世界ではポピュリズムの台頭という政治潮流がかなり前から注目されている。国の苦境の原因を移民や外国人のせいにする右派のポピュリズムもあれば、富裕層や権力者のせいにする左派のポピュリズムもある中で、その背景を探る国際調査をフランスの世界的な世論調査会社であるイプソス社が定期的に実施している。

 図録9625ではこの調査により、各国で社会が壊れてきているという意識がどう変化しているかを探ったが、この点に関しては、政治が従来と比較して機能しなくなっているという認識の高まり、すなわち政治不信が、ひとつの要因となっていることは間違いがなさそうである。

 イプソス社の同調査では、この点の調査項目を設けている。すなわち、「既存政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」かどうかを問う設問で、政治との距離感が広がっているかどうかを調べている。

 図では主要国における推移を追っているが、日本の場合、2016年の段階では、39%と非常に低いレベルだったのが、最新の2025年の68%へと急激に政治不信が高まっているのが目立っている。

 他の主要国ではどの国でも以前から政治不信が高かったのに対して、日本の場合は、最近、政治不信が高まっているのが特徴である。

 イプソス社のこの調査の報告書が。「ポピュリズムレポート」と題されていることからも分かる通り、この調査で「社会が壊れているか」、「政治不信が高まっているか」を調べているのは、実は、これらの状況が、各国でポピュリズムの台頭につながっているのではないかという点を探るためである。

 2つめの図では、こうしたポピュリズムの台頭、すなわちポピュリストへの期待がどの程度高まっているかの調査結果を見ている。

 設問は、「金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている?」である。

 図には、この設問への同意回答の比率の推移を主要国についてまとめた。

 主要国については、かなり以前からポピュリスト期待が高まっていることが明らかである。

 ところが、日本の場合は、社会崩壊認識や政治不信ほどではないが、やはり当初低かったレベルから最近はかなり高まってきている点では同じ動きを示している。

 国別の動きの中で、非常に特異なのはドイツである。

 これまで見て来たようにドイツも社会崩壊認識や政治不信は高まりつつある。特に社会崩壊認識は世界一のレベルにまで達している。ところが、ポピュリスト期待の点では、主要国の中で最低レベルを維持している。

 これは、戦前のナチズムの苦い歴史的経験から、いくら社会が乱れ、政治が信じられなくなろうとも、ヒットラーへの個人崇拝というような間違いは繰り返すまいというドイツ国民の強い意志からだと考えられる。

 日本も戦前の軍国主義に対してはドイツに匹敵する苦い歴史的経験を有しているが、個人崇拝を反省すべきとは考えていないので、ポピュリスト期待もそれなりに高まっていると考えられる(天皇崇拝は個人崇拝というより国体崇拝という別種の国家主義のあらわれだったに過ぎないと日本人は考えていよう)。

 そうだとすると、ドイツの総選挙では極右政党が第2党となってもポピュリズム政治には必ずしもむすびつかないのに対して、日本の場合、2025年の参院選の結果、新興政党が大きく勢力を拡大したが、次の衆院選でも同じ流れが継続し、ポピュリズム政治へと日本が大きく傾斜していく可能性はドイツより高いと見た方がよいだろう。

 2025年参院選で躍進した新興政党の党首らが、今後、どんな言動を取っていくのか。そしてまた、既存政党がそれにどう対抗していくのか、例えば新しいヒーロー、ヒロインを生み出そうとするのか、今後の展開に目が離せない。

 政治的な行き詰まり状況に各国、そして日本が追い込まれているようだ。カフカの言が思い起こされる。「正しい道筋を永遠に失ってしまった。そのことを、人々はなんとも深く確信している。そして、なんとも無関心でいる」(「カフカ断片集」新潮文庫)。

(2025年8月9日収録)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(海外)
テーマ
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)