アジア人の朝食・夕食のスタイルについては、図録8037で紹介したが、ここでは、図録8037と同じアジア意識調査(2003〜04年、2006年)を元に調査の対象となった18か国を総て取り上げて、外食(レストラン及び屋台)にしぼって、どの国が多いかを図録にした。

 朝食と夕食の違いを見ると、レストランでの食事は総じて夕食に行うことの方が多くなっており、一方、屋台での食事は、全体的に夕食より朝食の方が多くなっている。

 香港はレストラン、シンガポールは屋台の割合が朝食・夕食ともにトップであり、外食が多い国・地域として目立っているが、両方とも都市国家的な性格が強いからだともいえる。その他の国でも首都だけを取り出して調べてみれば、それぞれの国全体より外食比率は高いであろう。

 レストランでの普段の食事が多い国は、朝食では香港、ベトナム、夕食では香港、韓国が上位2位である。日本は夕食が中国に次ぐ第4位となっている。香港はどちらもトップの料理店食大国である。

 香港人のレストラン外食の割合が高いのは狭小な住宅事情も要因として働いているだろう。王家衛ウォン・カーウァイ監督の香港映画「花様年華」(2000年)は1960年代の香港を舞台に民間賃貸住宅の隣同士に住む夫婦について、それぞれが配偶者の浮気で悩む男女どうしのやるせない恋愛感情をモダンで技巧的な映像美で描いた作品であるが、出張で旦那不在ゆえの自分ひとりの食事のため、キレイなチャイナドレスを美しく着こなした張曼玉マギー・チャンが手提げの密閉瓶を持って料理屋に中華麺入りスープを買出しに行く何回も繰り返されるスローモーション・シーンや、少し懇意になった二人が欧米ではありえないような狭い席のレストランで間近に顔を突き合わせながらナイフ・フォークでステーキを食する場面が印象的であった。香港人にとって外食店が毎日の生活に密着した存在となっている様子がうかがわれて興味深かった。ロケ地となった洋食レストラン「金雀餐廳」を訪れた日本人の報告記には「映画「花様年華」と「2046」を見てから来ると、実際のチープな店内の雰囲気が、いかに王家衛監督の手によって、おしゃれでスタイリッシュな雰囲気してしまう映像マジックを感じることが出来、楽しみ倍増です」と書かれている(ここ)。

 香港人の属性別のレストラン外食比率を調べると、年齢別には、朝食では中年層の比率が高く、夕食では若い世代ほど比率が高くなっており、30歳代から40歳代にかけて比率が逆転していることが分かる。朝食のレストラン外食は伝統的なスタイル、夕食のレストラン外食は先進国にならった新しいスタイルであることがうかがわれる。配偶関係別にも朝食では未婚より既婚、夕食では既婚より未婚の方が割合が高く、両方のレストランの性格の違いがうかがわれる。世帯収入別に見ると高所得者では夕食のレストラン外食が朝食のレストラン外食を大きく上回っている。朝食用のレストランと夕食用のレストランはグレードがかなり異なる別種の店なのではなかろうか(参考までに香港の調査票では、レストランは「餐廳」、屋台は「街邊小食攤档或類似的地方」と表記されている)。


 日本については、レストランでの夕食は第4位と多いが、その他、レストランでの朝食、屋台での朝食・夕食はいずれも非常に少ない結果となっている。韓国についても、同様の特徴が認められる。日本と韓国は基本的には家庭食志向といえよう。

 屋台での普段の食事は、シンガポールが朝食、夕食ともにトップとなっており、屋台大国といえる。一般に、屋台での食事は夕食より朝食で多い傾向の中で、シンガポールの場合は、夕食も46%と朝食の49%並みに多くが回答しており、屋台食に非常に馴染んでいるのが目立っている。

 英エコノミスト誌はシンガポールの屋台について、家賃優遇などが古くからの料理人だけなのと料理の安すぎる値段で後継者不足に陥っており、結果として、それが伝える食文化も消滅の危機にあるという記事で以下のようにシンガポールの屋台食を紹介している(The Economist October 31th 2020)。

「自国の偉大さへのモニュメントとして宮殿・寺院を建設する国があるが、シンガポールでは同じ理由で屋台村「ホーカーズ」(hawker centres、直訳すると露天商センター)を多く作っている。こうした屋台や強化合成樹脂のテーブルが立ち並んだ野外のフードコートではシンガポールの歴史を味わうことができる。皿やバナナの葉っぱに無造作に盛られたり、蒸してプラスチックの椀によそわれたロティ・プラタやシンガポール・ラクサといった料理は、インド系や中華系の移民がゆっくりと何世紀ににもわたって自らの固有の料理を地元マレー系の料理と混交させてきた歴史を魔法のように現出させているのである。そして、屋台村では1杯のフラットホワイト・コーヒー程度の値段で食べたいだけ食べられるので、シンガポール人の10人中8人が少なくとも週に1回はそうしたところに行っているのも驚くに値しない(2018年に国立環境局が行った調査による)。シンガポールはそのストリート・フードに大きな誇りを抱いており、UNESOのhumanity's most precious artsのカタログへの登録を望んでいるほどである」。


 ここでふれられているようなシンガポール料理の由来については図録8035の「コラム2」を参照。

 このほか、カンボジア、台湾、マレーシア、ミャンマー、ベトナムで屋台の朝食が多く、屋台の夕食も台湾、カンボジア、タイ、マレーシアなどでかなりある。台湾、カンボジアはシンガポールと並ぶ屋台大国といえる。

 なお、これらの国でも首都や大都市においては屋台食がもっと多いと考えられる。シンガポールは都市国家なので他国より屋台食比率が高くなっているとも考えられる。

 次に、外食の多い国について、所得階層別の状況を図示する(香港については上の図参照)。


 レストランの外食については、朝食にせよ、夕食にせよ、おおむね、所得階層の高い人ほど多くなっている。やはりレストラン外食はコストがかかるということなのだろう。ただし、インド(朝食)では、逆に、所得階層の低い人ほどレストラン外食が多い。レストランといっても場末のカレー店のようなものが目に浮かぶ。韓国(夕食)も所得階層には余り関わりないようだ。

 私がマレーシアのクワンタンという地方都市で現地のNGOの青年(中国人)に連れていってもらった下層インド人向けのカレー店で体験したのは、客の前に出された金属製の皿にのせたゴワゴワしたライスに店のおばさんがアルマイトの大きなやかんに入れた薄いカレー汁を上からチャーと掛けてくれるだけのカレーであり、肉類などの具はそれぞれ別料金のトッピング・システムであり、入り口近くに多少置いてあることはあったが余り追加して食べられてはいないようだった。

 屋台の外食は、国によって、様々である。屋台外食が朝食、夕食ともに多いシンガポールでは、所得階層による差は余り大きくないが、朝食、外食いずれも低所得層ほど屋台外食が多くなっている。マレーシア、タイでは夕食も屋台外食が結構多いが、低所得層より高所得層で多く、レストラン外食と似たパターンになっている。中国、ベトナムでは朝食の屋台食が多いが、中国では中所得層で少なく、ベトナムでは中所得層で多い。

 なお、以上全体に関し、レストランや屋台が多いのは都市部であるから、都市部と農村部の所得格差によって高所得層で外食が多くなっている側面もあろうかと思われる。

 複数年で同じ設問の調査が行われている国について値を比較してみるとかなりブレが大きい。ここでは、新しい年次の値を採用しているが、全体にそうロバストな(毎回同じ結果を繰り返す)調査結果ではないことを頭に入れて回答結果を解釈する必要がある。また、変化の激しいアジアの国々なので時系列変化も無視できないことを考慮に入れておく必要がある。たとえば、中国の朝食で屋台が2004年には46.1%だったのが2006年には17.8%に低下したのは、別調査によるブレの要素と時系列変化の要素が混交していると考えられる。

(2013年6月8日収録、2014年7月24日2006年結果が得られる国追加・更新、香港人のレストラン外食グラフ追加、2016年4月27日香港について映画「花様年華」コメント、配偶関係別データを付加、2020年12月19日エコノミスト誌によるシンガポールの屋台文化紹介、2022年8月8日シンガポール・ラクサ画像、成城石井の弁当が人気)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(海外)
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)