東京の地下鉄は世界1である。ただし、路線延長がではなく利用客数がである。

 世界の地下鉄については社団法人日本地下鉄協会のHPに掲載されているが、2013年1月現在掲載データでは、北京、上海の路線延長は、それぞれ、199q、330qとなっており、両方ともなお世界1ではなかった。その後、両者とも、特に北京で地下鉄の建設が急ピッチで進み、今や、中国のこの2都市が世界最長の地下鉄路線延長となっているのである。図の通り、現在1位は上海、2位は北京である。

 日本では地下鉄の都心から郊外への延伸は私鉄路線への乗り入れ輸送が中心となっており、最初から都心の地下区間から地上を走る郊外路線まで連続して直通で整備された地下鉄路線と路線延長で比較するのは適当ではないという考え方も成り立つ。地下区間だけの延長キロの比較では東京はもっと上位となるのではなかろうか。東京のメトロ線と都営線の地下鉄ネットワークの密度の濃さや複雑さが世界1でない方が意外なのである。東京の地下鉄の利用客数が断然に世界1という事実がこれを裏づけていると考えられる。

 少し前のデータであるが次の引用の通り、ロンドンの地下鉄は地下区間が路線延長の半分以下であり、逆にパリの地下鉄(RERを除く)ではほとんどが地下区間である。「世界最古の歴史をもつロンドンの地下鉄はロンドン運輸公社の経営で,8路線388km(うち164kmが地下区間),輸送人員4億9800万人(1982)となっている。この地下鉄はチューブと呼ばれる深層線で,場所によっては地下50m以上に達している。パリの地下鉄は1900年に開通し,パリ運輸公社の経営で,15路線192km(うち177kmが地下区間),輸送人員11億3000万人(1982)となっている。このほか郊外高速地下鉄(RER)が38年から開通し,現在2路線103kmが運営されている。」(平凡社世界大百科事典)

 地下区間の多い東京やパリの地下鉄、またモスクワやニューヨークなど都市内交通としての側面が大きい地下鉄では図の通り、路線延長と比較して利用客数が多いのが特徴である。

 なお、逆に、地下鉄の車両が直接到達する地点までを地下鉄網と考えて試算すると、私鉄やJRとの相互直通乗り入れが特徴の東京の路線長は867kmに達し、世界一の路線長を誇る地下鉄ネットワークとなる(石島 徹「世界の地下鉄と日本の地下鉄」『運輸と経済』2017年10月号)。

 The Economist(2013年1月5日号)によれば世界では巨大都市の成長に伴って1960年代から地下鉄建設が加速され、現在では190もの都市で地下鉄が走っており、さらに増える勢いである。

「2012年には、中国の蘇州、昆明、杭州やペルーのリマで地下鉄が開通した。アフリカではカイロに続きアルジェが2番目の都市として2011年に新しく地下鉄を保有した。(中略)

 インドでは、お定まりの遅延や政府と施工業者のといさかいの後ではあるが、バンガロールで2年前に地下鉄が開通し、もうすぐムンバイでも開通する。ボーパール、ジャイプルといった大都市以外でも計画中である。ブラジルではリオデジャネイロとサンパウロという主要2都市で不備な地下鉄を拡張しつつあるほか、サルバドールやクイアバといった大都市以外でも建設中である。

 地下鉄は湾岸諸国のようなかつてだったらあり得ないような場所でも建設中である。ドバイでは2009年に、メッカではその1年後に開通した。今やアブダビ、ドーハ、バーレーン、リヤド、クウェートで計画が進行中である。クルマを走らすのに十分なオイルがあるからといってよりグリーンになろうとする意欲がくじかれることはないようだ。「地下鉄がとっても走りそうでない都市」での将来候補としてはパラグアイの眠れる都市アスンシオン、そしてネパールのカトマンズなどが挙げられる」。

 世界の地下鉄のホームドア設置に関しては、地下鉄の歴史が新しいほど整備率が高いことが、アジア主要都市では80%〜100%であるのに対し、日本では約半分と遅れている点にうかがわれる(下図参照)。アジア主要都市で整備率が高いのは、近年は、地下鉄の建設段階からホームドアが標準装備されている例が多いためである。

 また、地下鉄の歴史が日本より古い欧米主要国ではホームドアの整備は日本以上に遅れている。「ニューヨーク、モスクワはゼロ。パリは365駅のうち47駅にとどまる。ロンドンの地下鉄は270駅のうち11駅のみという」(毎日新聞2016.12.29)。


(2013年2月1日収録、2016年12月29日世界の地下鉄のホームドア整備率、2019年10月5日更新)


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