日本の女の子の名前のベスト3の推移を1912年から追った表を図録2405に掲げたが、他国ではどうなのであろうか。

 米国の社会保障局は、毎年母の日の直前に、前年米国で多くの新生児に付けられた名前のリストを、社会保障カードの申し込み内容に基づいて算出し、公表している(ここ)。当図録では、このデータから米国の女の子の名前のベスト3について日本と同様の表を作成した。

 米国においても1910年代から1950年代にかけては、日本で和子と幸子が1〜2位を占める時期が長かったように、メアリーとリンダが長く1〜2位を占めていた。

 その後、1960年代はリサが1位となり、1970年代から1980年代半ばまではジェニファーが1位を占める時期が続いた。その後も2000年代まで、ほぼ10年単位でジェシカ、エミリーが首位を占めた。

 日本でもこの時期、やはりほぼ10年単位で、恵子、由美子、陽子、愛、美咲が1位となる時期が続いた。

 米国では2000年代後半から、イザベラ、ソフィア、エマ、オリヴィアと首位の名前の継続期間は短くなって移り変わっている。日本でも2000年代に入ると、やはり、首位の座はそう長続きしなくなった。

 また日米ともに上位3位の女の子の名前は一時期を過ぎると過去のものが再登場することはない。

 このように日本と米国で女の子の命名は、名前の意味も由来も全く異なるものの、どんな名前をつけるのかの流行については非常に似たところがある点が興味深い。

 なお、100年を通した米国女子のトップ10の人気ネームをまとめると、1923〜2022年の計と2022年について以下のようになっている。

1923〜2022年 2022年
メアリー(3,054,624人)
パトリシア(1,551,159人)
ジェニファー(1,469,664人)
リンダ(1,448,284人)
エリザベス(1,403,790人)
バーバラ(1,385,994人)
スーザン(1,102,248人)
ジェシカ(1,047,635人)
サラ(987,732人)
カレン(986,072人)
オリヴィア(16,573人)
エマ(14,435人)
シャーロット(12,891人)
アメリア(12,333人)
ソフィア(12,310人)
イザベラ(11,662人)
エイヴァ(11,039人)
ミア(11,018人)
エヴェリン(9,289人)
ルナ(8,922人)

 かつては聖母マリアを起源とするメアリーが圧倒的だったが、今ではオリヴィアなどアで終わる現代風の名前に変貌。日本と同様、最近の名前は旧来からの名前とまったく異なってきていることが分かる。Olivia(オリビア)はolive(オリーブ)が語源。シェークスピアの喜劇「十二夜」で伯爵令嬢として登場する。Sophia(ソフィア)はもともとギリシャ語で「知恵」という意味。Isabella(イザベラ)は、Elizabeth(エリザベス)のスペイン語形Isabel(イザベル)から派生した名前。

 参考のため下に日本の女の子の名前の変遷表を図録2405から転載した。


【コラム】米国人女性の名前の変遷

 日経スタイルの「リサ40代、リンダは…名前で分かる? 米女性の年齢」という2013年3月29日の小林明編集委員の記事が本文の内容を解説する内容となっているので以下に引用する。

「女子の名前の変遷の特徴を時代別にまとめてみよう。

●第1次世界大戦からベトナム戦争前(〜1961年)

女性の名前の代名詞と言えば、昔からMary(メアリー)が定番だった。ラテン語形Maria(マリア)の英語版。1947〜52年の6年間はLinda(リンダ)が首位だが、それを除くと実に44年間もMary(メアリー)が

首位に君臨した。Linda(リンダ)はスペイン語のLinda(かわいらしい)などから派生した名前。このほかHelen(ヘレン)、Dorothy(ドロシー)、Margaret(マーガレット)、Betty(ベティ)、Barbara(バーバラ)、Patricia(パトリシア)、Susan(スーザン)なども人気が高い。ちなみにBarbara(バーバラ)が本名の着せ替え人形「Barbie(バービー)」は59年に発売された。

●ベトナム戦争(1962〜69年)

Lisa(リサ)の時代。これはElizabeth(エリザベス)の愛称。すぐ直前まで人気が高かったLinda(リンダ)と入れ替わる形で順位を上げた。この時代はMary(メアリー)、Susan(スーザン)、Kimberly(キンバリー)、Karen(カレン)、Michelle(ミシェル)などの人気も高い。戦後世代が成人し、ヒッピー文化が生まれた時代。ちなみに大統領夫人、Michelle Obama(ミシェル・オバマ)は64年生まれ。

●ベトナム戦争・日米経済摩擦(1970〜84年)

Lisa(リサ)と入れ替わりに順位を上げたJennifer(ジェニファー)の時代。首位は15年間続いた。ちなみに人気女優のJennifer Aniston(ジェニファー・アニストン)やJennifer Lopez(ジェニファー・ロペス)はともに69年生まれでほぼこの時代。Jennifer(ジェニファー)には「ブロンドでかわいくて、男子学生の人気の的で、チアリーダーに選ばれるような女性学生のイメージがある」(ヨーロッパ人名語源事典/大修館書店)という。このほか、Amy(エイミー)、Melissa(メリッサ)などの人気も高い。

●米ソ冷戦終結・一極支配(1985〜95年)

Jessica(ジェシカ)が9年間首位。91、92年はAshley(アシュリー)が首位に立った。

Jessica(ジェシカ)は、シェークスピアの喜劇「ベニスの商人」でユダヤ人の金貸し、シャイロックの娘の名前として登場。76年に8位にランクインしてから00年までトップ10圏内。Ashley(アシュリー)もJessica(ジェシカ)とほぼ同時期に人気のピークを迎えた。Amanda(アマンダ)、Sarah(サラ)、Samantha(サマンサ)なども人気が高い。

●同時テロ・イラク戦争(1996〜2007年)

Emily(エミリー)が12年間首位で黄金時代を築いた。「競争する」という意味のラテン語から派生した名前。81年に29位にランクイン。その後、ジワジワと順位を上げ、91年に10位に入ってからは11年までずっとトップ10圏内。Hannah(ハンナ)、Madison(マディソン)、Emma(エマ)などの人気も高い。

●2008年以降

Emma(エマ)→Isabella(イザベラ)→Sophia(ソフィア)と首位が短期間で入れ替わる過渡期。Olivia(オリビア)、Ava(エバ)も上位に食い込んだ。次の10年周期では、果たしてどれが黄金時代を築くのか。今後のランキングの動向が注目される。」

(2023年7月22日収録、7月23日コラム)


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