キューバの先住民(インディオ)がスペイン人による酷使やスペイン人や黒人奴隷がもたらした疫病によって絶滅したことはよく知られている。この結果、現在のキューバの民族構成は、南米大陸の諸国ではインディオあるいはインディオとの混血がかなりを占めるのと異なり、白人と黒人とその混血(ムラート)によって構成されている(図録8820参照)。

 ここでは、先住民が絶滅に至る人口推移をかかげた。ディエゴ・ベラスケスが征服と植民を開始する直前の1510年にはキューバ全土に約11万人の先住民が暮らしていたと言われる。それが、5年後の1515年には、4万7千人と半減以上、14年後の1524年には1万1千人と10分の1に減少してしまっている。

 絶滅理由としては、スペイン人による酷使とスペイン人がもたらした感染症がよく挙げられるが、その他に、餓死や自殺が多かったことが指摘されている。餓死は、強制徴発によって農地を耕せなくなり、しかもスペイン人から食料を奪われ、結果、食糧不足となって生じたものとされる。自殺も一貫して多かったようである。

 キューバ先住民の中では、征服と植民がはじまった東部地域に住んでいたスブ・タイーノ族とタイーノ族が16世紀半ばにはほぼ絶滅状態となり、全土に分布していたカーヨ・レロンド系シボネイ族は少数ながら17世紀まで生き延びたという。

 この結果、現在まで残る先住民の文化的影響は大きくない。しかし、キャッサバ食やハンモックはインディオ起源であり、キューバという名前も「中心地」を意味するタイーノ族の”Cubanacan”という言葉に由来する(Robin Moore 2010)。音楽でも、アンデス地方のフォルクローレとは異なり、カリブ海では、先住民インディオの音楽的影響は薄い。独特の音楽や踊りを伴うタイーノ族の宗教的儀式はアレイト(Areito)と呼ばれ、キューバの音楽レーベルの名前として馴染み深い。キューバ音楽などでよく使用されるマラカスという楽器は先住民由来だといわれるが確証はないようだ。

 以下にキューバ先住民の各部族の状況をかかげる。

キューバの先住民
各部族 スペイン語 生存
期間
人口
(1510年)
特徴
グアヤボ・ブランコ系シボネイ族 Ciboney - Aspecto Guayabo Blanco BC1000〜AD1000   これまでカーヨ・レロンド族とともにシボネイ、グアナアタベイとも呼ばれていたキューバ中部から西部に分布していた先住民、出自はフロリダ半島と南米の両説がある。海岸から5キロ以内の洞窟に居住。
カーヨ・レロンド系シボネイ族 Ciboney - Aspecto Cayo Redondo 1〜1600(?) 11,000人 南米出自のキューバ全土に分布していた先住民。石の剣、ボールの出土が特徴。「農耕と土器の不在」がシボネイの特徴。
マヤリー族 Mayari 800〜1100   シボネイ族とタイーノ族の中間的発展段階(素焼きの土器使用)。
スブ・タイーノ族 Sub - Taino 800〜1570(?) 91,000人 タイーノ族とともに「農耕と土器の存在」が特徴。ジャマイカ、バハマ等のアラワク族と同系統とみられている。円錐形家屋(カネイ)、方形家屋(ボイオ)、水上家屋(バラコア)などに居住。アレイート(areito)といわれる儀式舞踏が広場(batey)で定期的に行われ、セミー(cemi)という偶像を崇拝。
タイーノ族 Taino 1450〜1550(?) 10,000人 15世紀半ばに南米から到着。スペイン人の征服・植民のはじまった旧オリエンテ州の東部バラコア、グアンタナモ、マイシーに定住していたので絶滅はやし。
(注)1510年の人口はJuan Perez de la Riva, Desaparcion de la poblacion indigena cubana.による。
(資料)神代修「キューバ史研究」文理閣、2010年(キューバ)




(参考資料)
神代修「キューバ史研究―先住民社会から社会主義社会まで」文理閣、2010年
Robin Moore, Music in the Hispanic Caribbean: Experiencing Music, Expressing Culture, Oxford Univ Pr, 2010

(2010年11月25日収録)


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