最初に野菜の類別ごとに品目別の野菜の好み、次に、類別にくくった野菜の好みを探っていこう。 まず、上に、家計調査で集計されている生鮮野菜の年間支出金額について、葉茎菜類、根菜類といった類別ごとに主要品目の金額の県庁所在市ランキングを調べ、各市で最も高いランキングになっている野菜を選び出し、それぞれの県庁所在市で県が代表されると仮定して、その野菜を好んでいる地域として色分けした。 図には各品目の支出金額ランキング7位までの地域名を記した表を付加し、特にその品目野菜を好んでいるのがどこかが分かるようにしている。 いも類は根菜類にくくられる場合が多いが、ここでは独立させた。 結論的には、東京圏は「ねぎ、トマト、じゃがいも」、京阪神は「はくさい、なす、さつまいも」、中央高地は「ほうれんそう、きゅうり、さといも」といったように野菜の好みの地域性が認められる。
野菜の類別ごとに野菜の好みの地域分布を以下に見ていこう。 (葉菜類) 葉菜類として取り上げた品目のうち、ねぎがもっとも古い奈良時代以前からの来歴を有しているのに対して、それ以外はキャベツを先頭にすべて明治、大正時代以降に普及した野菜である。はくさいは煮物、鍋物、漬物として米食に欠かすことのできない役割を果たしているので在来野菜に見えるが意外にも明治後期に中国から導入され大正時代に産地化した比較的新しい野菜である。 九条ネギに代表される葉ねぎは主に西日本で栽培され、千住ねぎに代表される根深ねぎは東日本で土寄せして栽培され、中京地区ではその中間の越津ネギが栽培されているが、ねぎ好きの地域は関東から中京圏まで連坦している(静岡はキャベツとねぎはともに支出額全国1位であり、表の順でキャベツに色分けされているがねぎ好き地域と言ってもよい)。この地域は日本の中で生産量も多い地域である(図録0422参照)。 一方、ねぎ好き地域の北側はほうれんそう好きの地域が多く、関西地方ははくさい好き、九州はキャベツ好きの地域となっている。関西地方のはくさい好きは、日本にはくさいが伝来する前から、「しろ菜」、「天満菜」と呼ばれるはくさいに似た野菜が関西で食べられていたからという説や関西人は鍋好きだからという説などがあるが、はくさい好きの地域は、パン好き、牛肉好きと重なっており、単純に関西人は舶来もの好きだからとも考えられる。 (果菜類) インド原産のなすは奈良時代以前に日本に渡来した野菜でARI、古くから全国に普及した。このため、ねぎと同じように、地方品種が多く、長なす(九州、東北)、丸なす(北陸、東北南部)、卵型小型なす(関東)、中長なす(関西)と現在でも野菜の中では地方色が濃く残っている。 中国から平安時代以前に渡来したきゅうりも古い野菜であるが、盛んに用いられるようになったのは明治・大正以降であり、特に戦後食生活の洋風化にともなってサラダ野菜として不可欠のものとなった。南米アンデス原産のトマトも戦後にビタミンを多く含む重要な保健食品として大きく躍進した英語名野菜である。 3大都市圏や北陸・西南暖地ではマトが好まれており、東北・北関東・中央高地はきゅうり好み地域となっている。大都市圏の中でも歴史の古い関西はなす・トマトの併存地域である点に古代野菜なすの面目がうかがわれる。 (根菜類) 根菜類のなかで、だいこんは最も古くから日本の風土に根づいており、守口大根、練馬大根、三浦大根、聖護院大根といった地方品種が分化成立している。にんじんは江戸初期に東洋系、江戸後期や明治に洋種系が渡来・普及し、たまねぎは明治・大正以降に導入された。 根菜類への好みについては「東日本はだいこん、西日本はたまねぎ、ただし沿海部を縁取るようににんじん」という地域傾向が認められるが、それは、古来よりだいこんが全国に広がっているところに、江戸期以降に北前船ルートでにんじんが普及、さらに、西洋野菜だったたまねぎが明治新政府の導入策の下で、まず、北海道とともに泉南地域において産地化し、さらに淡路島がそれを見習って戦前に主産地となったという経緯を受けて主として西日本に消費がひろがったためであろう。たまねぎは関西・西日本と並行して洋食化が進んだ関東にも波及したことも神奈川、千葉で消費額が多いことからうかがわれる。 (いも類) さといもは東南アジア原産で、日本には稲作の伝わる以前に渡来し、広がったため、年中行事にさといもを用いる慣習は全国各地に残っている。 さつまいもは、琉球、薩摩を経て救荒作物として江戸期に日本各地に導入された。関東地方では青木昆陽が昆陽神社(千葉)にまつられているが、石見(島根)ではイモ代官、薩摩(鹿児島)ではイモ翁、山城(京都)ではイモ宗匠、瀬戸内(愛媛など)ではイモ地蔵などと、庶民を飢えから救うためさつまいもの導入と普及に努めた人たちが尊崇を受けて語り継がれている。さつまいも好きエリアはこうした地域とかなり重なっている。 北海道がじゃがいもの一大産地であるにもかかわらずさつまいも好きエリアとなっている。北海道のいも類支出額順位はさつまいもが8位、じゃがいもが28位、さといもが46位となっており、「じゃがいも」産地としてのイメージにもかかわらず、好みでは、むしろ、さつまいもが優位に立っている。これは、北東北と並んで凶作に強い救荒作物としての側面が評価されているからであろうが、温暖化の影響で「紅はるか」などのサツマイモの北限が広がり、寒冷地用の品種も出てきて、北海道でもさつまいもが作られるようになった影響もあろう。 じゃがいももさつまいもと同様、江戸期にやはり救荒作物として日本に導入されたが、当初、有毒説により導入が遅れた地域もあって、好きな地域の分布にはばらつきが認められる。 (キノコ類) 最後に、八百屋で売られているので生鮮野菜に区分されているキノコ類について見てみよう。しいたけだけ「生」がついているのは乾物の「干しいたけ」(上位3県は鹿児島、静岡、沖縄)が別の品目として存在しているからである。 日本のしいたけは、ヨーロッパのマッシュルーム、中国、タイなどのフクロタケと並ぶ世界3大栽培キノコとされている。マッシュルームは麦わら、フクロタケは稲わらで栽培されるのに対してしいたけは木材(ほだ木、おがくず・菌床)で栽培され、それぞれ牧畜圏、稲作圏、林業圏に対応している。日本のしいたけ以外のキノコ栽培はしいたけの栽培技術を応用したものである。 下図に示したように、地域分布としては、富山から関西地方にかけてと関東南部と北海道・青森で「しいたけ」、愛知、関東北部と東北で「他のキノコ」(なめこ、マイタケ、エリンギなど種々のキノコ)、その他の地域で「しめじ」、「えのきだけ」を好む地域が分散分布している。野菜類と異なり、食料として普及した時期に大きな違いはないため、それによって分布特性を理解することは難しい。 野菜品目ごとの記述は以下の資料を参照した。 次に、類別野菜ごとの好みの地域分布を見てみよう。
いも類は根菜類の一部であるが、ここではいも類として独立させ、残りを根菜類として集計した結果を用いた。 好きな野菜(類別)の地域分布パターンを見ると、大きくは、東日本ではキャベツ、ほうれんそうなどの「葉茎菜類」やきゅうり、なす、トマトなどの「果菜類」を好み、西日本ではにんじん、たまねぎなどの「根菜類」やさつまいも、さといもなどの「いも類」を好んでいる。 ただし、根菜類はだいこんを含め、東日本の中の長野、福島でも好まれており、いも類はじゃがいもを含め、日本海側は北陸や新潟まで、太平洋側では愛知、静岡まで好きな地域が広がっている。 葉茎菜類は、東日本の中でも北日本で特に好まれているが、そのほか、東京や北日本の飛び地とでもいうべき鳥取、そして列島最南端の沖縄でも好まれている。 東日本、なかでも東京圏はそもそも野菜好きな地域である。図録7708で見たように、生鮮野菜の消費支出額の全国1位は神奈川、2〜4位は東京、新潟、千葉となっているのである(埼玉も8位)。 神奈川は、全国2位、根菜類と果菜類で全国1位、葉茎菜類で全国2位、そしていも類でも全国5位とすべての類別野菜でバランスよく消費額トップランクの位置にある。これに対して東京は特に葉茎菜類で全国1位と目立っている。これはねぎ、レタスなどを含めて葉茎菜類全般で消費が多いためである。また東京を除く関東地方では果菜類を特に好んでいる。このように東京圏の野菜好きは多彩な好みを反映している。 東の東京圏と並ぶ西の人口集積地帯である京阪神地域では、たまねぎ、れんこんなど根菜類を特に好んでいる。一方、京阪神より西の西日本ではいも類を好む傾向が顕著である。 (2023年5月30日収録、6月1日参照資料名、6月4日関西はくさい好き説、2024年10月20日北海道のさつまいも)
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