の銃保有率と自殺率との相関、中国やガイアナにおける農薬と自殺との相関については図録2770参照。 米国では銃へのアクセスの容易さが自殺を促進している側面があるといわれている。自殺は経済的理由などその理由とともの語られることが多いが、手段が手近に得られるかどうか、また手段的にブーム性を帯びているかどうか、なども無視できないと考えられる。 米国における自殺の現状を扱った英国エコノミスト誌の記事によれば、米国は銃器による殺人が多い国だが、増加が目立つ銃器による自殺はその2倍になっているという(下図参照)。「銃へのアクセスが容易であることが間違いなく事を悪くしている。銃は事をなすのにもっとも効率的な手段である。銃による自殺は83%が成功するが、縊首は61%の成功率であり、薬物自殺は1.5%しかうまくいかないのである。自殺未遂者はセラピーを受け元通りになる可能性がある。ハーバードの研究によれば、自殺から生き残った者のうちさらに自殺してしまうのは10人に1人なのである。英国では、銃を使うのが米国ほど簡単ではないため、縊首が自殺の60%をしめている」(The Economist March 31st 2018)。 (2008年5月19日収録、2009年9月28日更新、2011年9月1日更新、2012年2月22日米国データ追加、2012年9月10日更新、2015年10月8日更新、2016年5月27日AdSense広告掲載取りやめ、2018年4月20日The Economist引用、2023年8月30日更新) |
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