男性の年齢別労働力率カーブがどの国でも同様であるのに対して、女性の労働力率は、日本のM字カーブをはじめとして、各国で、高さの水準(お金を得る仕事をしているかの水準)自体、あるいは若年層、中高年のどちらで働いている割合が高いのかなどで国ごとに大きく異なっている点については図録1500で見たところである。 OECDの雇用年報”Employment Outlook 2018”では、さらにOECD加盟各国について、女性労働力率の雇用状態別の内訳を年齢別に描いた図を掲載しているので、それをここで示した。 「女性の職業キャリアは直線的でなく、異なる労働生活が組み合わされている」(OECD年報がつけている図のタイトル)こと、また国によって多様なパターンがあることが明らかとなっている。 図録1500とダブル点もあるが、男性の年齢別労働力率より若干低いが男性と同様のパターンで推移する国としてはオーストリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンといった北欧を中心とした諸国をあげることができる。M字カーブからの脱却が課題とされる日本が見習うべき国の例として挙げられることが多いが、すべての先進国がこのパターンではないことはこれからの記述で明らかであろう。 女性の労働力率が男性より低い点が目立つ国は以下の通りである。 生涯的にわたり「かなり」低いのは、チリ、メキシコ、トルコといった途上国的性格のなお強い国である。 生涯的にわたり「まあまあ」低いのは、アイルランド、イタリア、日本、韓国であり、カトリック圏、あるいは儒教圏の諸国である。 若い時期に低いのが目立っているのは、チェコ、エストニア、ハンガリー、スロバキアといった諸国である。女性の若年期は教育面、あるいは家庭での役割(妻や母)が重視され、中高年になると働きに出る状況がうかがわれる。 逆に中高年になって低くなるのは、ギリシャ、アイルランド、ルクセンブルクといった国である。若い頃の家庭と労働の両立から、中高年になると家庭に入って、そうした若年層を助ける役割に転じるものと考えられる。 若年層と中高年で労働力率が2つのピークをもついわゆるM字カーブは日本と韓国だけの特徴である。 次に、雇用状態別の内訳に着目すると以下のような国別の違いが目立っている。 まず、失業状態のある者が多い国が存在している。失業状態が若い時期中心なのがギリシャ、スペインであり、中高年まで一貫して高いのがポルトガル、スロバキア、スロベニアである。 女性労働力率全体ではそうでないがフルタイム雇用では日本と同じM字カーブをたどっている国としては、オーストラリア、オーストリア、ドイツ、英国などが挙げられる。こうした国では、出産、子どもが幼い時期には、フルタイム雇用からパートタイム雇用に転じ、子どもが長じるにともなってフルタイム雇用に転じるので、労働力率のカーブそのものは日本や韓国のようなM字カーブにはならないのである。 女性のパートタイム雇用が多いのは、オーストラリア、オーストリア、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、スイス、英国といった国々である。 特にオランダではパートタイム雇用が多い点が目立っており、パートタイム雇用を正規労働として取り入れた柔軟な雇用戦略はオランダ・モデルとして知られている(図録3080参照)。 反対に、失業者は多くてもパートタイム雇用は少ないのは、チェコ、フィンランド、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、ポルトガル、スロバキア、スロベニアといった国であり、旧社会主義諸国が多い。 また、若い頃フルタイム雇用が多く中高年でパートタイム雇用が多いのは、ドイツ、アイルランド、日本、韓国、スイスなどである。 以上に登場しなかった主要国としては、フランス、米国をあげることができる。いろいろなパターンが混じりあった形態だともいえよう。 このように女性の一生の働き方は先進国だけとっても国によって様々であり、それぞれの国が自国の女性の雇用パターンの改善を図ろうとするのは当然だとしても、すべての国が目指すべき目標としてひとつのパターンを想定するのは無理があるといえるのではなかろうか。 なお、労働力の雇用形態別内訳とともに、図には、教育を受けている状態、あるいは退職扱いとなっている状態の非労働力人口の割合も示されている。 教育は「教育のみ」と「雇用兼教育」(教育訓練中の雇用者、あるいは試用期間中の学生)に分けられている。人的資本の重要性が増している状況を踏まえ、教育から雇用への効果的なシフトの状況をあらわすものと考えられるが、データの制約もあって、確たる分析については年報にも触れられていない。 年報によれば、図の「退職」(retired)については、多くの女性が法的な年金年齢に到達する10年前から非労働力化する場合もある状況をあらわすため表示されている。図だけから読み取るのは難しいが、年報では以下の4つのパターンがあるとされている。
(2018年9月18日収録)
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