もしマスコミ報道などで当然視されている日本の格差拡大が本当なら、当然、国民の中には「下流意識」をもつ人が増えている筈である。ところが、図録2288で示したように、長い時系列データを得られる内閣府世論調査から見ると、日本人の中流意識はますます強まり、「下流」と自己認識する人は減っている。

 ここでは、内閣府世論調査の結果が例外的なものではなく、類似した設問で調査している考える限りの他の意識調査でも、ほとんどの場合、同様の傾向があらわれていることを示そう。なお、取り上げた調査は、公的機関や権威ある意識調査のみであり、企業が行う消費者意識調査の類は除外している。

 内閣府世論調査の結果も掲げているが、これについては、生活程度が「下」あるいは「中の下」と「下」の合計について、その割合の推移を示している。

 1980年代後半のバブル期には富裕層は減り、むしろ下流層が増えていた。これは、世の中に富裕な層が多くなっているという報道に接し、自分は、それほどでもないと感じる者が増えたためだと思われる。このときと全く逆に、最近は、富裕だと自認する者が増え、「下」や「中の下」と自認する人が減っている。これは、世の中に貧困層が増えているという報道に接し、自分はそれほど貧しくないと感じる者が増えているためであろう。

 ところがコロナ後の2021〜22年には「下」や「中の下」が増えている。これは2021〜22年にはそれまでの面接調査から郵送調査に変更となった影響がかなりあろう。

 下流意識、貧困意識、あるいはそれに近い生活不満意識の推移を様々な意識調査からとりまとめた状況を図で見ても、2019年までの内閣府世論調査の結果とほぼパラレルな結果となっている。日本人の中で貧困意識を抱く者は長期的に少なくなってきていることが確実である。

 コロナ後では内閣府世論調査以外では国民生活基礎調査の「暮らしが大変苦しい」と社人研の「食料に困難」。及びJGSSのデータがあるが全て減っている。下図のような貧困救済事業の実績件数は増えているが、実際に食料に困っている世帯率は低下しているのである。


 格差が拡大しているという常日頃の主張と合わないからと言って、有識者や報道機関が、こうした意識調査の結果をすべて無視しているのはフェアな態度とはいえないと思う。

 真相は、「格差社会」が深刻化しているというより「格差不安社会」が到来しているということなのではないだろうか。高度成長期や安定成長期と異なり、低成長下の現代日本では、まじめに働けば誰でも安定的な生活向上が望めるという気持ちを抱けなくなっている。そして、それだけ、貧困状態に陥った者に対して自分のことのように感じる同情心が増したのである。また、生活一般に余裕が生まれ、困っている人に対する人々の福祉思想が上昇しているためでもあろう。障害者対策に力を入れる方向での国民合意が出来上がったのは障害者が増えているからではなかろう。貧困対策も同じなのである。

 なお、大方が同じ傾向である中で、唯一の例外は、国民生活基礎調査における「暮らしが大変苦しい」の割合であり、これだけは、以前の1割台から最近は3割近くにまで達することがあった。確かに、経済成長率の低下に平行して家計所得が伸び悩み、個々人が期待している豊かな生活がなかなか実現できないことから「苦しい」と感じる者は増えているのだといえる。しかし、これは、必ずしも、貧困とか下層という意識にはむすびつかないのである。しかもコロナ後2022年にはむしろ減少している。

(2017年9月19日収録、2018年5月5日JGSS更新、8月10日社人研調査追加、2019年1月9日NHK調査更新、7月13日JGSS・国民生活基礎調査更新、2020年8月8日JGSS・国民生活基礎調査更新、2021年12月30日内閣府世論調査・社人研調査更新、2023年12月22日内閣府世論調査・国民生活基礎調査・社人研調査・JGSS更新)


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