ここでは、調査結果の企業数、及び当図録で計算した人口当たりの企業数をグラフに掲げた。Wikipedia情報から世界の老舗企業を整理したデータは図録5408参照。 企業数を見ると、創業100年以上でも200年以上でも、日本の企業数は米国を抜いて世界1多くなっている。特に創業200年以上の企業数は世界の中でもずば抜けて多いことが分かる。 日本や米国に次いで企業数が多い国を見ると、ドイツや英国が日米に次いでいる。ただし、創業100年以上ではスウェーデンが日米に次ぐ第3位と多くなっているのが目立っている。 米国は人口や経済の規模が日本の数倍と大きい。逆にスウェーデンは人口が1000万人と規模の小さな国である。規模の大きさを考慮したランキングは人口当たりの企業数を見るのがよい。 人口当たりの長寿企業数では、創業200年以上ではやはり日本が世界1であるが、創業100年以上では、むしろ、スウェーデンが日本を圧倒して世界1位となっている。普通、創業100年以上と200年以上とでこんなに食い違いが出るのは少し妙である。企業の登録手続きに国ごとの差異があるのではないかと疑われるが、元サイトにその記述はない。 なお、人口当たりの長寿企業数のランキングを見ると米国の順位はずいぶんと低下することが注目される。創業100年以上では6位、創業200年以上では7位にまで低下するのである。米国は、この2世紀間に躍進を遂げた若い国であることがうかがわれる。 一方、人口当たりでは、オーストリア、ドイツの順位が上昇している。ゲルマン系の国では職人や伝統を重んじる気風があるという点と整合的な結果である。 何故、長寿企業が日本ではこんなに多いのかについては、当然、疑問が生じて然るべきであるが、日本人は職人精神をもっているといった単なる言いかえに過ぎない日本人論を持ち出すのではなく、歴史的な根拠にもとづき合理的な説明を行っているのは、私の知る限り経済学者の寺西重郎だけである。 日本の宗教改革は西欧と同様に、宗教界が知識や修行による救済を独占し、多くの場合、それをテコに非宗教界から財・サービスを無暗に奪うという堕落した状況を打破するため、西欧では信仰・聖書第一主義、日本では専修念仏やその派生形である読経や座禅といった一般の生活者でも可能な救済に至る簡易な方式を考案し、それを宗教的に理論づけた。これを「鎌倉新仏教の易行化」と呼び、それがその後の日本社会に及ぼした影響は極めて大きく、それが世界の中でも日本特有の資本主義精神を形成する契機となったと寺西重郎はいっている。「南北朝以降の日本社会では、僧院での修行に変えて、日常の職業生活や趣味的生活において、それらを道として精進するという宗教的な動機での職業的求道行動が広くみられるに至った」(「日本型資本主義」中公新書、2018年、p.85)。 すなわち、救われたいというある意味では不純な動機であるとはいえ、否、そういう不純な動機だからこそ、庶民にまで幅広く職業的な求道精神が形成され、その結果、日本では、個人の生涯を通した職業人としての研鑽だけでなく、親から子、師匠から弟子へと「道」として受け継がれる企業活動に価値をおく経済行動が主流になったという訳である。ドイツ、スウェーデンなど宗教改革の結果生まれた新教国で日本と同様に長寿企業が多いのは、やはり何か符合する動きがあったと見ることもできよう。 (2021年6月21日収録)
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