国民生活基礎調査の3年毎の大規模調査年に得られる都道府県別の高齢者の子どもとの別居率の推移を示した。ここで母数となっているのは子どもがいる65歳以上の者である。

 下図のように高齢者の子どもとの別居率は上昇する傾向にあり、各都道府県も全体として同じ傾向にあるが、ここでは、地域別の差に着目しよう。


 子どもがいても子どもと同居していない(すなわち別居している)高齢者の割合は2022年に51.8%と半分強であるが、この値の高い地域のうち上位5地域は、割合の高い順に鹿児島(66.9%)、北海道(64.5%)、宮崎(61.6%)、山口(59.8%)、大阪(59.7%)である。

 過去の推移を見ても、ほぼこの5道県が上位を占めている(大阪はやや低いが)。北海道を除くと西南暖地等に位置する地域である点が目立っている。とくに鹿児島は、以前は2位以下を大きく引き離していて、子どもとの別居率の特に高い県だったことが分かる。

 その理由として考えられるのは、17世紀後半以降、日本全国でそれまでの分割相続から単独相続への移行がおこり、いわゆる「家」制度が成立していったが、鹿児島地方だけその転換が起こらなかったためと考えられる(坂根嘉弘「日本伝統社会と経済発展」農文協、2011年、p.44〜45)。

 分割相続では、長男・次男が結婚すると世帯とその財産が次々と分離され、老夫婦は独立の生活をするが、老夫婦が自力で生活するのが難しくなると、末子がこの老夫婦の面倒をみる。老夫婦がなくなったあとはその財産を最後に面倒を見た末子が引き継ぐのである(いわゆる末子相続)。

 こうした制度の名残が残っているので、高齢者の子どもとの別居率が鹿児島で特に高くなっているという訳である。

 何故、鹿児島だけ「家」制度が成立しなかったかについては、「政治経済的には、門割(かどわり)制度(藩による耕地割替制)により、農民世帯と耕地(門地)とが固定せず、農民層に家産観念が形成されにくかったためと考えられる。(中略)経済的には、開発フロンティア(未開墾地)が広範に存在し、労働力が土地に対して稀少である資源賦存状態のもとで、農民の開発集団としての性格が強く、そのような状況に開拓分封としての分割相続形態が適合していたためと思われる」(同上)。

 日本的なムラは構成メンバーの安定をもたらす「家」制度と相補的である。鹿児島においては「家」制度だけででなく、「村」制度も未成立だった。この点については鹿児島地方の農業集落の領域確認率の低さについてふれた図録7826を参照されたい。

 一方、鹿児島の正反対に、高齢者の子どもとの別居率が一貫して低い地域として推移しているのは山形である。

 こうした地域特性がひとり暮らし比率の地域差にもあらわれている点については図録7243参照。

(2021年12月15日収録、2024年1月2日更新)


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