日本銀行は1993年以降、全国の満20歳以上の個人4,000人を対象に「生活意識に関するアンケート調査」を実施している。調査頻度は当初の年1回から徐々に拡大され2004年からは年4回となっている。調査方法は当初は訪問留置法だったが、2006年9月(6月予備調査も)からは郵送調査法に変更されている。

 ここでは、この調査から「暮らし向き」について取り上げ、現行の設問文となった2006年6月以降のデータをグラフにした。

 これまでの結果はすべて「ゆとりがなくなってきた」が「ゆとりが出てきた」を大きく上回っているが、自分の暮らし向きについて厳しめに感じるからであって、こうした回答ほど生活が苦しくなってきているとは考えられない。

 したがって、この調査の結果から国民の暮らし向きについての意識を判断するには「ゆとりがなくなってきた」の割合が上昇するか下降するかで判断するのが適切であろう。

 日本銀行は「ゆとりが出てきた」の割合から「ゆとりがなくなってきた」の割合を引いてDI指標として判断材料にしている。DI指標は、主観性に左右されない例えば労働力の過不足を企業対象に調べるためなら適切な指標だろうが(図録3150)、生活実感のような主観的な調査の場合DI指標そのものを生活の悪化程度と理解するわけには行かないのだから、余り良いやり方だとも思われない。

 図の推移を見ると、「ゆとりがなくなってきた」は当初の40%程度の水準から、世界的な経済低迷のきっかけとなったリーマンショックが起こった2008年9月に60%以上のピークにまで増加したが、その後、民主党政権期、また第2次安倍政権のあわゆるアベノミクス期を経ながら、長期的に減少傾向を続け、現在は、再度、40%前後の水準まで回復してきている。

 こうした回復過程の中での大きな変動としては、アベノミクスが開始された直後の2013年度に大きく低下したのち、2014年4月からの消費税の5%から8%への引き上げ後、しばらく民主党政権期に近い値に上昇した点が目立っている。

 2019年7月に行われた参議院選挙で野党は景気が良くなっているかのように見えても「暮らしは厳しくなった」と与党批判を行ったが、実態と食い違っていると言わざるをえない。

 2020年3月の結果では、まだ、新型コロナの影響は感じられない。というより、それ以降の動きを見てもコロナの影響はないといってもよかろう。

 本図録はプレジデントオンラインの連載記事「"生活は厳しい"しか言わないメディアの罪」(2019.8.18)と連動して作成されたものである。同記事では年平均であらわしている日銀データをここでは年4回ベースで掲載している。

(2019年7月18日収録、11月1日更新、2020年4月24日更新、2021年4月30日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 生活
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)