いちごは日本人が最も好きな果物である(図録0334a)。

 いちご(イチゴ、苺)は果樹ではないので生産統計では野菜、果物屋で売っているので流通統計では果実に分類されている(コラム参照)。果物屋で売っているので消費者も果物と考えている。いちごは生産額では野菜の中でトマトに次ぎ、きゅうりを上回る大きな売上げとなっている(図録0420参照)。

 いちごの都道府県別の農業者の売上げ(産出額)をグラフにした。いちごの産地は、東は栃木が中心、西は、福岡、熊本、佐賀、長崎の諸県、そして東海の静岡、愛知が次ぐ。いちごといえば東日本では「とちおとめ」、西日本では「とよのか」だったが、甘い、大きいをキャッチフレーズに全国の産地が新ブランド戦略を展開し、「いちご品種の戦国時代」に突入している(東京新聞2006.3.13)。いまでは、東はなお「とちおとめ」が優勢だが、西は、「さがほのか」が最も多く、これに「あまおう」、「さちのか」と続いている(東京新聞2013.12.8)。

 いちごの歴史をおさらいすると、江戸時代にオランダから伝わったいちごだが、大衆化したのは戦後、米国産のダナーが1960年代に登場し、埼玉での栽培がさかんとなった。当時、いちごといえば「埼玉ダナー」、酸味が強く、練乳をかける食べ方、あるいは器にいちごを入れ、牛乳と砂糖をかけ、スプーンで潰す食べ方は、古い人にはなつかしい。

 1980年代は、東では栃木の「女峰」、西では福岡の国研究所開発の「とよのか」が登場、それ以降、「女峰」は「とちおとめ」に代わったが、東西2強時代が長く続いた。栃木では20年前から、生産者に売上げの一部を拠出してもらって、PR体制を強化し、首都圏でテレビCMを流してきたという。

 西の「とよのか」に陰りが出始めた数年前から、西日本各県が独自品種を開発、群雄割拠の時代に入り、大消費地東京で相互に争うようになった。

 佐賀県が開発した「さがほのか」は円錐形で実が締まり、「ケーキやカクテルに向く」とアピールされている。一方、福岡の「あまおう」は、「あかい、まるい、おおきい、うまい」の頭文字をとって命名されており、高価だが甘くて丸い形、贈答品向けなどで売り出している。この他、熊本、静岡、奈良などでも新品種の攻勢をかけてきている。

 トップシェアの「とちおとめ」は、消費者ニーズの多様化により、単価が下落傾向にあり、10年連続単価トップの福岡の「あまおう」に後れを取っている。そこで、栃木でも「あまおう」に対抗できる高級イチゴを、という声に応えて開発されたのが「スカイベリー」であり、2015年のシーズンから本格出荷が開始された。果物専門店の新宿・高野における2015年3月のイチゴの値段では、あまおうが1粒200円なのに対して、スカイベリーは350円と大きくリードするに至っている(毎日新聞2015年3月7日夕刊)。

 イチゴの国内消費は微減傾向。むしろ輸出が香港、台湾向けに増加している。

いちご栽培の歴史
事項
18世紀 北米のバージニア種と南米のチリ種がオランダで交配されて現在の栽培用イチゴができたといわれる
江戸時代末期 オランダ船でイチゴ渡来、オランダ商館の菜園で栽培
明治4年頃から フランス、英国、米国などからイチゴ導入。明治20年代頃に小規模産地
1899(明治32)年ごろ 福羽逸人が日本初の品種「福羽」を育成
1900年ごろ 久能山麓(静岡県)で石垣栽培がはじまる
◆しだいにイチゴ産地へと成長
1960(昭和35)年ごろ 関東「ダナー」、関西「宝交早生(ほうこうわせ)」、九州では「はるのか」が主流に栽培される
◆イチゴの栽培技術の確立
1978年 種苗法の制定...イチゴの新種登録有効期限15年
1984年 「とよのか」登録
1985年 「女峰(にょほう)」登録 「西のとよのか 東の女峰」の2大品種時代を築く
◆いずれも促成栽培向き、クリスマス出荷本格化
1992(平成4)年 「章姫(あきひめ)」登録
1994年 「あかねっ娘」登録
1996年 「とちおとめ」登録
1998年 種苗法の改正...イチゴの新種登録有効期限20年
(品種乱立時代へ))
2000年 「さちのか」登録
2001年 「さがほのか」登録
2002年 「紅ほっぺ」登録
2005年 「あまおう」登録
種苗法の改正...イチゴの新種登録有効期限25年
2009年 白いイチゴ「初恋の香り」登録
2011年 福岡の「あまおう」に対抗して栃木で「スカイベリー」が開発される
2014年 静岡県が11月から新品種「きらぴ香(か)」を試験販売
(資料)東京新聞大図解「イチゴ」2013年12月8日、毎日新聞2015年3月7日

【コラム】いちごは野菜か、果物か

 消費する立場からは「生で食べるのが果物、油炒めなど料理をして食べるのは野菜」、「食後のデザートとして食べるのは果物、副食は野菜」なので、いちごは野菜ではない。実際、NHKの調査では「日本人の好きな果物」のトップがいちごである(図録0334a)。流通統計や消費統計ではいちごは果物なのである。

 しかし、「木に成るものは果物、苗を植えてから1年以内に収穫するのが野菜」とするといちごは野菜である。実際、生産者の立場から作成される生産統計では野菜に分類されている。メロンやスイカもいちごと同様である。

 さつまいもやじゃがいもは生産統計ではいも類だが流通統計では野菜である。

 いちごは野菜なのに果物的な産品である訳だが、逆に、果物なのに野菜的な産品がないかさがしてみると「森のバター」と呼ばれるアボガド(アボカド)がある。最近消費量が増えているアボガドは、生産統計、流通統計、貿易統計のいづれも果物に分類されているが、甘味を含まないため味がフルーツとは言い難く、また消費パターンも、デザートというよりサラダの一品目として使われる場合が多いため、果物というよりはむしろ野菜である。実際、スーパーでもアボガドは野菜売場で売られている。

【コラム2】イチゴがおいしく食べられる季節

 イチゴは3〜4月の食べ物だが、最近は、栽培法の開発により、もっと早くから出回るようになっている。


(2006年4月3日収録、2012年8月1日コラム追加、2013年12月8日更新、年表追加、2015年3月7日スカイベリー記事、コラム2追加)


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