ねぎは日本人の好きな野菜ランキングで第4位であり(特に男性が好き。図録0334参照)、日本人の食卓に欠かせない野菜である。ねぎの都道府県別売上げ(産出額)をグラフにした。ねぎの産出額が最も多い県は、深谷ねぎが名高い埼玉、第2位は千葉、第3位は茨城となっており、消費量が多い関東が中心である。

 野菜産地がどれだけ集中あるいは分散しているかを見るため、生産農業所得統計(2008年)で野菜品目毎の変動係数(都道府県別の産出額の標準偏差/平均値)を計算してみると、主要19品目のうち、低い方からトマト、なすに続いて、3番目に分散度が高くなっている。すなわち全国どこでもつくっている野菜である。産地のバラツキ度が最も高い(変動係数が最も高い)野菜は同じネギの仲間であるタマネギである。タマネギは、野菜としては貯蔵性のきくものであり、西洋野菜として戦前に泉州、淡路にいち早く導入され、戦後になって北海道の産地を中心に生産を急増させたのに対して、ネギは生鮮度が高く、また奈良・平安の時代から日本人の食生活に根づいたいた野菜という違いによるものと考えられる。

 2010年11月にねぎの生産量全国一位の深谷市で産業祭のイベントの1つとして、以下の産地を集めて全国ねぎサミットが開催された。

ねぎ産地(全国ねぎサミット参加産地のみ−ねぎの画像は図中)
品目 地域 キャッチフレーズ(特徴)
平田赤ねぎ 山形県酒田市 魅力あふれる伝統野菜(全国で唯一根元から枝分かれしない一本ねぎの赤ねぎ)
阿久津曲がりねぎ 福島県郡山市 曲がっているねぎにうまさの秘訣がある(夏場にネギを掘り起こし斜めに植え替える「やとい」作業を行うので曲がる)
板東ねぎ 茨城県板東市 将門の郷板東ねぎ
下仁田ねぎ 群馬県下仁田町 殿様御用達本場下仁田葱
岩槻ねぎ 埼玉県さいたま市 まぼろしのねぎ(関東ではめずらしい青ねぎ)
越谷ねぎ 埼玉県越谷市 高級料亭が認める一本ねぎの横綱
深谷ねぎ 埼玉県深谷市 ちょっとちがう贅沢な味
矢切ねぎ/
あじさいねぎ
千葉県松戸市 140年の歴史を誇る松戸のねぎ
やわ肌ねぎ 新潟県新潟市 雪のような白さと、みずみずしい甘さ
九条ねぎ 京都府京都市 凍てつく寒さで旨み増す京の伝統野菜(葉ねぎ)
(注)全国ねぎサミット(深谷市、2010年11月)に参加した10産地(深谷市パンフより)

 このイベントを紹介した東京新聞(2010年11月18日埼玉中央版)ではこう報じられている。

 「地元の深谷ねぎをはじめ、8都県の10産地の関係者が集い、来場者に試食してもらいPRする。市場ではライバル関係の産地同士だが、価格の安い中国産ネギの輸入が増える中、連携して消費者に国内産ネギの奥深さを知ってもらい、ブランド化を目指したい思いもある。(中略)深谷市の深谷ねぎは年間生産量が2万7790トン(2006年農林水産省調査)で全国一を誇るが、出荷先は東京を中心とした関東がほとんど。関西以西は深谷ねぎのような白ネギより、緑の葉を食べる青ネギが好まれ、なかなか全国区でおいしさを分かってもらえないという。関西や他の地方のネギにとっても事情は同じ。さらに、最近は中国産の価格の安いネギの輸入が増えており、ブランド力をつけて差別を図ることが国産ネギ共通の課題だ。深谷市の小島進む市長は、「TPP(環太平洋連携協定)への参加もいわれている。国内での競争は激しくなるだろうが、サミットを契機に知名度を高め、将来、中国へ高級野菜として輸出できる環境づくりにもつなげたい」と話す」。

この他の産地ねぎ
千住ねぎ 土寄せして軟白させるので白い部分が長いが、葉肉は堅い。根深ねぎ(長ねぎ、白ねぎ)の代表。
越津ねぎ 愛知県津島市越津が発祥。軟白用栽培に適し、白根をとくに長くすることができる。葉部も柔らかで葉ねぎとしても利用される。
博多万能ねぎ 九条細系のねぎを若どりした葉ねぎ。ビニールハウスの中で季節によって品種を変えて栽培し、年間を通じて出荷。薬味や汁ものに向く。形がくずれないよう特別の容器で出荷。
ヤグラネギ(楼葱) 北陸から東北地方で葉ネギとして栽培される。

ネギの仲間
わけぎ ねぎとたまねぎの雑種で関西以西で栽培される。ねぎと違って種をつくらず、地下の球(鱗茎)で増える。
あさつき 独立した種類で、わけぎよりさらに細い。辛みの強いのが特徴。
*ただし関東の市場では葉ねぎの仲間の分けねぎを”わけぎ”、若どりの葉ねぎを”あさつき”、
 さらに若い若芽を”芽ねぎ”とよんでいる。 
リーキ にんにくやにらのように葉が平ら。ねぎとは別種。刺激臭は弱い。根もとの白い部分を食べる。加熱するとねっとりとして甘みがでる。


ネギとは
 タマネギとともに硫化アリル(揮発性の硫黄化合物)を含み、独特のくさみと辛味がある。硫黄を含むため野菜としては珍しく弱酸性の食品。

 昔から、関東では主に白い部分(葉鞘)を食べる根深ねぎが栽培され、関西では緑の葉の先端部まで食べられる柔らかい葉ねぎが栽培されていた。「関東は白、関西は緑」を食べるといった食文化ができあがっていたのである。近年は、人の移動や輸送方法の発達によって、東西自慢のねぎを、料理にあわせて使い分けるようになった。

 東日本には古くから”加賀ねぎ””千住ねぎ”など、代表的な根深ねぎの品種群がある。味自慢のブランドねぎの横綱格は”下仁田ねぎ”。徳川幕府に献上して天下一とほめられ、殿様ねぎとも。葉ねぎの代表品種は、京都が発祥の”九条ねぎ”。

 もともとは冬野菜だが、冬ネギと夏ネギがあり全国的に周年栽培される。出荷のいちばん多い月と少ない月の比率が3対2の割合。発芽後間もないネギは芽ネギとして出荷される。

 「東の白ネギ、西の青ネギ」は、奈良時代にネギが中国から伝わった時に寒い北部由来の白ネギと温暖な南部の青ネギに分かれていたのがそのまま日本の風土にも合わせて栽培されたからと言われる。両者の境界線は、静岡、愛知から岐阜、石川、富山にいたるあたりとされる。というのも愛知には「越津ネギ」という根深ネギの主要品種が属する千住群と、葉ネギの代表的な品種が属する九条群の中間的品種が栽培されているからである。
(資料)野菜図鑑(現:野菜ブック)「ねぎ」 (農畜産業振興機構)、週刊朝日百科「世界の食べもの」日本編24野菜・果物(1982)、「47都道府県話のネタ大事典」(KAWADE夢文庫、2020年)

ネギの歴史
 原産は不明であるが、中国の西部であろうとされている。栽培は2000年以前から始められ、中国では漢民族が原始時代より栽培していたといわれている。日本では古く「き」といった。ネギは根を食べる「き」の意という。「日本書紀」仁賢紀に名が見え、「延喜式」には宮廷用のネギの栽培規定が出ている。ネギを「き」といったことから宮中の女房言葉ではネギを「ひともじ」といい、これに対してニラを「ふたもじ」と呼んだことが「大上役御名之事」に記されている。

 物類称呼(江戸時代の方言辞書。越谷吾山(本名会田秀真)著。1775年刊)によれば、「ねぎ。関西にてねぶかといふ。近江にてひともじといふ。関東にてねぎといふ。」とある。冬の季語。

 葱買て枯木の中を帰りけり 蕪村

(資料)平凡社世界大百科事典、藤田真一他編「蕪村全句集」おうふう(2000)

(2010年11月22日収録、2021年8月10日越津ネギ)


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