2019年4月に池袋で発生した暴走事故をはじめ、高齢ドライバーによる深刻な死傷事故が相次いだことにより、高齢期、特に75歳以上の後期高齢期におけるクルマの運転の是非が社会問題化している。内閣府では高齢社会の問題に対する対策を考えるために、各国の高齢者に対する調査を5年おきに実施しており、これをもとに、図録6373では、「高齢者が利用する交通手段の国際比較」を掲げた。ここでは、同じデータを用い、自分で自動車を運転して外出している高齢者の割合を時系列と年齢別にグラフにした。

 時系列グラフを見るといずれの国もだんだんと高齢者が自分でクルマを運転して外出する比率が上昇する傾向にあることが分かる(例外的にスウェーデンだけは2010年から15年にかけて比率が低下)。

 日本は、クルマ社会化が世界トップの米国のみならず、ドイツ、スウェーデンと比較しても、マイカー外出比率のレベルはやや低いが、上昇傾向では他国と比べて遜色がない。

 こうしたマイカー外出比率の上昇は、@マイカーの普及、A世帯分離で息子など同居家族に移動を頼れない、B公共交通機関の利用困難、Cマイカー利用を前提とした商業・サービス施設の立地、といった要因で生じていると考えられる。

 調査では、選択肢の中に「自分で運転する自動車」のほかに「家族などの運転する自動車」、「バス・路面電車」があり、こうした要因と関連しているのでグラフ中に同時に掲げた。日本のデータを見ると、「家族などの運転する自動車」には高齢夫婦相互の同乗も含んでいるが、2015年までは低下傾向にあり、Aの要因がうかがわれる。もっとも2020年には上昇した。「バス・路面電車」は2000〜05年は低下していたがその後は横ばいである。Bの要因は最近は大きくないのかもしれない(ドイツでは2005年以降この要因が大きく働いていそうであるが)。

 なお、徒歩での外出は、日米だけで比較するとマイカー利用と反比例しているように見えるが、欧州のドイツ、スウェーデンでは、マイカー利用が日本以上であるのに徒歩も日本より多く、マイカー利用が必ずしも「歩かない」習慣に直接むすびつく訳でもないことが分かる。

 参考までに、最新年の調査がない韓国とフランスの過去調査の結果を以下に掲げておいた。韓国のモータリゼーションはなお低いレベルに止まっていたこと、フランスはドイツ以上に高齢ドライバーが多かったことが分かる。


 韓国、フランスの過去データを含めて、高齢者のマイカー利用と代表的な公共交通機関であるバス・路面電車利用との相関図を以下に描いた。韓国と米国を両端としてマイカー利用と公共交通機関利用とは反比例の関係にあることが分かる。日本などその他4か国は韓国と米国の中間の位置にあるが、その中で日本はマイカー利用がそれほど高くない割にバス・路面電車利用が少ないことが分かる。それだけ不便をしているということであるので対策が必要であろう。


 5歳階級別の集計結果のグラフを見ると、日本の場合、2020年のマイカー外出比率は、60歳代前半の77.4%から70歳代後半に45.5%と5割を切り、80歳以上には20.6%にまで低下する。

 2005年と比較するといずれの年齢でも上方シフトしている点が目立っている。ただし、直近の2015〜20年の動きを見ると75歳以上で横這いないし低下の傾向も見られる。高齢ドライバーの死傷事故が大きく報じられ、その影響で高齢者の免許返上の動きも見られた影響であろう。

 なお、高齢者数自体も大きく増加しているので、全体として年齢を問わず高齢ドライバーの増加が著しいことがうかがわれる。

 米国では75歳以上のマイカー外出比率の上昇が目立ち、ドイツでは65歳以上の上昇が目立っている。米国では80歳まで85%以上が自分でクルマを運転してふだん出かけているというのだから驚く。高齢ドライバーの事故対策は、米国の場合、いったいどうなっているのだろうか。

 内閣府による2018年の調査結果によると、マイカー外出比率は2015年段階より上昇していた(下図参照)。なお、同調査によると、地域別の高齢者のマイカー外出比率は、東京23区や政令指定都市の50.0%に対し、人口10万人未満の市は72.9%、町村は75.5%だったという。


(2019年6月6日収録、6月7日スウェーデンについてのコメント、6月16日韓国とフランスのデータ、相関図、2021年6月25日更新、2023年7月19日徒歩データ追加)


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