途上国開発の金融面の国際機関である世界銀行(世銀、World Bank)は世界各国相互の送金額(remittance)を推計している。ここでは、その中で送金額が大きい順にランキング図を掲載した。
送金額1位は米国からメキシコへの送金、2位はUAEからインドへの送金、3位は米国からインドへの送金となっている。
送金額が多い国と国との関係としてはいくつかのパターンが認められる。送金元の国における送金先の国からの移民の多さが基礎となっている。貿易や資本取引の決済額は含まれないが、個人送金を装う地下経済は含まれているかもしれない。
- @ 米国からラテンアメリカ諸国への送金
- 国境を接するメキシコへが抜群に多く、グアテマラなど中米・カリブ海諸国への送金がこれに次いでいる。ブラジルなど南米諸国は25位以内に顔を出さない。麻薬取引にかかわる送金がどれだけ含まれているかは分からないが、ネットフリックス・ドラマのナルコスを見る限り、メキシコ以外の中南米の麻薬でもいったんメキシコの国境沿いの地域を経由して米国に入るケースが多いようなので、米国からメキシコへの送金額が特別多い点には麻薬やそれ以外のそんなルートの存在も連想される。
- A 米国からアジア諸国への送金
- インドへが最も多く、米国が旧宗主国だったフィリピン、および移民人数が多い中国への送金がこれに次いでいる。ベトナムへの送金も多い。
- B 中東産油国から南アジア諸国への送金
- インドを中心にパキスタンを含む南アジアへの送金、そしてサウジアラビアよりUAE(アラブ首長国連邦)からの送金が目立っており、UAEが南アジアの金融センターとなっていることがうかがわれる(下記エコノミスト誌記事参照)。
- C ロシアから旧ソ連諸国への送金
- ロシアに出稼ぎで来ているウクライナ人やウズベキスタン人からの送金が主であろう。
- D 日本、韓国の送金
- 日本がかかわる送金額で最も多いのは日本から中国への送金であるがこのランキングでは35位と余り高くない(日本発着の送金額については図録8084参照)。韓国から中国への送金や米国から韓国への送金額の方が大きい。経済規模からすると韓国は米中との人的交流のレベルが日本よりずっと大きいといえる。
- E その他の送金
- 香港から中国への送金には香港で働く出稼ぎ中国人からの送金がメインだろうが、水面下の商取引の送金も含まれているかもしれない。フランスからベルギーへの送金はフランスで働くベルギー人の送金だろう。中東諸国へのエジプトからの送金、インドへのバングラデシュからの送金も似た性格のものだろう。
英国エコノミスト誌はこの図録と同じデータを掲げ、UAEとインドの関わりを記事にしている(The Economist April 29th 2023)。UAE(アラブ首長国連邦)からインドへの送金が2番目に多い背景には、UEAにおけるインド実業界の巨大で成長を続けるネットワークが存在している。
「ドバイに暮らすということはインド産業で一定の役割を担うということである。地元の商工会議所の報告書によると2022年には過去最多の11,000社のインド人所有の会社が新たに加わり、総計83,000社となっている。2か国間の商工業のつながりはますます緊密になりつつある。
こうした会社の背景には巨大な移民群が存在している。すなわち、120万人の首長国連邦人に対してUAEには350万人のインド人が暮らしている。これら国外移住者は合わせて母国に200億ドルを送金しており、各国間送金額でこの額の越えているのは米国からメキシコへの送金額だけである。ムンバイでは、アブダビやドバイはいまや最も清潔なインド都市であると冗談を飛ばす者が多い。UAE にとってインドは食料、宝石、宝飾品、皮革、人材、医薬品、そして投資機会の供給源である。インドにとってUAEは決定的な資金源であるとともに、インド人産業家が、母国におけるお役所仕事の病弊、どうしようもない交通環境、立ち往生する空港の入国管理の行列、そして懲罰的な税制を脱して、グローバル市場に効率的に接続できる唯一の場所にますますなってきている」。
巨大な経済圏のダイナミズムが混とんとした行政や税制を含む腐食性の諸規則によって台無しになることから逃がす導管を提供する都市国家という点で、インドとUAE都市との関係は東南アジアとシンガポールとの関係に等しいとされる。中国本土と香港との関係にも似た性格があろう(図録
8580参照)。