韓国政治における地域性については国会議員選挙を例にとりあげ図録8860に示したが、ここでは、最近行われた大統領選挙の地域別得票率の結果をかかげた。

(2022年大統領選挙)

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻のさなかだったため、余り注目されなかったが、2022年3月9日に韓国大統領選が行われた。以下に各候補の地域別得票率に関する毎日新聞の記事(2022.3.10)を引用する

「9日に投開票された韓国大統領選挙は開票の結果、保守系の最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長(61)が、進歩系の与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)を破り、当選した。

 大接戦となった韓国大統領選の地域別得票率を分析すると、尹氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領と文氏が政治的な地盤とする釜山で過半数を得票したうえで、保守の牙城である慶尚道地域を固めたことが勝因につながった。一方、李氏は進歩系有権者が多いソウルで伸び悩み、地元の京畿道ではかろうじて半数を確保したものの票差を付けられず、接戦を制するうえでは必須の首都圏で勢いを欠いた。

 尹氏は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の地元である大邱で75.1%で圧勝。釜山でも約20ポイント差をつけ、進歩系地盤を切り崩した。一方、金大中(キム・デジュン)元大統領の地盤である全羅道地域では、尹氏は1割程度しか票を得られなかった。民主化を求めた市民らに軍が発砲するなどして多数の犠牲者を出した「光州事件」(1980年)があった光州市は、軍事政権にルーツのある保守に対する抵抗が根強く、李氏が8割を超えた。

 地域によって保革の色彩が鮮明に出る地域主義は、首都圏への一極集中が進む中で弱まる傾向にあった。しかし、今回は慶尚道は保守、全羅道は進歩という構図はそのまま残った」。

(2017年大統領選挙)

 親友や財閥がからんだ一連の国政介入事件で朴槿恵(パククネ)前大統領が罷免されたのを受けて2017年5月に実施された韓国大統領選挙では、革新系の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏(64)が、保守系「自由韓国党」の洪準杓(ホンジュンピョ)氏(62)、中道系の第2野党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)氏(55)を抑え、当選を決めた。

 従来の大統領選では、図にも示したとおり、全羅道地域で革新系候補が8割、慶尚道で保守系候補が7割の支持を得るといった地域対立が目立っていたが。今回は、革新系候補が全羅道地域(光州市を含む)で6割前後、保守系候補が慶尚道でせいぜい5割弱の支持へと地域性の要素が、前回選挙以上に、弱まった。もっとも、全羅道における保守系候補の支持は数%と極端に低い点は変っておらず、光州事件などによる因縁の強さをうかがわせている。

 地域対立に代わって、前回以上に、世代対立の側面が大きく浮上した(下図参照)。経済不信と就職難に若者層が不満を募らせ、朴前大統領の辞任を求めるデモの中心を担った勢いに中高年保守層の巻き返しが及ばなかったことが今回の大統領選の結果につながったといえる。


(2012年大統領選挙)

 2012年12月の韓国大統領選挙は、大接戦の末、保守党である与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏(60)が最大野党・民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏(59)を破り、当選を決めた。東アジアで最初の女性大統領で、60〜70年代にかけて政権を握った父、朴正熙(パクチョンヒ)元大統領に続き初の親子2代の大統領が誕生した。前回選挙で10年ぶりに復活した保守政権は維持された。

 得票分析では、地域特性より年齢特性の方に目が向けられた。すなわち若者が支持する文在寅候補と中高年以上が支持する朴槿恵候補との対比の中で、中高年保守層が文候補優勢の見方への危機感をバネに得票を重ねるうねりを起こしたのが朴槿恵氏当選の原動力だったとされた。私には、結局、若者の方が野党支持の積極性が弱かったからであるように思える。

 地域別得票率を見ると朴槿恵氏の得票率は、父朴正熙元大統領が地盤とした慶尚道地域で約7割と高いが、それ以外の地域でも、セヌリ党が引き継いだハンナラ党の李明博氏の前回の得票率が低かった忠清道地域や済州道地域で票を伸ばして5割を越えるなど比較的まんべんなく得票したといえる。例外として目立っているのが朴正熙大統領からはじまる軍事政権への抵抗の拠点であった全羅道地域であり、革新系の文在寅氏が前回の革新系候補よりも得票率を高めている(下図参照)。一般的な報道では、全羅道地域と慶尚道地域との対比から今回の大統領選も地域対決色が濃かったとされたが、データを見る限りは、全羅道を除いて平準化が進んでいるのではないかと思われる。なお、江原道地域では朴槿恵候補への票が増加したが、これは大統領選直前の北朝鮮による事実上の長距離弾道ミサイル発射実験の影響が安全保障問題に敏感な北部地域で大きかったとする見方もある。


(2007年大統領選挙)

 2007年12月の大統領選挙は、野党ハンナラ党の前ソウル市長、イミョンバク(李明博)候補(66)と与党ウリ党から再編された大統合民主新党の元統一相、チョンドンヨン(鄭東泳)候補(54)、および野党ハンナラ党から分離した保守派のイフェチャン(李会昌)候補(72)という3人の有力候補の間で行われたが、結果は、イミョンバク候補が他の2候補の合計を上回る半数近くの得票率で圧勝した。

 地域別の各候補の得票率を見ると、光州・全羅道でイミョンバク候補は9%と極端に低く、逆に大邱・慶尚北道では7割を越す大きな得票となっており、逆に全羅道出身のチョンドンヨン候補は光州・全羅道で80%の高い得票率となっている。このように国政選挙の地域性が大きいと見られるが、前3回の大統領選挙では全羅道での最多得票者の得票率は9割を越えていたので、これと比べると地域性は弱まったと捉える考え方もある。

 参考までに日本の衆議院選挙(2005年の郵政選挙)の比例代表選挙区における地域毎の党派別得票率を下に掲げたが、日本の場合、得票率の地域性はほとんどないといってよい。あるとすれば鈴木宗男率いる「新党大地」が含まれるため北海道で「その他」がやや多い点、公明党が西日本でやや強さを発揮、ぐらいである。

 なお韓国政治における地域性については、古い歴史的な地域性に淵源をもつという説の他、軍事政権による意図的な創出という説を図録8860で紹介したが、さらに、文官優位が歴史的に続いていた韓国において、非正統的な軍事政権では権力基盤を血縁や地縁、大学・士官学校同期にもとづく個人的なネットワークに依拠せざるを得ず、結果として政権を身内で固めざるをえなかったためという説もある(服部民夫「開発の経済社会学―韓国の経済発展と社会変容 」2005年)。その結果、特定の地域に経済優遇等が片寄り、逆に不利を蒙った地域が反体制派で固められるに至ったという訳である。軍事政権の全斗煥(チョンドファン)と盧泰愚(ノテウ)、両元大統領が訴追を受け、収監服姿で手をつないで前を向き2人で立っている写真(下掲)が有名であるが、こういう状況で男どうしが手をつないでいる姿にこうした説の妥当性を感じざるを得ない。



(2006年3月18日収録、2012年12月21日更新、2017年5月11日更新、2022年3月11日更新)


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