毎日新聞と埼玉大学が共同で行った2014年実施の世論調査(有効回答1,054人、回収率59%)によると、2014年に下流は3割とされ、内閣府の世論調査(2014年の有効回答6,254人、有効回収率62.5%)では約5%であるのとは大きく異なる。

 この共同調査では、「今の日本社会を以下に挙げる五つの層に分けたとすると、あなた自身はどれに入ると思いますか」という設問に対して、「上」「中の上」、「中の下」「下の上」「下の下」のうち、「「中の上」と「中の下」を足した「中流」が6割だった一方、「下の上」と「下の下」を足した「下流」も3割になった。(中略)20代の36%が自分を「下流」と思い、最も多かった。次いで70代の35%。若年層と高齢層に自分が貧困だと思う人が多い」(毎日新聞2014年12月25日)とされている。

 毎日新聞・埼玉大の世論調査では、「個人として、社会の5層のうちどこに属するか」を訊いたものなので、所得の高い中高年層と比較して、自分は低い階層と思う若者の割合が高かったのに対して、内閣府世論調査では、「お宅の生活程度は」と訊いているので、若い層でも、親と同居の場合は自分の家のステータス、また若い夫婦で独立していれば、自分たちと同じ若夫婦の生活程度と比較したステータスを答えているという違いがあろう。前者は世代間の格差を含んだ相対的貧困率に近い値であり、後者は、同世代の格差をあらわしているという違いがあるだろう。

 図に掲げた内閣府世論調査による下層(下流)と自認する者の比率の推移では、年齢階層別の推移を同時に示しているが、概して、若い階層の方が「下」の比率は低く、60代など高年層の方が「下」の比率が高い。毎日新聞・埼玉大世論調査が若年層で貧困だと思うものが多いのと異なる結果となっている。これも、上でふれた設問の内容の違いによるものと考えられる。

 年代の高い層ほど「下」の比率が高くなる傾向は、人生の経過の中で成功者と失敗者がどうしても生じるということから理解できる。また、若い頃は将来があるので所得が少なくても「下」だと思わない傾向もあろう。

 時系列変化を見ると、2000年代までは50代でも「下」の比率が平均より高かったが、2010年代に入ると平均以下に低下してきている。また60代の「下」の比率も以前は平均を大きく上回っていたが、最近は平均に近づいてきている。

 すなわち下層意識を抱く人は、ますます数が増えつつある70歳以上に限られてきているといえよう。若い頃の所得の多寡や人生設計を反映した高齢層の年金格差がますます重要になってきているともいえる。

 コロナの影響で下層意識がどう変化しているかが知りたいところであるが、内閣府の「国民生活に関する世論調査」が2020年は休止となったのでわからない。

 最近のマスコミ、有識者は、格差拡大を前提として、ストーリーをつくっているので、ある年次の値だけで、あたかも若年層でも高齢層でも貧困が拡大しているかの如き書きっぷりとなる。ところが、ここで紹介した内閣府の世論調査の時系列の結果では、近年、「下」の回答率は、年代によらず、低下してきているのであり、少なくとも意識の上からは、貧困層は減ってきていると言わざるを得ない。内閣府世論調査のような、長く続き、単発調査の6倍の数の有効回答をもち、権威もある政府の調査で同じ内容が調べられており、結果も出ているのに、それとどうして違うのだろうかということには、全然ふれないのは、公平な立場で報道しているとは言いにくいだろう。

(2021年12月31日収録)


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