2011年直近の2500g未満の低体重新生児の比率について、日本は9.6%とOECD諸国の中でトルコの11.0%(2008年)、ギリシャの10.0%(2010年)に次いで高い値を示している。日本ではもともと低出生体重児が多いかというとそうではない。1968年からの値の変化を見ると1980年代前半にはOECD平均を下回っていたのが、その後、増加が続き、現在の憂うべき状態に至っているのである。日本と並んでスペインや韓国の悪化も目立っている。逆に、先進国の中にもフィンランドのように低水準のままで推移している国もある。 2013年報告書では、途上国あるいは低開発国での低出生体重児の比率の高さの理由としては、 ・妊娠前、妊娠期の栄養不足 ・妊娠期の不健康と適切な保健医療アクセスの制限 をあげ、また多くの先進国で低出生体重児の比率が上昇傾向にある理由としては、 ・多胎出産(不妊治療による) ・高齢出産 ・陣痛誘発や帝王切開分娩といった分娩管理技術の使用増加による低出生体重児の生存率上昇 をあげている。分娩管理による計画分娩には医療側の事情も影響しているであろう。 低開発国における栄養不足や保健医療アクセスの要因は、日本でも1970年代の低出生体重児の比率の低下時期には重要だったと思われる。現代でも、同報告書によれば、米国などでは、黒人の幼児は白人の幼児よりも低出生体重児の比率が高く(13.2%vs7.1%、2010年)、メキシコやオーストラリア、ニュージーランドでは先住民と非先住民との間で同様な格差があるといわれるが、国内になお低開発問題を抱えていることのあらわれであろう。 日本の特に目立った低出産体重児の比率と増加については、報告書(2009年版も含め)は、1970年代以降の若い女性の喫煙率の上昇とともに出産年齢の高齢シフト、あるいは帝王切開が非常に多くなっている点を指摘しているが、日本の医療関係者は妊娠中のダイエットについても言及している。日本が先進国の中で目立っている健康上の特徴の一つは若い女性の痩せすぎの増加(図録2205)なので、やはり先進国の中で目立っている低出生体重児比率についても、この点が重要な要因となっていると思われる。 喫煙の影響については、米国の例では、2010年に低出生体重児の比率が非喫煙者は7.4%であるのに対して喫煙者は12.0%だったという報告もある。 さて、次ぎに、こうした低出産体重児の増加が1歳未満の乳児死亡率の増加に結びついてるかというと、上掲の下の方の図のように一般には両者の相関が認められるのに対して、日本の場合は結びついていない。日本の新生児医療のレベルの高さにより、低出産体重児の増加にもかかわらず乳児死亡率をOECD諸国の中で最低レベルに保つことに成功していると2009年版報告書はまとめている。 (2009年版報告書段階の分析) 科学的な要因分析は出産女性を対象にした疫学調査に待つしかないが、ここで、社会経済的な要因分析として、近年、目立った変化をとげている2つの指標、すなわち若い女性の体格のやせ傾向と若い女性の喫煙率の上昇を取り上げ、低出生体重児比率を被説明変数とする回帰分析を行った。 1980年〜2005年(2009年版報告書データ)についての時系列分析の結果は以下の通りである。 y = -2.2859 * x1 + 0.3067 * x2 + 48.28 (R2=0.763) (-3.204) (5.500) (3.162) カッコ内はt値 ただし、 y:低出生体重比率(%) x1:20歳代女性BMI(厚生労働省国民健康・栄養調査、図録2200) X2:20歳代女性喫煙率(%)(日本たばこ産業株式会社調査、図録2210) 妊娠中の母親がダイエットと喫煙について、上記2つの指標と平行した行動を取っていたと仮定すると次ぎのように結果を評価できる。 1980年から2005年にかけて上記BMIは0.57の減、上記喫煙率は7.8%ポイントの増であるので(各々の一次回帰傾向線により計算)、上記係数に掛け合わせてBMIの影響は1.3%ポイント増、喫煙率は2.4%ポイント増と計算される。すなわち、低出生体重児の増加に対しては喫煙率上昇の影響の方がダイエット効果より2倍弱ほど大きかったと見積もられる。 なお、ダイエットと喫煙とどちらの影響が大きいかという問題関心で行った分析であるので、高齢出産、多胎児、分娩技術の要因は捨象した。 (2010年7月23日収録、2013年10月27日更新、2014年7月15日更新)
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