内閣府では各国の60歳以上の高齢者を対象に「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を1980年から5年ごとに行っている。ここではこの調査結果から、高齢者の子どもとの同居比率の推移と別居している子どもとの接触の状況を探った。日本の同居・近居比率は図録2414参照。ひとり暮らし比率は図録1308参照。

 子ども(既婚)との同居率の推移で目立っているのは、日本や韓国で以前は主流だった老親との同居が少なくなって来ている状況変化である。30年前の1980年には日本では41.0%、韓国では54.1%と高かった同居率は、2010年には、それぞれ15.0%、16.0%と1割台にまで低下している。もはや日韓でも別居が主流となったといえよう。

 欧米では状況は大きく異なっている。以前より老親との同居は数%と少なく、近居、すなわち「スープの冷めない距離」が習慣となっているのである。2015年の米国、ドイツでは別居している子どもと週1回以上会ったり、連絡をとる比率が、それぞれ、78.6%、62.5%と日本の51.2%と比較して非常に高くなっているのである。週1回以上のなかでも「ほとんど毎日」が、米国の場合は42.9%とドイツの24.8%と比較しても非常に高くなっている。

 同居比率が欧米に近づいてきているからには、別居している子どもがいる高齢者の別居の子どもとの接触頻度も欧米に近づいているかを見ると、日本も韓国も週1回以上、会ったり、連絡をとったりする比率は、上昇して来ていることが図からうかがえる。もっとも日本の場合、別居している子どもとのコンタクト頻度はそれほどは高まっていないようである。

 社会人類学者の中根千枝によれば、イギリスでは、いわゆる「スープのさめない距離」に、親と既婚の息子、あるいは娘の一人が居住するという方法が定着している。また「一般にアメリカ人は、別居している親を日本人とは比較にならないほどよく訪ねます。車で二時間位の距離でしたら、たいていのウィークエンドには訪れるのがつねです。また、親のほうからも、よく息子や娘の家を訪問します。別居している親との、ふだんの往来は、むかしから、彼らのあいだでは習慣のようになっています」(中根千枝「家族を中心とした人間関係」講談社学術文庫、1977年、p.137〜138)。上の図は、この点を如実に示しているといえよう。

 戦前から欧米の高齢者は子と別居しているので暇という意見が在外邦人の中にあったようだ。「「アメリカでは、演劇ばかりじゃない。哲学や政治や文学の講演だって、主な聴衆はお婆さんなんだ。若い者はそんな面倒くさいものは顧みないよ」と、米国に長くいるある日本人がいった。「日本のお婆さんは嫁いびりでもして日を送っているが、アメリカでは親子別居で、嫁いびりが出来ないから、講演なんかを聴いて、暇つぶしをするんだね」と、他の人がいった」(正宗白鳥「世界漫遊随筆抄」講談社文芸文庫、p.20、1929年の新聞寄稿)。

 中根千枝によれば、日本では、親子関係にある2夫婦が同一の家に住む「家」制度のもとで、同居している長男夫婦以外の子どもが親を訪ねる習慣は発達しなかったという。「したがって、別居してしまうと関係が疎遠になりがちです。そして、むかしは長男が親を見るということでしたから、兄弟姉妹が連帯して親をみるという習慣も発達しなかったのです。(中略)親のほうも、一緒に住んでいる娘(あるいは息子)には遠慮がなくても、別居している息子・娘たちに対しては遠慮するというのがつねです。ここに、日本に古くから慣習となっている、「居をともにする」ということが、私たちの心理にどれほど大きく作用しているかをみることができます」(同、p.139)。

 高齢単身世帯や高齢夫婦世帯が一般化していく中、子どもがいないケースを含めて高齢者が孤立しすぎないパターンをどう考えていくかは重要な課題である。特に家制度の影響で同居以外のコミュニケーション・パターンが不得意な日本人にとっては新たな取り組みの側面が強いといえる。

 参考のために、厚生労働省の国民生活基礎調査の3年毎の結果から65歳以上高齢者の家族構成の変化を以下に掲げる。


(2014年6月6日収録、7月16日国民生活基礎調査結果を追加、2015年11月2日正宗白鳥引用、2017年8月13日更新)


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