世界の食肉消費の推移を牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉別に追ったデータを図録0428に掲げたが、ここでは世界各国でこの4つのうちどの肉が好まれているか調べ、世界地図にした。

 まず、1人当たりの年間消費キログラムが牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉のうち何が最多かで区分した世界マップを@に掲げた。

 参考として、以下に、主要国の肉種の消費量を示す図を掲げた。動物性タンパク質源として肉類と双璧をなす魚介類の消費量も合わせ表示した。


 どの肉が最多かという区分では消費量の大きさそのものは表現できない点に注意する必要がある。日本も米国も鶏肉が最多の国だが、日本の鶏肉消費量は25キロと米国の58キロの半分以下である。

 現在、世界的に鶏肉の消費量が最も多くなっていることを反映して、鶏肉消費が最大の国が非常に多くなっている。

 開拓時代から伝統的に牛肉、ステーキを多く食べていた南北アメリカでもアルゼンチン、パラグアイを除くと今ではすべて鶏肉が首位となっている。

 これに対して特徴的な世界分布となっているのが豚肉が首位の国々である。ヨーロッパ諸国とアジア諸国(中国、朝鮮半島、東南アジア)という2つの地域的なかたまりが認められる。

 ヨーロッパでは、森のどんぐりで肥った豚を痩せる前の秋に塩漬け、燻製の保存食にした伝統から、ハム、ベーコン、ソーセージ食が特徴の地域となっている。残飯などで豚を飼育してきた中国では野菜などと煮たり、炒めたりして、そのまま食べることが多いが、豚の後肢を蹄をつけたまま加工した火腿、別名金華ハムや香港名物の風肉という干し肉や猪皮という乾燥肉なども有名だ。豚肉の位置づけは高く、「宴席では正客の前に敬意を表するために豚の頭や料理した仔豚一頭を置く」(北岡正三郎「物語食の文化」中公新書、p.313)。

 牛肉地域は、アルゼンチン、中央アジア、アフリカ中央部という3つのかたまりが認められるが、消費量を確かめると、アルゼンチンは48.5キロ、中央アジアのカザフスタンは27.1キロと確かに多いが、アフリカのケニヤは4.7キロとずっと少ない。アフリカでは、肉類の消費そのものが少ないなかでたまたま牛肉が首位となっているだけの場合が多いと言えよう(ただしジンバブエは43.8キロとアルゼンチンに次ぐ消費量となっており、そうしたケースではない)。

 羊肉が首位の国は、モンゴル、アフガニスタン、シリア、アルジェリア、モーリタニア、ナイジェリアといったアジア・アフリカの乾燥地帯の国々が多い。中国でも北方遊牧民族の影響が強くなると羊肉が重視された歴史を有し、現在でも主要国の中では羊肉の消費が多い(上の参照)。

 次に、もう1つの区分方式の世界マップ(A)を見てみよう。

 牛肉と鶏肉では同じ重さで値段が大きく違う。家計調査だと4倍ぐらいの単価の差となっている(図録0410)。であるなら、重量ベースではなく価格ベースでもっとも多く消費した肉は何かという区分があってもよいだろう。

 ただし、各国の各種肉価格でデータをつくるのは困難である。そこで、それに代わる方法法として、1人当たり消費量の世界ランキングを各肉で算出し、もっとも順位の高い肉で区分した結果の世界マップをAに掲げた。

 例えば、鶏肉と牛肉の米国の消費量は、それぞれ、58キロ、38キロだが、世界ランキングは、それぞれ、10位、3位なので、米国は@では鶏肉に区分されるが、Aでは牛肉に区分される。

 Aでは、鶏肉に区分される国は、非常に少なくなっているように見える。実は鶏肉国は39か国と165か国中24%と少ないわけではない。しかし、サモア、セントビンセント・グレナディーンといった面積の小さな島国などが多いため、シェアが小さいように見えているのである。小さな島国では生産も輸入も容易な鶏肉と比較して、牛など大家畜の肉は高くつくので消費も少ないと考えられるのである。

 @とは対照的に、大きなシェアを占めているのは羊肉である。乾燥地域であるモンゴルやオーストラリア、及びインドから中東を経て、西アフリカにかけてのアジア・アフリカ諸国が羊肉に区分される。

 また、伝統食としての地位が高い牛肉が中米周辺を除く南北アメリカで大半を占めている。さらに、@では豚肉が圧倒的だったヨーロッパの中でも、北欧諸国や英国、フランスなどは牛肉国に区分される。

 日本はフィリピンなどと同様、@では鶏肉国だったが、Aでは豚肉国となる。

(2025年3月5日収録)


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