最近数代大統領の就任以来の支持率の推移は図録8752参照。 初代ワシントン、第16代リンカーンおよび第32代フランクリン・ルーズベルトの3人の大統領は、誰が1位に成るかは別にして、様々なランキングでも常に上位に入っている。通常、これら3人の直ぐ下に来るのが、トーマス・ジェファーソンとセオドア・ルーズベルトである。 記憶に新しい大統領の評価については刻々変化していくと考えられる。2005年段階の調査による更新前の図録を下に掲げた。これと比べると、例えばクリントン大統領が22位から13位へと大きく順位を上昇させたのが目立っている。 最近では第44代オバマ大統領、第40代レーガン大統領については、それぞれ、8位、9位とかなり高い評価であるのが目立っている。レーガン大統領については、福祉を後退させた近年における保守派ムーブメントの旗手として国内でも批判の対象とする意見が強い点については図録1900参照。 映画評論家であるとともに、住んでいた関係から米国についてのコラムニストとしても活躍している町山智浩氏が、大方の評価が最悪のブッシュ大統領の末期に、評判の悪い米国大統領の歴史的ランキングについて紹介しているので引用しよう(「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」文藝春秋、2008年)。評判の悪い方の歴代米国大統領のイメージを得るためには格好の要約となっている。
「『USニュース』誌が歴史学者の意見を集めて「史上サイテー大統領ワースト10」を発表した。人気がないだけに日本ではなじみのない大統領も多い。10位のザカリー・テイラーなんてアメリカ人でも名前くらいしか知らないそうだ。 おなじみニクソンは9位。思ったより悪くないのは民主党が始めたベトナム戦争を収拾し、ソ連と軍縮したり中国と国交を結んだり業績のあるから。でも、ウォーターゲート事件で政府への信頼を失墜させた罪は大きい。 同率9位は31代のフーヴァー。世界大恐慌の時「景気は周期的に上下する」という説を信じて事態を放置した。彼の次代のF.D.ルーズベルトはニューディール政策で公共事業によって職を生み出し、恐慌を解決した。 8位のウィリアム・ハリスは就任式に張り切りすぎて、寒空の下2時間もの演説をして肺炎になり、大統領として何もしないまま1ヵ月後に死んだ。マヌケ。彼の後は副大統領のジョン・タイラーが継いだが、彼にはリーダーシップがなく、閣僚が全員辞任してしまったので、ワースト6に選ばれている。3位のアンドリュー・ジョンソンも暗殺されたリンカーンの副大統領から第17代大統領になったが議会を敵に回し、クリントンがモニカ・ルインスキー事件で追及されるまで史上唯一弾劾訴追された大統領だった。 ワースト7の第18代グラントは南北戦争の英雄だが、大統領としては閣僚の汚職に次ぐ汚職で機能しなかった。ハーディングは政治よりも酒と博打と女が大好きだった。就任中も病死した時も浮気に苦しめられたカミさんに毒を盛られたと噂された。「私は大統領に選ばれるべきじゃなかった」という迷言を残している。 ワースト5の13代フィルモア、4位の14代目ピアース、われにワースト1の15代ブキャナンはリンカーンの前3代の大統領。彼らは南部の奴隷制度に対して有効な手を打てないまま妥協し続け、南北戦争という最悪の結果を生んでしまった。 (中略)こうして歴史的に見ると、ブッシュというのはやはり凄い大統領だったとわかる。ハーディングのように大企業系の人脈を閣僚に据え、フーヴァーのように経済を放置して崩壊させ、ニクソンのように国民を盗聴し、史上最悪の大統領たちの資質を三つも兼ね備えているんだから!」 米国以外の国から見るとこうした大統領の評価もさることながら長い大統領選の期間の政治空白が気になる。この点に関して米国政治論の古典となっているトクヴィル(トックビル)の論評(1835年)を聞こう。 世襲の君主政では政権の引き継ぎに関して「国家の利害が放置されることは一時たりとも絶対に生じない。...ところが、選挙制の国家では選挙が近づくと、そのずっと前から、統治機構はいわばそれ自体で機能するほかなくなる。...選挙が近づくと、執行権の長は待ち構える選挙戦のことしか考えない。もはや彼に未来はない。何事も企てず、次の人は何を成し遂げるであろうかと無気力に探るだけである」。この図録を最初に掲載した2008年当時のブッシュ大統領を見ていると実にこうした叙述に真実性を感じられた。 「政府の長が選挙で選ばれるときには、そのために国家の内政、外交の不安定という欠陥がほとんどつねに生じる。これこそこの制度の主要な弊害の一つである」。「執行権が国務の運営に大きな位置を占めるほど、また、日常活動が重大にして必要であればあるほど、このような事態はより一層危険である。...合衆国では、執行権の活動が鈍っても不都合はない。その活動はもともと弱く、限られているからである」。「アメリカでは、大統領は国家の事務に十分大きな影響を及ぼすが、しかしこれを指図してはいない。圧倒的な力は国民の代表全体にある。...だからこそ、アメリカでは、執行権の長を選挙制にしても政治の安定をそれほど著しく害することがないのである」。「国のおかれた立場が難しく危うくなればなるほど、外交方針の継続性と一定性が必要になり、国家元首を選挙で選ぶことはより危険なものとなる。アメリカ人の世界全体に対する政策は単純極まりない。他の何人もアメリカ人を必要とせず、アメリカ人もまた何人をも必要としないと言ってもほとんどおかしくない。かれらの独立はおよそ脅威にさらされることがない」(トクヴィル「アメリカのデモクラシー」第1巻第1部第8章、岩波文庫)。 トクヴィルの著作が発刊された1835年の米国はそうだったかもしれない。内政は今でもそうかもしれない。世界にとって米国の外交は19世紀の重要度とは比べようがない。その後ペリーが日本に開国を要求し、ドルが世界通貨となり、第2次世界大戦で大きな役割を積極的に果たし、冷戦を通過した米国は19世紀半ばの米国とは全く異なる。にもかかわらず米国は従来の伝統に基づいて予備選挙、本選挙と複数年に渡り長々と大統領選を続けているがその間世界のリーダーシップはペンディングになっている。ブッシュ大統領に何を言っても空しい訳だから、原油高、穀物高騰への対策に米国の外交力を期待できないのだ。米国人は世界のために自国の制度を改善しようなどとは考えないようだ。
(2008年7月14日収録、2016年12月14日町山氏引用、2024年1月12日更新)
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