農地への化学肥料や畜産糞尿、たい肥等による窒素やリンといった栄養分の投入量は、作物の収量に大きな影響をもたらし、栄養不足は土地の肥沃度を失わせる。他方、作物や牧草が消費する以上の栄養過多は、農業生産性の低下に結びつく可能性があるとともに、富栄養化といった水質の汚染やアンモニアによる大気汚染など環境汚染を引き起こす可能性も高まる。リン資源の維持可能性についても関心が大きくなっている(OECD Factbook 2008による)。

 そこで窒素とリンの栄養バランス(Gross nutrient balances)のグラフを掲げた。

 OECD諸国では窒素もリンも投入過多の状況となっている。例外はリンに関するハンガリーのケースだけである。

 ただし、多くの国で栄養過多の状況は改善されつつある。ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、デンマークといったヘクタール当たりの栄養過多が大きな国でのバランス改善が目立っている。

 日本については、やはり、集約農業の国という特徴からOECD諸国の中で栄養過多の傾向が目立っているが、リンについては投入過多が縮小しているが窒素はあまり変化がない。

 集約農業を進めている韓国では窒素の投入過多が第1位、リンが第2位となっているのが目立っているが、10年間の変化で両者とも投入過多の程度が大きくなっている点でも他のOECD諸国と比較して目立っている。

 いくつかの国で窒素分過多の程度が大きくなっている点については、OECDによれば「非有機窒素肥料の使用がほとんどの国で制限されてきていることから、窒素過多の増幅は、通常、畜産生産の集約化の結果である。」(OECD Factbook 2008)

 肥料貿易については、世界的な資源価格・穀物価格の高騰(図録4710)を受けて、肥料の3要素である窒素、リン酸、カリウムの価格が高騰しており、リン酸原料のリン鉱石の世界2位の産出国である米国が1996年に輸出禁止に踏み切り、2008年は世界1位の中国も100%の輸出関税を課して実質輸出禁止となる状況の中で、08年7月、国内の化学肥料市場の6割強のシェアを握る全農(全国農業協同組合連合会)が肥料価格を一気に6割も値上げし、全国の農家は衝撃を受けた。国土交通省は08年度から下水道の汚泥から肥料原料のリンを回収する事業を始めるといわれるが、環境に対する配慮もさることながら、農業経営上また資源の有効利用の点からも国内のリン資源のリサイクルや有効利用が望まれている。

 栄養分の投入と消費に関しては、地域的な片寄りや作物部門と畜産部門の連携の有無など、なお改善の余地があると考えられる。

 なお、肥料使用と関連して農薬の単位面積当たりの投入量が多かった集約農業の国で投入量が減少している点については図録0540参照。

(2009年7月13日収録)


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