ここでは、東京商工リサーチの調査結果から、都道府県別に地元企業のメインバンク取引数上位3位までの金融機関の取引数シェアを積み上げたグラフを掲げた。 地方銀行の再編がにわかに注目を集めている。きっかけは、菅総理大臣が自民党総裁選挙への立候補を表明した直後に発した「将来的には、(地銀の)数が多すぎるのではないかと思う」という発言である。 そもそも地方銀行の数は多いのだろうか。 国内には現在、比較的規模の大きい「第一地銀」と、規模の小さい「第二地銀」合わせて102の地銀がある。おおむね1つの県に2つ、最も多い福岡県は5つである。 図には、各県のシェア上位3位までの銀行を掲げた。ここでシェアは、メインバンクにしている県内企業数で見ている。三大都市圏を除いて、各県ではそれぞれ地元の地方銀行が大きなシェアを占めている(各県の状況は後段)。 バブル経済が崩壊する前まで13前後あった大手銀行は、合従連衡が進み大きく4つの銀行に再編された。その一方で、地銀の数はこの30年で2割しか減っていない。減った理由もバブル崩壊による破綻や、救済のための合併といったケースがほとんどだ。 また、減った地方銀行のほとんどが「第二地銀」で、「第一地銀」の数は64行のまま維持されてきた。 こうした現状に、アメリカやドイツと比べれば数としては決して多くはないという意見もある一方で、専門家の間では人口減少が進み、地域の会社の廃業・倒産で企業の数が減っていく中では、多すぎるという指摘も多い。 人口減少、継続的な低金利政策等を背景に、地域銀行が直面する経営環境は厳しさを増し、地域にとって必要な金融サービスを将来的に維持することが困難になると懸念されている。地域銀行によってはサービス維持の手段の一つとして合併等の実施が挙げられることがある。 しかし、地方銀行の合併は独禁法で制限されてきた。すなわち、独禁法に基づく審査において地域銀行は合併等実施後の貸出市場のシェア等に係る審査を通過する必要があった。 独禁法に基づく審査においては、市場内の全企業の市場シェアの 2乗和で表される、市場における寡占度を表す指標である「ハーフィンダール・ハーシュマン指数」(以下、「HHI」と呼ぶ)による判定が行われる。 HHIは最大で10,000の値をとり(シェア100%の 2乗)、10,000 に近づくほど寡占度が高くなる。市場シェアが 40%の事業者が1社、20%の事業者が3社存在する市場においては、HHIは402+202+202+202=2,800となる。 HHIによる判定では、下に示したT〜Vの基準(「セーフハーバー基準」と呼ばれる)のいずれかに該当すれば、独禁法上問題ないとして審査が終了する。一方、セーフハーバー基準のいずれにも該当しなかった場合は、競争を実質的に制限することとなるかの判断がなされる。 T 企業結合後のHHIが1,500 以下である U 企業結合後のHHIが1,500超2,500以下で、かつ、HHIの増分が250以下である V 企業結合後の HHIが2,500を超え、かつ、HHIの増分が150以下である こうした状況下、地方銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が2020年5月20日の参院本会議で可決、成立した。11月27日に施行される。 超低金利や人口減少で収益が細る地銀の再編を後押しし、経営基盤の強化を促すためである。合併で市場占有率が高まった地銀が不当に貸出金利を上げないよう監視し、利用者保護を徹底する規定も盛り込んだ。バス事業者の共同経営にも同様の特例を設ける。 金融庁が統合・合併をめざす地銀の事業計画を審査し、収益力の向上や金融サービスの維持につながることを条件に認可する。公正取引委員会とも協議して判断する。適用期間は10年間。 地銀の合併で特定地域の市場占有率が高まると、優位な立場を利用して貸出金利を引き上げる懸念がある。このため金融庁は不当な金利の引き上げを禁止し、顧客の利便性が損なわれないよう監視する。借り手の不利益が大きいとみれば業務改善命令などで是正を求める。 この法律が出来たきっかけの1つが、ふくおかフィナンシャルグループと長崎県の十八銀行の経営統合である。 公正取引委員会が長崎県の貸し出しシェアが7割にも及ぶことを問題視して審査は難航。地方金融機関の再編を進めたい金融庁と私的独占を排除したい公正取引委員会が対立し、実際の統合は当初の計画より2年遅れることになった(2010.10.1合併して「十八親和銀行」誕生)。 関係者によると菅総理大臣は、官房長官時代にこの特例法の調整に関わり、地方銀行の再編に関心を持ったとされる。 今後、県を超えた合併(すでに県を超えたフィナンシャルグループは存在)や小売業など他業種との複合経営を認めていくかが課題となろう。 全国及び各都道府県のメインバンクの状況 図録の原データは東京商工リサーチの「2020年 企業のメインバンク」調査であるが、その公表資料では、全国的なメインバンクの状況について次のように述べられている。 「国内152万8,043社のメインバンクは、三菱UFJ銀行が12万4,691社(シェア8.1%)で調査開始以来、8年連続でトップを守った。2位は三井住友銀行の9万6,992社(同6.3%)、3位はみずほ銀行の7万9,760社(同5.2%)、4位はりそな銀行の3万7,670社(同2.4%)、5位は地銀トップの北洋銀行の2万5,198社(同1.6%)だった。 1万社を超えるメインバンクは32行と農業協同組合で、前年と同数だった。そのうち3万社を超えたのは、大都市で圧倒的な地盤を築く3メガバンクとりそな銀行。2万社超は北洋銀行、千葉銀行、福岡銀行の有力地銀3行だった。また、全体33位の滋賀銀行まで1万社超の地銀・第二地銀25行は、地元地域では大手行をしのぐ有力銀行がそろった。(中略) 銀行は、三菱UFJ銀行(12万4,691社)、三井住友銀行(9万6,992社)、みずほ銀行(7万9,760社)の3メガバンクと、りそな銀行(3万7,670社)の大手行が上位を独占した。続いて、地方・第2地銀トップの北洋銀行(2万5,198社)が続き、千葉銀行、福岡銀行も逆転をうかがう。 信用金庫は、京都中央信金が8,140社でトップ。次いで、多摩信金の6,797社、大阪シティ信金6,734社と変動はなかったが、いずれも前年より社数を増やした。 信用組合では、茨城県信組が2,989社で大差でトップ。次いで、新潟縣信組が1,239社、3位に広島市信組が1,237社、4位に山梨県民信組が1,212社と僅差で続き、2位争いが激化している」。 都道府県別のグラフを見ると、大都市圏の中心の東京、大阪、愛知やその隣接県では、都市銀行をメインバンクとする企業が多いが、それ以外では、メインバンク取引社数の4〜5割以上を地元の主要銀行が占めているケースが多いことが分かる。 そうした主要銀行の多くが、明治のはじめに設立された「国立銀行」に起源をもっている(注)。例えば、青森の主要銀行である青森銀行の前身が明治22年に開業した第五十九国立銀行であり、愛媛県の主要銀行である伊予銀行の前身は明治11年に開業した第二十九国立銀行である。宮城の七十七銀行、新潟の第四銀行など、現在の名称がそれを引き継いでいる地方銀行も多く、俗に「ナンバー銀行」とも呼ばれる。 (注)国立銀行とは、明治5年(1872)制定の国立銀行条例に基づき、政府発行の不換紙幣の整理と殖産興業資金の供給を目的に設立された銀行でり、設立順に番号が振られた。銀行券の発行権を有し、全国的に153行に達したが、同15年の日本銀行設立に伴い、同32年までに普通銀行に転じた。「第一国立銀行」は「第一勧業銀行」を経て、現在の「みずほ銀行」に、「第二国立銀行」は現在の「横浜銀行」に、「第五国立銀行」は現在の「三井住友銀行」にと、統合や合併を繰り返して名前が変わっている。 ただし、長野の八十二銀行は第十九銀行と六十三銀行が合併し、両者の数字の和を取って名付けられた銀行(82=19+63)であり、厳密には「ナンバー銀行」ではない。また、前身がナンバー銀行の地方銀行がトップ銀行とは限らない。例えば、山形のトップ銀行である山形銀行は両羽銀行として創業し、その後第八十一国立銀行の業務を継承したが、国立銀行が前身とは言えず、むしろ、第六十七国立銀行として創業した荘内銀行が山形県では唯一の国立銀行を前身とする銀行である。 都道府県別のメインバンク・シェアのトップテンを掲げると以下である。 1.山陰合同銀行(島根)65.96% 2.紀陽銀行(和歌山)62.87% 3.滋賀銀行(滋賀)61.46% 4.南都銀行(奈良)60.41% 5.山口銀行(山口)59.94% 6.宮崎銀行(宮崎)59.82% 7.肥後銀行(熊本)58.54% 8.伊予銀行(愛媛)58.09% 9.佐賀銀行(佐賀)57.50% 10.山梨中央銀行(山梨)57.17% 図で取り上げた各都道府県の1位シェアの銀行(都市銀行以外)を列挙すると、北洋銀行、青森銀行、岩手銀行、七十七銀行、秋田銀行、山形銀行、東邦銀行、常陽銀行、足利銀行、群馬銀行、千葉銀行、横浜銀行、第四銀行、北陸銀行、北國銀行、福井銀行、山梨中央銀行、八十二銀行、十六銀行、静岡銀行、百五銀行、滋賀銀行、京都銀行、南都銀行、紀陽銀行、山陰合同銀行、中国銀行、広島銀行、山口銀行、阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行、福岡銀行、佐賀銀行、十八銀行、肥後銀行、大分銀行、宮崎銀行、鹿児島銀行、琉球銀行である。 (2020年10月8日収録、10月16日十八親和銀行合併、2021年5月15日青森銀行・みちのく銀行合併合意、12月12日愛知銀行・中京銀行合併合意)
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