ここでの海外労働からの収入額(送金額)には、国際収支上の移転額である「労働者送金」の他に、季節労働などによる海外での「雇用者報酬」などを含む。宝石を現物で持ち帰ったり、申告しない送金など、公式統計にあらわれない額が半分以上あるとも言われるので図中の数字は過小である可能性が大きい。また海外労働にはいわゆる出稼ぎのほか、出稼ぎから移行した定住労働も含んでいる。 途上国の第4位、第5位はフィリピン、バングラデシュであるが、国内のGDP対比は1割を超えており、この2カ国では海外労働からの収入がもつ経済的重要性は非常に高くなっていることがうかがえる(この2カ国および世界・途上国・先進国合計の海外労働からの収入の推移については図録8100参照)。 途上国の第6位以下の国はナイジェリア、ポーランド、パキスタン、レバノン、エジプト、ベトナム、インドネシア、モロッコ、セルビア、ロシア、ウクライナという順になっている。また主要先進国では、フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、英国、米国、イタリア、韓国、日本という順になっている。 このうちレバノンは対GDP比が2割近く、グアテマラ、スリランカは10.3、8.4%と海外労働からの収入の重要性がフィリピンやバングラデシュと並んで極めて高い国である。 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏の両親はレバノン人で、ブラジルで誕生。幼少期をブラジルで過ごし、中等教育は父の母国であるレバノンのベイルートで受けたという。ゴーン氏がレバノンの親族に送金するとすれば、この数字に含まれることになる。 主要先進国では、フランス、ドイツ、スペインなどが海外からの収入額が多い国である。西欧諸国相互の労働移動がかなりあるためと思われる。日本の海外からの収入額は小さい。対GDP比ではベルギーが最も大きく、韓国、スペイン、フランスと続いている。 ベルギーではGDPの2.2%が海外労働からの収入額である。アガサ・クリスティ作の名探偵ポアロ(ポワロ)はベルギー南部のフランス語圏(ワロン地方)出身。ベルギーで警察官として活躍し、署長にまで出世した後、退職。第一次世界大戦中、ドイツ軍の侵攻によりイギリスに亡命し、探偵業を開始したという設定である。ポアロがベルギーに仕送りしていたかどうかは分からないが、ベルギー人は古くから隣接国で働いている場合が多いのであろう。 以上のデータではどの国からどの国への送金額が多いかは分からない。送金ルートのトップテンのデータが英エコノミスト誌に掲載されていたので以下に掲げる。 ルート別では、米国からメキシコが222億ドルで最大である。ただし、メキシコからグアテマラ、ホンジュラスなどへの再送金もかなりあると見なされている(英エコノミスト誌2012年4月28日)。 インドへの送金のうち最大なのはUAEからのものであり、これに米国、サウジアラビア、英国からの送金が続いている。産油国からインドへの送金が大きいことがうかがえる。 中国への送金をみると、香港からがもっとも多く、米国、日本からが続いている。 次に、送金額の規模ではなく、送金受取国の経済規模に占める送金額の割合の大きさのトップテンを見ると、ロシアからタジキスタンへの送金がタジキスタンのGDPの21.6%を占めているのが最大である。この他、南アからレソト、ロシアからキルギス、米国からハイチなどへの送金額の受取額GDPに占める割合が高くなっている。 (2010年12月27日収録、2012年5月7日更新・ルートtop10掲載、2019年4月26日カルロス・ゴーン氏)
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