英エコノミスト誌は簡略版の通貨の実力指数としてビッグマック指数を発表している。最近のデータ(The Economist, October 16th 2010)をグラフにした。 これによれば中国の通貨である元(yuan)は最も過小評価されている通貨であることが分かる。中国で売られているマクドナルドのビッグマックは米国ドルに換算すると2.18ドルであり、米国の3.71ドルと比較すると40%ほど安く入手が可能である。これなら、運賃と時間がかからないとすれば、米国でビッグマックを食べるより、中国で食べた方が安上がりという訳であり、ビッグマック価格が他の製品にも当てはまるとすれば、一般的に輸出は中国にとって大いに有利となっていることとなる。 他方、ブラジルは4割、スイスは8割も通貨が過大評価されており、ブラジルの財務相のギド・マンテカ氏は先月、ブラジルは「通貨戦争」による潜在的な死傷者となっている、と不満を漏らしたという(「消化できない問題−何故中国はもっと高いバーガーが必要か−」The Economist, October 16th 2010)。 日本は、最近円高が大きく進む前少し前は円が過小評価であったが、今回はやや過大評価という位置に転じた。それでもビッグマック指数を見る限りは、大騒ぎして大掛かりな為替市場介入をするほどの水準だろうか、と冷ややかに見られていると思われる。インフレ率の相対的低さ(図録4722)や実効為替レート上も大きな円安が是正されているだけとも見れる状況(図録5072)から、英エコノミスト誌を読むような連中は日本の通貨問題を、むしろ、国内の政治問題と取っていると思う。 本来はビッグマックだけでなく様々な商品で同様の調査を行い、その結果が購買力平価(purchasing-power parity, PPP)ベースの為替レートとして算出される訳だが、ビッグマック指数であると、結果が早く出るし、1商品なので分かりやすく、実感に訴えるので国際経済インテリの間の話題となりやすいと捉えておいた方がよかろう。 エコノミスト誌の同上記事によれば、通貨戦争の勃発に備えて米国の下院は、先月、過小評価されている通貨を違法な輸出補助金と捉え、米国企業に相殺関税の要求を許す法案を通過させたらしい。その場合、法案が提案している過小評価かどうかを判断する不均衡是正のための基準は、もちろん、ビッグマック指数ではなく、IMFがお気に入りの以下のような「理解に時間がかかる消化しにくい」方法だという。いつものことだが、これらの組み合わせで、IMFの構成メンバー国の政策を一気に評価してしまおうというのだ。 @経常収支をその国の成長率、所得水準、人口動態、財政収支といった経済指標に見合った水準に着実に近づけさせるような実質的な為替レート A実質的な為替レートと貿易上の交易条件、生産性、対外資産(負債)の統計的な関係の計算(例えばブラジルの通貨の強さは大豆のような高い輸出品価格を反映していると捉える) B対外資産(負債)をリーズナブルな水準に安定化させる為替レートの計算(例えば対外資産の急速な蓄積に結びつくような貿易黒字を生むようであればその通貨は過小評価とする) 冒頭にふれたG20財務相・中央銀行総裁会議の米韓の提案は、こうした考え方の一端なのであろう。もっともIMFの担当者もこうした基準の適用が必要な中国のような経済大国ほど、基準通りには行かないことを理解しており、ビッグマック指数を研究した学者が言うように指数の是正は容易に進むものでもないとしている。つまり「ビッグマック指数じたいが過小評価されているといえよう。」 (2010年10月23日収録)
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