米国国務省では、毎年の報告書("Patterns of Global Terrorism")で国際テロに関する統計を公表していた。ここでは、その結果を図示した。この報告書を引き継いだ「Country Reports on Terrorism」による2005年以降のテロの犠牲者数の推移は図録9359参照。これらの報告書を掲載している米国国務省の該当ページも参照。

 定義に関しては、「テロ(terrorism)という用語は、国家規模でない集団、または秘密の工作員によって、通常、見聞きする人々に影響を与えるために行われる、非戦闘員に対する計画的な政治的な動機による暴力を意味する。国際テロ(international terrorism)という用語は、複数国の市民または領土にまたがるテロを意味する。」とされている。従って、国内で完結するテロは含まれない。例えばパレスチナ人同士のテロは含まれない(かつてはパレスティナは国でなかったので計上されていたが今は見直された)。また、「非戦闘員」の中には一般市民の他、武装していない軍人、職務中でない軍人も含むとされている。

 国際テロ事件の件数(英語では国際的攻撃数international attacks)は、1988年以降、500〜600件が200〜400件程度へと減少傾向で推移している。地域別には、最も多くの件数の地域が、1994年以前は西欧ないしラテンアメリカ、アジア、1995〜96年には西欧、1997〜2001年にはラテンアメリカ、そして最近の2002〜2003年にはアジアと変化している。近年は、ヨーロッパやラテンアメリカのテロ事件が減少し、総件数自体は少なくなっている中で、アジアのシェア拡大が目立っているといえよう。

 国際テロ事件による死傷者数については、件数の減少傾向にもかかわらず、大規模なテロ事件が相次ぎ、1995年以降、年によって、6千人以上の死傷者数を出しているのが目立っている。件数でなく、死傷者数のグラフを見ると、近年、国際テロの時代に突入しているのではないかという実感をもたざるを得ない。

 図においても特段に目立つ大規模なテロによる死傷者としては、以下をあげておく必要がある。

・1993年のニューヨークの世界貿易センタービル爆破事件。8人死亡、1000人以上負傷。
・1995年の日本の地下鉄サリン事件。12人死亡、数千人負傷。「世界初のテロリストによる大規模化学ガス攻撃」(報告書による)。国際テロにカウントされたのは欧米人6人も巻き添えになったためと考えられる。
・1998年のナイロビ(ケニア)米国大使館爆弾攻撃。291人死亡、5000人負傷。ほとんど同時にダルエルサラーム(タンザニア)の米国大使館も爆弾攻撃にあう。
・2001年の世界貿易センタービルと国防総省への同時テロ事件。3000人以上が死亡。直後、ブッシュ大統領、「テロとの戦い」を宣言。同年、アフガニスタンと、2003年、イラクとの戦いが起こり、なお、米国は戦時下にあるとされている。

 2004〜05年の統計が公表されていないが、結果が出ると、2001年の「テロとの戦い」宣言、2003年のイラク戦争以降、全世界的にテロが鎮圧ないし抑制できているか、明確となるであろう。

(後記)

 最後の段落のように思っていたら、期待は裏切られた。米国務省は2006年3月21日付けの「Country Reports on Terrorism(テロ事件国別報告)とPatterns of Global Terrorism(国際テロ事件の諸パターン報告)の背景説明」なる文書で、テロ事件統計をPatterns of Global Terrorismに代えてCountry Reports on Terrorisumで公表し、論議の的だった統計上の定義も変更すると発表した。

 そして、かつての統計に代わるものとして公表された2004年実績の”Country Reports on Terrorism”によれば、世界中のテロ事件は11,111件、テロ事件犠牲者は74,087人(被誘拐者を含む)、うち死傷者39,307人(死者数14,602人)とされた。地域別は公表されていないようだ。

 以前のデータと比較すると一目瞭然、統計ベースが異なる。意図したものかどうかは憶測するしかないが、これで、「テロとの戦い」の目的であるテロの抑制・鎮圧に関する戦績は万民の目から隠されることとなった。

(2006年3月24日収録、5月3日後書追加、2015年2月2日現ページリンク更新)


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