日本人の宗教観は世界の中でも変わっている。その一端をうかがうため、2010年から数年にわたり実施された2010年期の世界価値観調査から、宗教の基本的な意義は「死後の意味づけ」なのか「現世の意味づけ」なのかを問うた設問の回答を見てみよう。

 日本人の回答では、宗教の基本的意義として「死後を意味あるものにすること」と答えた人は、9.7%と1割に満たず、世界60カ国で最も少ない点が印象的である。それでは「現世を意味あるものにすること」が多いかというと、回答率は47.7%と死後に比べれば多いが、他国と比較してそれほど多いわけではない。残りは「分からない」や「無回答」であり、日本人の場合、こういう訊き方をされても困るという反応であるかのようだ。中国やシンガポールといった国でも同様の傾向があり、儒教国としての宗教観が影響している可能性がある。

 他方、日本人とは正反対に、「死後を意味あるものにすること」の回答率が高いのはイスラム教国の国民である。最も回答率が高いパキスタンでは何と8割がそう考えているのだから少しおどろく。イスラム教国の多くでは4割以上の国民がそう考えている。

 近年、世界各国でISを中心としたイスラム過激派の自爆テロにより多くの命が失われている。自爆攻撃という点では、第2次世界大戦中の日本のカミカゼ攻撃が連想されることもあるが、最近のイスラム過激派の自爆テロは、聖なる戦いであるジハードで戦死した者は、この世の終わりに最後の審判がなされ、天国で処女たちに囲まれて夢のような暮らしを送ることになるというイスラムの考え方に基づいていると思われる点で、特段、宗教的な意味づけはなかったカミカゼ攻撃とは異なっている(注)。図に見られるようなイスラム教国における「死後」の位置づけの大きさを知らないと自爆するテロリスト達の心情は理解しがたいのではなかろうか。

 なお、欧米主要国では、日本とイスラム教国の中間の考え方となっており、キリスト教の影響が大きい米国は「死後を意味づけるもの」という考え方も根強いが、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどその他の欧州諸国では、どちらかというと「現世を意味づけるもの」として宗教を捉える傾向が強いことが分かる。

 以上の点については、ダイヤモンド・オンラインの第6回「日本人の宗教観は奇妙か、それとも他国が奇妙なのか」でもふれたので参照されたい。

(注)「9.11のハイジャック犯は死後は天国に行き、処女に囲まれて豪邸で生活できると約束されていた(日本のカミカゼ特攻隊の場合は、そこまで具体的なイメージはないまま、偉大な精神世界へとのみ込まれていった)」(スティーブン・ピンカー「暴力の人類史」上、p.616、原著2011年)。

 ウィキペディアの「ジハード」によれば(2016年9月11日)、「ジハードで戦死した者は、この世の終わりに最後の審判がなされた結果、天国にいけるとされている。イスラームにおける「天国」はアラビア語で(jannah) と呼ばれ、『クルアーン』ではその様子が具体的に綴られているが、それによれば、緑なす木々に覆われ、果実は枝もたわわに実り、清らかな川が数多く流れて、快適な風がつねに吹きわたっている清浄なところであり、天国行きを許されたものに対しては、現世の酒とは異なり、いくら飲んでも酔わない美酒や最上の食べものがあたえられるという。『クルアーン』にはさらに、男性は天国で72人の処女(フーリー)と交わることができ、彼女たちは何回性交におよんでも処女のままである、と記している。この「処女」の表現は、比喩的なものにすぎないという意見も多く、あるいはまた、実際は「処女」ではなく「白い果実」という意味であるという説もあるが、過激派組織が自爆テロの人員を募集する際に、年少の者などに対し、このような天国の描写を意図的に用いている場合が少なくないとされ、問題となっている」。

 対象国は世界60カ国であり、英語名のABC順に、アルジェリア、アゼルバイジャン、アルゼンチン、オーストラリア、バーレーン、アルメニア、ブラジル、ベラルーシ、チリ、中国、台湾、コロンビア、キプロス、エクアドル、エストニア、ジョージア、パレスチナ、ドイツ、ガーナ、香港、インド、イラク、日本、カザフスタン、ヨルダン、韓国、クウェート、キルギス、レバノン、リビア、マレーシア、メキシコ、モロッコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、パキスタン、ペルー、フィリピン、ポーランド、カタール、ルーマニア、ロシア、ルワンダ、シンガポール、スロベニア、南アフリカ、ジンバブエ、スペイン、スウェーデン、タイ、トリニダードトバゴ、チュニジア、トルコ、ウクライナ、エジプト、米国、ウルグアイ、ウズベキスタン、イエメンとなっている。

(2016年9月11日収録)


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