鉄鋼生産は国力や産業力の基礎としての性格をもつため主要国では国内に一定の生産基盤を有し、8割程度以上の自給率を維持している(各国の粗鋼生産量世界シェアは上図)。

 日本は、2018年以降はインドに抜かれ世界第3位となっている。

 粗鋼生産の推移を国際比較した冒頭の図録を見ると、生産地域は、日米欧露から徐々に世界各地に拡大しており、特に、中国の粗鋼生産量が1996年から連続して世界一となり、2002年には過去世界最大規模であった1988年のソ連を越えるなど、中国、インド、韓国などのアジア地域の台頭が目立つようになっている。

 この結果、第2次世界大戦後、1973年のオイルショック時までに急拡大した世界の鉄鋼生産は、その後、ほぼ7億トン台で推移していたが、2000年には8億トン台、2002年には9億トン台、2004年には10億トン台、2005年には11億トン台、2006年には12億トン台、2007年には13億トン台へと再度拡大基調へ転じた。

 ところが2008年後半に突発した世界金融危機が実体経済にも急速に波及した結果、年末にかけて鉄鋼生産も大きく落ち込み、その結果、2008年、2009年と2年連続で対前年割れ、2009年実績値は12.4億トンと前年を大きく下回るに至った。しかし2010年以降は持ち直し、2019年には18.7億トンと過去最大となっている。

 2015年には世界の鉄鋼生産の拡大の最大の寄与者であった中国の生産がはじめて前年割れとなり、世界全体の生産量も減少に転じた。生産減になったのは中国だけではない。米国は、ドル高で鉄鋼製品の輸入が増えたため、また日本や韓国は中国の鉄鋼メーカーが過剰に生産した製品を大量に東南アジアなどへの輸出に回したあおりを受け、生産量が減少している(毎日新聞2016.1.27)。鋼材市況もこれにともなって大きく下落した。中国が国内で消費しきれない製品を安値で輸出している量は「日本全体の粗鋼生産量に匹敵する1億トン以上に上る。中国が東南アジア諸国連合(ASEAN)に輸出する自動車や電気機器向け鋼材の場合、2015年11月時点で1トン当たり344ドルと、12年1月に比べて半額以下に下落。中国以外の国の輸出価格もあおりを受けて大きく値下がりしている」(毎日新聞2016.3.6)。このため世界の主要メーカーは軒並み赤字に転落、リストラを迫られた。日本メーカーも業績が悪化し、将来の市況反転をにらみ、新日鉄住金は2月、鉄鋼国内4位の日新製鋼の買収し、高炉1基を休止する日新製鋼に材料を供給することで稼働率を改善することとなった。また「JFEや神鋼も、中国の過剰生産が問題となる以前からコークス炉の建て替えや高炉の集約などコスト削減を進めており我慢比べには自信がある。リストラに追われる海外メーカーからシェアを奪うチャンスもありそうだ」という(同)。

 しかし、中国、インドといった新興国(また一時期の韓国)の生産増の勢いが著しく、先進国との間のシェア格差は広がる状況は、インドを除いて、一段落したといえるかも知れない。なお、生産量ではドイツと肩を並べていたウクライナの粗鋼生産量は国内紛争の影響で2014〜15年と落ち込んでいるのも目立っている。

 戦後を振り返ると、日本の鉄鋼生産は、1953年に操業開始した川崎製鉄千葉を嚆矢として、太平洋側臨海部における一貫製鉄所の建設が相次ぎ(50〜72年に実に12カ所)、大型高炉、ホットストリップミル、純酸素転炉など最新鋭の設備が続々建設されたため、高度成長期に著しい伸長を遂げ、1973年には、人口規模で2倍以上の米国と肩を並べる1.2億トン水準に達した。鋼船の大型化に支えられた海運の発達と海上運賃の低下により、英独米の製鉄立地に見られるように、それまで国内の炭田や鉄鉱石鉱山に隣接した原材料立地が中心だった鉄鋼業について、太洋に面した臨海部立地と無駄の少ない一貫製鉄所の優位性を本格的に世界に示す結果となった。

 オイルショックは鉄鋼需要の低下と原燃料コストの上昇から日本の鉄鋼業に大きな影響を与えた。その後の「軽薄短小」化傾向もあって鉄鋼需要は伸び悩み、GDPが成長したにもかかわらず国内生産量は1億トンを前後する水準で推移した。高炉各社は量的拡大に頼らない生産性の向上と需要家ニーズに対応した高級鋼の開発を進めた。要員削減や過剰設備の処理などとともに、連続鋳造に代表される工程の連続化や副生ガス利用などの省エネルギーを進めた。1980年代中頃の円高不況における設備の休・廃止とその後のバブル景気における需要の高まりなどを経て、生産規模は1990年代まで1億トン前後で増減を繰り返していた。

 21世紀に入るとアジアの成長による鉄鋼輸出量の拡大により、内需の長期低迷にも関わらず生産規模は上昇傾向に転じた。そして2007年には1億2,020トンと過去のピークである1億1,932トンを上回るに至った。ところが2008年には世界不況突入により、世界全体と同じくマイナスに転じ、2009年には世界を大きく上回る急激な減少となった。もっとも2010年以降は1億トンを再度上回る回復となった。その後、1億トン台を維持していたが、2019年には再度1億トンを割り込んでいる。

 日本の鉄鋼業界は近年、国内市場の縮小と原料価格の高騰、中国企業の過剰生産による製品価格の下落という「三重苦」に見舞われてきており、国内鉄鋼最大手の日本製鉄が2基の高炉を持つ広島県の呉製鉄所を2023年9月末までに閉鎖すると2020年2月に発表するなど業界再編の動きが見られる。

 粗鋼生産量の対世界シェアをみると1973年に17.1%に達した後、長期的に低落してきている。GDPの世界シェアはそれに遅れること20年後の1994年に粗鋼生産量のシェアの過去のピークとほぼ同等の水準である18.0%に達した後、減少に転じている点が興味深い。粗鋼生産量では2005年に世界シェア1割を切り、GDPでは2006年に1割を切っている。ただし最近でも鉄鋼の世界シェアがGDPの世界シェアを上回ることが多く、鉄鋼の国際競争力が失われたとは単純にはいえないことを示している(図録47504800参照)。

(リンク)

 この図を使った鉄鋼産業の分析を含む調査報告書(「内航海運から見た素材型産業の物流コスト効率化に関する調査報告書」2003年)は日本内航海運組合総連合会のホームページに全文掲載されている(第2部が鉄鋼編)ので興味のある方はご覧下さい(骨子 本文(鉄鋼・石油・ケミカル・セメント))。

(2005年1月19日、1月22日更新、2006年3月6日更新、2008年1月4日更新、2009年1月23日更新、2010年7月20日更新、2011年2月3日更新、2012年6月26日更新、2013年3月1日更新、2014年3月1日更新、2015年1月30日更新、2016年1月27日更新、3月6日毎日新聞2016.3.6引用、2017年6月26日更新、6月27日世界シェア図、2018年2月21日更新、2019年2月15日更新、2020年2月18日更新、2021年3月12日更新、2022年4月13日更新、2024年3月9日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 産業・サービス
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)