主要国の供給カロリー推移については図録0200でふれ、日本の供給カロリーが特段低く、また各国で増加傾向にある供給カロリーを日本だけが反転、減少させている点が目立っていた。ここでは、主要国だけでなく、OECD諸国、あるいはOECD以外の主要国の供給カロリーの水準、及び最近30年間の変化をあらわしたグラフを掲げた。ある時期から反転・減少に転じたという日本の供給カロリーの特異な推移がもっと多くの国と比較してどれだけ目立っているかを確認するためである。

 なお、2013年データにもどつく供給カロリーの国際比較(旧版)は図録0110に掲げてあるので参照されたい。

 まず、供給カロリーの量的水準であるが、2020〜22年平均でOECD諸国中最低であり、OECD以外でも日本を下回っているのは栄養不足者をかなり含むナイジェリアとインドぐらいであることが分かる。日本人が先進国の中で少食度ナンバーワンであることは間違いないであろう。

 さらにこの30年間の変化を棒グラフで示したが、こちらでも、日本は最大の供給カロリー減少国であり、そもそも貧困国における栄養状態の改善、あるいは先進国における飽食化という世界的な流れの中で供給カロリーが減少した国じたいが少ないのに、日本の減少幅が最大であるのはやはり驚きである。

 なお、供給カロリーが大きく増大した国の中では、エストニアや中国のように低栄養状態からの脱出が目立っているケースもある一方で、米国のように30年前にも供給カロリーの水準が高かったが、それがさらに増加したケースもある。前者は「脱貧困化」、後者は「飽食化」の典型例と見なされよう。

 日本の少食化がどんな理由で引き起こされたかを探るため、供給カロリー減少国、および参考国として米国の供給カロリー推移をページ末尾の図に掲げた。

 日本と供給カロリーの動きが比較的似ているのは香港、台湾という儒教圏の2か国である。香港は日本と同じころ供給カロリーが横ばいに転じ、それ以降減少傾向となった。台湾は日本から約10年遅れて減少に転じ、減少傾向が続いている。

 したがって、供給カロリーの反転・減少という特異な推移パターンは儒教圏特有の動きではなかろうかと言いたくなる。しかし、同じ儒教圏でも韓国と中国は図録0200で見た通り、欧米諸国と同様の、いやそれを上回る増加傾向が継続しており、儒教圏諸国共通の特徴というには無理がある。

 それはさておき、ギリシャ、ニュージーランド、南アフリカは、日本、香港、台湾とはやや異なる動きに見える。

 ギリシャはかつては米国を上回る大食国だった。そのせいもあって肥満国としても目立っていた(図録2201)。2009年にギリシャが政府財政収支に関して虚偽の報告を行ったことが欧州債務危機のきっかけとなったが、その後の財政健全化で2010〜12年に景気が大きく落ち込んだことが知られている。それに先立つ2006年から供給カロリーの減少ははじまり、景気低迷でさらにそれが促進されたようである。EUの1国としての借金増で浮かれていた国情が欧州債務危機で一気に委縮した影響なのであろう(注)

(注)ギリシャの景気低迷で世界一だったセックス回数まで落ち込んだ状況については図録2318r参照。

 ニュージーランドも供給カロリーがかつては米国を上回っていたが、かなり以前から供給カロリーの横ばい化が認められる。しかし、その動きはむしろ増加が抑えられているという印象である。ニュージーランドでは健康志向、環境志向が強いときくので、そのため大食がなんとか抑制されているのであろう。

 南アフリカもかなり以前から供給カロリーが横ばい化しているが、増加傾向と減少傾向の時期が繰り返されており、国情の不安定を反映しているように見える。


取り上げた44か国は図の順に日本、コスタリカ、コロンビア、スロベニア、チリ、ニュージーランド、エストニア、ラトビア、スウェーデン、メキシコ、フィンランド、英国、リトアニア、スペイン、ギリシャ、ハンガリー、韓国、スイス、オーストラリア、オランダ、ポルトガル、ノルウェー、ポーランド、フランス、デンマーク、カナダ、ドイツ、アイスランド、イタリア、オーストリア、トルコ、イスラエル、アイルランド、米国、ナイジェリア、インド、南アフリカ、インドネシア、台湾、香港、サウジアラビア、ブラジル、中国、ロシアである。

(2024年12月1日収録)


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