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公表されている新型コロナ感染症による死亡者数は、PCR検査が十分に行われていないために、過少となっていて実際にはもっと多いという疑惑がなかなか消えない。そこで、例年よりどのくらい多くの死亡者数が出たかを示す超過死亡の算出によって、実際の死亡者数がどの程度かを検証してみることにする。 全国の月別の死亡者数については、死亡届のカウントによる方法で人口動態統計の速報で公表されるが、時期的には翌々月の末にならないと分からない。しかし、東京都の死亡数は、「東京都の推計人口」の発表にともなって、翌月末には公表される。全国の中でも東京都は、感染者数が絶対数でも人口当たりの数でも最も多いので、全国動向を特徴的に示す例として、東京都のデータで超過死亡を算出した結果を図に掲げた(参考のため、表示選択で23区のみのデータも掲げた)。 全国や東京の新型コロナ感染者数が目立って急拡大しはじめたのは3月の最終週からであり、新規感染者数のピークは4月の第2週だった。緊急事態宣言は4月7日に7都府県に発令され、16日には全国に拡大された。そして、5月4日には緊急事態宣言が一か月延長されが、25日には緊急事態宣言の全国的な解除が宣言された。従って、新型コロナ感染症の影響は、3〜4月の死亡者数にあらわれている筈である。 過去5年間の毎月の東京都の死亡者数を平均すると、3月、4月は、それぞれ、10,271人、9,049人であったが、2020年の両月の死亡者数は、それぞれ、10,694人、10,107人となっており、超過死亡数は、それぞれ、423人、1,058人と算出される。 すなわち、2020年の3〜4月には、例年になく死亡者数が多かった。 例年になく死亡者数が多いのは、通常であれば、インフルエンザの影響による場合が多い。しかし、2019/20年冬のインフルエンザの流行は不思議なことに、例年より早く3月には収束してしまったので、その影響とは見られない。従って、この超過死亡は、やはり、新型コロナの影響と見るのが妥当ということになる。 超過死亡の増加要因としては、
東京都が発表した新型コロナによる累積死亡者数は4月末の段階では120人だった(この中には都民以外も含んでいるだろうが、逆に、他県発表の死亡者数にも都民が含まれている)。3〜4月の超過死亡数を合計すると、1,481人なので、実際の死亡者数は公表値の10倍以上ということになる。 このため、4月までの超過死亡を見た段階では、Aが多かったのではないかという記事をプレジデントオンラインに掲載した(ここ)。 しかし、その後、5月には超過死亡がマイナスに転じ、また後段でふれるように、東京都内では感染率の高い地区ほど超過死亡が少なかったりする意外な傾向もあるので、むしろ、Bの影響が案外多かったのではないかというように私も見方が変わっている。 B(医療機関受診減)の影響については、下図に掲げた厚生労働省の概算医療費のデータの総受診日数の推移からもうかがえる。2020年4月〜5月に医療機関を受診した患者数の減少は東京では何と2割5分〜3割に及んでいるのである。 その後の超過死亡の動向を見ると、6〜8月には、再度、縮小傾向にあるものの超過死亡がプラスとなっており、Bのような、またさらにCが加わった新型コロナの間接的な影響も出ているのではないかと想像される。 7月以降に第2波とのいうべき感染拡大が襲い、感染者数は大きく増加した。超過死亡については7〜8月は6月よりむしろ少なかったが、9月になって大きく増加し、ほぼ最悪の4月の水準にまで達している。第2波の影響が出てきている可能性があろう。 (海外との比較) 海外の超過死亡は4月末の段階で東京を大きく上回っていた 3〜4月は、新型コロナの死亡について、公表数と比較して実際の死亡者数はかなり多かった可能性があるが、海外ではどうだったのであろうか。 公表値が実は過少なのではないかという疑問から、海外の有力新聞では、各国の超過死亡をいちはやく算出して報道していた。表示選択の図表には、英国のフィナンシャルタイムズ紙が3〜4月のヨーロッパ各国の超過死亡、及び超過率として報道した値を掲げ、東京都の値を併記して両者を比較した。 イタリア、スペインの超過死亡は2万人以上、英国、フランスの超過死亡は1万人以上と、4月末の時点でかなりの人数となっていた。超過率では、イタリアの90%やベルギーの60%、スペインの51%などほとんどの国で東京の8%を大きく上回っている。 表には掲げていないが、フィナンシャルタイムズ紙はニューヨーク市のデータも算出しており、これによればニューヨーク市の超過死亡12,700人、超過率299%となっていた。 以上のデータを報じた2020年4月27日のフィナンシャルタイムズ紙は「14か国/地域の死亡統計は通常のレベルと比較して12.2万人死亡者数が多かったことを示しており、これは公式的に新型コロナの死亡数とされる7.7万人を大きく上回っていた」と述べ、記事のタイトルも「世界のコロナウイルス死は報告されているよりも60%多い」だった。しかし、この14か所には、上記ニューヨーク市などが含まれており、やや大げさな論評だったとも言える。 実際、WHOに各国が報告しているこの期間について死亡者数を見ると、スペインやオランダなどでは公表数より超過死亡の方が多くなっている一方で、その他の国では超過死亡と公表値はほぼ同等である場合も多いのである。 もちろん、超過死亡の内容は、自宅死など報告されないコロナによる死亡数に加えて、医療崩壊による超過死亡や都市封鎖(ロックダウン)による失業など経済的な要因やストレスによる自殺を含むであろう。 都市封鎖の影響は、逆方向もあるという識者の説をフィナンシャルタイムズ紙は紹介している。すなわち、クルマ通勤による交通事故死や労災死の減少、あるいは大気汚染の緩和による死亡減などの影響もあろう。 図表からは、日本は、最も感染者数が多かった東京だけ抜き出しても、人口当たりの死亡数も超過死亡も非常に低いレベルだったことが、明らかである。 ただし、日本の場合は、超過死亡が公表死亡数の10倍以上と大きくかけ離れており、他国ではオランダの1.4倍が最大の乖離幅だったのと比較すると異様である。やはり、少なくとも4月末の時点までの状況として、PCR検査数のキャパシティに限界があったことなどが影響して、死亡者数の把握が過少だったAの側面も、なかったとはいえないであろう。 (多摩地域でも結構多い超過死亡) 東京都の死亡者数は、都内市区町村別に発表されているので、都内の各地域別に超過死亡を算出することができる。そこで、最後に、2020年の3〜8月の都内各地区の超過死亡数と感染者数を人口10万人当たりベースで相関図にしたものを以下に掲げておいた。 本来なら、感染者数の多い地区ほど超過死亡者数も多くなっている筈である。ところが、実際は、 新宿区や港区といった感染者数の多い地区はむしろ超過死亡はそう多くなく、多摩小平、町田、江戸川区といった感染者数が人口当たりで少ない地区の方が超過死亡が高くなっている。 つまり、正の相関である筈が、相関度は非常に低いが(R二乗値0.0229)、むしろマイナスの相関が認められるのである。 言い換えれば、人口10万人当たりの感染者数では、都心地区から周辺地区・多摩地区に同心円状に値が目立って低くなっていく傾向が見られるが、超過死亡では、都心から周辺部へかけての傾斜は認められず、むしろ、都内全域で概して高くなっている様子がうかがえる。 東京都は居住する市区町村別の感染者数は公表しているが、死亡者数は公表していないので、実際のコロナ死亡者数の地域傾向は分からない。超過死亡のデータからうかがえるように、感染者数と死亡者数が比例していないとすると、上記のB、すなわち、新型コロナの感染を恐れるなどして病院を受診する患者が減ったことによる間接的な影響の可能性も大きいのだと言えよう。そして、5月には超過死亡がむしろマイナスへと反転したのは、4月までの緊急事態宣言下における混乱がおさまって、そうした影響も消えたからではないだろうか。 もっとも、渋谷区、文京区では、超過死亡がマイナス、すなわち、例年より死亡者数が少なくなっていることからも分かる通り、新型コロナの感染者・死亡者数はそれほど大きなデータではないので、誤差や変動が大きく、地域別の分析には限界があることを理解した上で、以上の地域分析を受け止める必要があろう。 (2020年7月8日収録、7月31日更新、8月31日更新、10月1日更新、10月15日患者数減データ、10月30日更新、11月13日患者数減データ更新、11月30日更新、12月26日更新、2021年1月30日更新)
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